と春助は双子の兄妹でぼく達の仲間だ。
彼らはとにかくいつも明るい。そしてさわがしい。
この旅は苛酷なもので命のやりとりを何度となくこなしているというのに、二人はいつも自分のペースを崩さず、表情豊かで楽しそうだ。
最初はその自由な様をまじまじと見て、彼らは大丈夫なのかとかやっていけるのだろうかと心配したものだが
そんなものは杞憂で、分け隔てない接し方にいつしかほだされていたのだった。
兄妹というと一般的にはどちらかがしっかりするというのが常だけれど、彼らはどちらもマイペースである。
強いて言うなら少しの方がしっかりしているように見える。…でもそんなに変わらないのかもしれない。
というのも、ある時はふらふらと興味の引かれるものの方へと行こうとする春助を掴まえて―
「もう春助、勝手に行ったらダメだよ」
「だってあれ見てみろよ!あのおっさんすげー変な頭してる!」
「うわ本当だ。何あの髪型!どうなってんの」
「ちょっと近くで見てみようぜ」
「おー」
そうして最初は引き留めていた筈のまでもがいっしょにどこかへ行こうとしてしまう。
結局ぼくがを捕まえ、承太郎が春助を捕まえてずるずると引きずっていく羽目になる。
何をするか見当がつかずまったく目が離せないのだ。
だから今回のこともまた予想の斜め上をいっていた。
ホテルの自室に戻ろうと廊下を歩いていたら、背後からばたばたと足音が聞こえてきた。
たぶんこの足音はと春助だ。
公共の廊下を走ってはいけないよと注意をしようと振り返った所でがしりと両腕を拘束された。
「えっ、ちょっと―!」
「何も言わず助けてくれノリさん!すっげえまずい状況なんだよ!」
左腕に掴まっている春助が必死の形相で言う。
それをなんだどういうことだと疑問に思いつつ黙って右腕に掴まったを見れば「ごめんねー」と苦笑い。
とにかく来てくれとよく分からないまま、ぼくと承太郎の部屋の隣、つまりと春助の部屋へと連行される。
そのままベットに座らされて、向かい側のベットに二人が腰掛けた。
「で、いったいどうしたっていうんだ」
「実はさ…」
そろりそろりと春助が背後から取り出したのは承太郎の帽子だった。
「帽子?これの何がまずいんだい?」
「ほら、ここよく見て」
が指をさしたほうをよくよく見れば穴がぽっかり空いていた。
もう使えないくらい大きな穴ではないがしっかり見れば分かる程度の大きさはある。
「これは…」
「な、やばいだろ」
「いや、そもそもなぜ穴なんて空いたんだ」
二人が言うにはぼく達の部屋に遊びに来ていたらしいのだが、承太郎はその時たまたま帽子を脱いでいた。
そしてジョースターさんに呼ばれて帽子を置きっぱなしで席を外したそうだ。
めずらしいこともあるものだと思ったが、春助がいつものように悪ふざけで承太郎の帽子を被ってモノマネをして遊んでいた。
「そしたらよ、ついうっかりスタンド出しててさあ。矛でちょいっと突いちゃったんだよね」
あはは、と春助が笑って言った。
なんてしょうもない。思わず大きくため息をついてしまった。
「そんなうっかりやる方が難しいよ」
「だよねー。ほんと春助はバカだなあ」
「バカ言うな!」
「は何で春助といっしょにぼくを連れてきたの」
「まあ付き添いで」
なんともまあこの二人らしい。
へらへらしてると思えばうって変わって春助は顔を青ざめさせ「どうしよう」としきりに呟いている。
「素直に謝ればいいじゃないか」
「そうだそうだ」
「他人事だと思って!お前もモノマネ笑ってたじゃんかよー」
「やったのは春助だし」
「そんなにおもしろかったの?」
「うん。春助やったげなよ」
「今はそんな場合じゃねえだろうがよー!」
両手をベットに叩きつけるもぼふんと間の抜けた音が出るだけだった。
そのままおいおいと項垂れる彼を見て、と目を合わせて同時にため息をついた。
「だからさー、典明の言うとおり正直に謝ったほうがいいんだって」
「謝るよ、謝るけどさ!絶対あれだよオラオラやってくるよ」
「まさか承太郎も春助にそこまでは―」
言いかけて普段彼らが承太郎にちょっかいをかけたり、勝手気ままな行動を諫める時の様子を思い出す。
力一杯引きずったりヘッドロックしたりアイアンクローをかけたり他いろいろ。
割と散々な扱いであったことに気づいた。
言いかけて不自然に言葉を切ったので「ほら!やっぱりオラオラだ!終わった!」と頭を抱えてしまった。
そんなに嫌なら最初から余計なことしなきゃいいのにと思うのだが、彼らの場合後の事よりその時のおもしろさなんだろうな。
ぐだぐだと管を巻く春助とそれに律儀に受け答えする。
そんな中扉がノックされる音がしたのだが二人は気づいていないようだ。
仕方なく開けに行くとそこには承太郎が立っていて、しまったと一瞬思ったが、まあどのみちすぐに分かることだしと言葉を飲み込んだ。
「おい、あの双子知らねえか。俺の帽子が無くなってたんだが」
「うん。そうだね、入れば分かるよ」
説明がないぼくの態度に承太郎は怪訝そうだ。
とりあえず彼を通してやれば、まずが気づき「承太郎」と名前を呼ぶ。
それにびくりと大袈裟に春助が反応して、錆び付いた機械のようにギリギリと首をひねった。
「よ、よう。承太郎」
「…てめえが何をしでかしたか大体把握したぜ」
「違うんだよお!わざとじゃないんだって!事故!事故だから!」
穴の空いた帽子と顔色が悪く焦っている春助を見て
瞬時に状況を理解した承太郎は半泣きになりながら謝る春助の首根っこを掴んだ。
「ま、あとはゆっくり話を聞くぜ」
「それはどういう意味ですかやめてください承太郎さんー!、ノリさん!助けて!」
「さっさと謝らない春助が悪い」
「穴を空けたのはキミのせいだしな」
「薄情者ー!」
まったく人聞き悪いな。
ちらっと見上げた承太郎の顔が少し面白がってるように見えたので、本気でぶちのめしたりはしないだろう。
「承太郎、帽子は私が繕っとくから安心して」
「ああ。頼む」
「まかせて」
ずるずると春助が部屋の外に引きずられて行くのを見送って、扉が閉まるとと顔を合わせて笑った。
*****
春助と承太郎がいなくなってから部屋は一気に静寂に包まれた。
普段は賑やかなのが常であるのがだけれど、こういう静かな落ち着きも持っているのが彼女だった。
会話が少なくとも不思議と気まずさはなかった。
むしろこの静けさが落ち着くと感じるようになったのはいつからか。
向かいのベットに腰かけては承太郎の帽子を繕っている。その手際の良さに感心した。
「裁縫なんてできたんだね」
「まあね。女の子ですから」
「そうか。ふふ、女の子」
「ちょっとそこで何で笑うの」
失礼しちゃうと怒ってみせているがきっとそんなに怒ってはいないのだろう。
その証拠に口元が少し笑っている。
その間にも針はすいすいと動いていて、あっという間に穴を塞いでいく。
「うまいもんだな」
「けっこう裁縫は自信あるんだ。でも逆に料理はそんなに得意じゃない」
ぷつりと糸を切って「できた」とは満足げだ。
穴はどこに空いていたか分からないくらい正確に埋まっていて、すごいなと素直に感想を言えばは嬉しそうに笑った。
「料理は春助が一等上手なんだよ。
凝ったものもそうだけど、冷蔵庫の余り物でもなんでもおいしくできちゃうの」
「へえ、それは意外だな」
「ね、意外でしょ。そうだこの旅が終わったら家に遊びにおいでよ。
春助がごちそう作ってさ、承太郎もみんなも呼んで遊ぼうよ」
「それはいいね。今から楽しみができたな」
「学校も典明転校してすぐこんなことになったからいっしょに過ごせてないし
もう私たちは卒業まで残り少ないけれど、それでもこのメンバーで学生生活ってのも楽しんでみたいよね」
「そうだな。学校では何も言わずに出てきたからいろいろと噂が立ってそうだけど」
「確かにー。というかその前に出席日数足りなくて留年しそうだけどね」
「でもそれならまだしばらくは学生でいられるな」
「お、それもそうだ」
なら留年も悪くないと満更でもなさそうだ。
ぼくも実際と同じように思ってしまっていて、昔の自分が見れば大層驚いただろう。
それくらい彼らといることが当たり前で楽しくて馴染んでしまった。
「楽しみだね」
「ああ」
DIOを倒して、ホリィさんの容態も回復して、それから両親や先生にたくさん怒られるだろうけれど
の言うそう遠くない明るい未来が早く訪れればいい。そう心から願った。
いとおしむべきまひらの子
16.2.27