朝の光が疎らにこぼれ落ちる木々の間をさくさくと通り抜ける。
早朝の今の時間は空気が程よく冷たく、澄み切っていてとても気持ちがいい。
少し奥まで進んで行けば開けた場所に出た。ここは私が毎朝瞑想をするために訪れる所だ。
毎日欠かさず行っているこれは元の世界からいた時からの習慣だ。
私の前の師匠から毎日必ずやること、と言われていたのでもう染み付いてしまっている。

適当な位置に座り、静かに目を閉じた。
深呼吸を繰り返して、体の中を流れる魔力を感じ取る。
頭のてっぺんから爪先まで。隅々を緩やかに流れる川のイメージで魔力を巡らせる。
これを行うことで集中力や精神力が増したり、より良い魔法を生み出す為の基礎になる。
ゆっくりとその流れを感じ取っていると、周りを飛んでいたルフ達がぴいぴいと鳴いた。
この白い鳥みたいなのはルフというらしい。
最初は魔物かと思ってびびっていたのは記憶に新しい。

木葉が擦れてさらさらと音を立てる。
小鳥が目覚めたのか可愛らしい声で鳴いていた。
暫く集中して、ぱっと目を開けるとようやく自分以外の人の気配がすることに気がついた。
そっとそちらの方を見遣れば、私の隣でマスルールさんが横になって眠っていた。
マスルールさんはたまにこうして私の隣で寝ている時がある。
最初は集中しているために全然気配に気づかなかったから、隣にごろりと人が寝転がっててたいそう驚いた。
その後も度々気づくと傍で寝ていたので理由を尋ねてみれば「何か落ち着くから」と答が返ってきた。なんでだろうか。
自分ではよく分からないのでそうですかとしか返事していないんだけども。

座っていた姿勢を崩して改めて寝顔を拝見する。なんともまあよく眠っていらっしゃる。
ジャーファルさんがよく朝の八人将での衆議にマスルールさんが来ないとぼやいてたからなぁ。よっぽど眠いのか。
寝る子は育つと言うけれどマスルールさんはもう育たなくてよいのでは…。
私はまだまだ身長とか伸びてほしいけど。

大体ここの人達は背が高い。おかげで首が痛くなってしょうがない。
ピスティさんは私より少し高いだけで丁度いいのだけど。(本人にそう言えばチョップされた)
そんなことをぼんやり考えていると、私もなんだか眠くなってきた。
マスルールさんがあまりにも気持ちよさ気に寝てるからだ、と言い訳しながら隣に寝転がる。
隣からふわりと森の香りが漂ってきた。
私の傍は落ち着くと言っていたけど、それは私も同じでマスルールさんの隣は安心できる。何と言うのだろう。
この自然体な感じとかよく知った木々の香りがするからだとか、言葉では表せないようなものを持っていると思う。
存在だけで人を落ち着かせるような、安心するような、そんなオーラをマスルールさんは持ち合わせている。
だんだん瞼が重くなってきて、押し寄せる眠気に身を任せることにした。

いいや、このまま寝ちゃおう。
目を閉じて穏やかな空気に包まれるのを感じながら私は意識を手放した。









*****









ゆったり浅い所で行ったり来たりしていた意識が急浮上した。
目を開けると横に寝転んでいた筈のマスルールさんが起きていた。
ぱちぱちと瞼を瞬かせるとマスルールさんもこちらを見つめてくる。
覚醒しきらない思考で私もマスルールさんを見る。暫しの沈黙。
ややあと私は頭を降ってふにゃりと笑う。


「おはようございます。」

「…おはよう。」


短い返事が頭の上から降ってきた。
まさかマスルールさんが先に起きているとは思わなかった。結構熟睡してたしなぁ。
空を見上げて太陽の位置を確認しようとするが、木々が頭上を疎らに隠していてわからない。


「もしかしてなかなか寝てましたか。」

「いや、そんなことはない……多分。」

「おお…多分ですか。」


付け足された多分にいささか不安を抱きつつ、欠伸をそっと噛み殺す。
まだ少しぼんやりしていると落ち葉や草を踏み締める音が聞こえた。
反射的に音のした方に振り向けば、ジャーファルさんが立っていた。


「マスルール!あなたはまたこんな所で居眠りして!
 朝の衆議には必ず参加するよういつも言ってるでしょう!」

「…すみません。」

あなたまで一緒になって眠るとは…。」

「何で分かるんですか?」

「寝癖がついてますよ。」


あと葉っぱも。
そう言ってジャーファルさんは呆れたように葉っぱを取り、それから髪を整えるように撫でつけた。


「ヤムライハがの事を探していましたよ。」

「そうだ!お師匠様と魔法の研究をする約束でした…!」

「なら早く行ってあげなさい。いつもの部屋で待っていると言ってましたから。」

「そうですか、ありがとうございます!
 では、失礼します。ジャーファルさん、マスルールさん。」


ぴっと礼をして慌ててその場から走り去る。
うっかり寝過ごしてしまったけどお師匠様怒ってるだろうな。
森を抜ける途中で飛んでいった方が早いと背中に背負っていた杖に跨がり浮遊魔法を唱えた。


「お師匠様怒ってるかな……。」


ふわふわと空を飛びながら、お師匠様へのお詫びを考える。
とにかく謝るしかないな。
気を取り直して杖を握る手を強めるとお師匠様への部屋まで全速力で飛ばしていった。











14.1.25