DIOをなんとか倒したものの、一行は満身創痍、ぼろぼろの状態であった。
全員生きているということが奇跡なほど、厳しい戦いであったが、辛くも勝利することができたのだ。
SPW財団の病院で治療を施してもらい、しばし全員入院生活を送る羽目になった。
以外は全員同じ病室で、仲間外れ良くない、とは不満そうであったが一応彼女は女だからという配慮である。
完治とまではいかなくてもそろそろ動けるようになり、あと数日で退院だという頃のこと。
いつものようにがみんなのいる病室に遊びに来ていて、春助のベッドに座り雑談をしていた。わりと具合はいいようである。
からからと笑っていたと思ったら春助とは突然ぴたりと笑うのを止めて、先程とは変わってさっと顔を青ざめさせた。
「おい、どうしたんだ二人とも」
アヴドゥルがその変わりように声をかける。
他の者もいったいどうしたのかと怪訝そうだった。
「具合でも悪いのか?」
「いや、そうじゃあないんだ。体調はいいんだけども」
春助に同意するようにもふるりと首を振った。
じゃあどうしたというのだと皆が促す。
「ほら、もうすぐ私たち日本に帰るでしょう」
「日本に帰るってことはつまり、必ず通らなくちゃあいけない試練がある…」
「試練だって?」
花京院は訝しげに呟く。
二人は真剣な表情でその様子は敵のスタンド使いと相対する時に見せる緊迫感であった。
ただならぬ雰囲気の二人にそれは何だとポルナレフが促せば、春助がその重い口を開いた。
「母さんに謝らなければいけないことだ」
きりっとした決め顔で言っているが、端から見れば大したことはない話である。
彼らもなんだそれはと思わずずっこけそうになった。
「なんじゃしょうもない。
小さい子どもじゃあるまいしそんなビビることじゃあないじゃろう」
「全ッ然しょうもなくねえんだよじい様!
みんなは母さんの恐ろしさを知らねえからそんな事が言えるんだ!」
「そうだよ!私たちただでさえ昔から色々やらかしてきてるのに今度は無断長期外泊に音沙汰なし
今までで一番ヤバイんだからどんな仕置きがくるかわからないよ!!」
「ああ、DIOとやり合うよりやべえ。
下手すりゃせっかく治癒した傷も上回るくらいの返しがくる!」
二人はわっと顔を覆ってそんなことを絶望的だと言わんばかりに叫んでいる。
どんな敵とやり合った時よりも恐れて動揺しているのを皆は見て、いったいどんな母親なんだと思った。
「それってどんな母親だよ」と実際ポルナレフが尋ねると二人は青い顔のまま真面目に
「ゴリラ、いや鬼か」「鬼より化物より恐ろしい」とぶつぶつ言うのでますますどのような母親なのか気になった。
*****
財団の医療技術と当人らの回復力もあって、ケガもずいぶんとよくなった。
無事に退院し、一刻も早くホリィの顔を見たいと言うジョセフにならい一行はそれぞれの国に帰ることとなった。
ポルナレフはフランスへ、アヴドゥルはそのままエジプトに、イギーはSPW財団の所へ
ジョセフや承太郎、花京院にもちろん双子も日本へと帰ることになる。
空港で感慨たっぷりに皆と別れ、飛行機の中でも今までの旅路と別れた仲間のことに思いを馳せていた。
そして日本へようやく戻ってきていた時には帰ってこれたのだと安堵していた。
承太郎とジョセフは空条家に向かうと言うので、花京院と双子もそれに着いていった。
電話では大丈夫だと連絡があったのだが、元気な顔を見るまでは心配だったからだ。
空条家に到着し、見に行くまでもなく心配されていた当人が出迎えてくれていて
一同はようやくこの旅の目的が果たされたことを実感した。
この日はもう遅いからと花京院と双子も空条家へ泊めてもらった。
その際春助は夕飯を用意するホリィを手伝いにいった。
花京院の肉の芽騒動の際二人もその場に居合わせており
一度空条家に泊めてもらっていたのでその時食べたホリィのご飯に春助はいたく感銘したのだ。
決して自分の母親が料理下手なわけではないが、人それぞれ作るおいしさに関心を持ったのである。
普通は女の子であるがそういうのを習うのではとジョセフにつっこまれるも
「適材適所だから」「食べる専門だから」等とはぐらかしていた。
春助はというとホリィと並んで台所に立ち、とても楽しそうであった。
翌日、一連の失踪とも言える騒動の謝罪をするためジョセフと承太郎が花京院家と家に向かうことになった。
一応SPW財団から詳しくはないものの説明はされていたらしく、捜索願いなどは出されていないと花京院たちは聞いた。
空条家を出る寸前まで双子は「嫌だ空条さん家の子になる」「死にたくない」と往生際の悪い抵抗をしていたが
そこはいつもの如く承太郎と花京院が引きずっていった。
最初に花京院の家へ行き、その間双子は外で待っていた。
しばらくしてからジョセフと承太郎が戻ってきた。
二人は色々言われたのだろう、疲れた顔をしていたがなんとか丸くおさめたようだ。
「さあ、次はおまえたちの番だぞ」
ジョセフに言われ、またもや顔を青くさせた二人であったが
小さく「はい」と返事すると自宅へと案内した。
*****
二人が案内したのはごくごく一般的な一軒家だ。標識には確かに『』と表記されている。
久しぶりの我が家を見て二人はほっと息をついたようだが、これから行われる対面を考えてまた表情を硬くした。
二人は同時に背後に控えているジョセフと承太郎をそろそろと見やる。
早くしろと目線だけで促され、ですよねと項垂れながら春助がインターホンを押した。
少ししてから勢いよく扉が開かれた。玄関のすぐ傍にいたのだろう。
インターホンで応答することなく、ドアスコープで二人の姿を確認し、すぐに飛び出してきたのだ。
ジョセフたちはそこで二人の母親を初めて見た。
彼らが鬼だのなんだのと散々な言い方をしていたので、内心どんな人物だろうかと思っていたのだ。
出てきたのはごく普通の女性だった。顔立ちは双子とよく似ている気がする。
目を丸く見開いて驚きの表情をうかべていたが、すぐに目尻をやわらかく下げた。
「春助、おかえりなさい」
「た、ただいま」
双子は同時に返事をする。
二人の母親はジョセフたちを見やると扉を大きく開けて「どうぞ、中へ」と促してくれた。
*****
和室の居間に通されて、ジョセフはすぐに事のあらましを説明し、謝罪した。
もちろんそっくりそのまま事情を話すわけにはいかないので、本当と嘘を混ぜて話しておいた。
話を聞き終えた母親は難しい顔をしている。
「そうですか、正直わからない所もありますが大体の事は把握できました」
「母さん違うんだ。おれ達が勝手に無理言って承太郎たちに着いていっただけで」
「ジョースターさん達は悪くないの。黙って出ていってごめんなさい」
言葉を被せるようにして二人は真摯に謝った。
さっきまでの怖がりかたとは変わって、本当に心配かけて申し訳ないという気持ちが伝わる姿だった。
母親はふっと息を吐き、ジョセフらを見る。
「ジョースターさん。この子たちは役に立ちましたでしょうか」
「…え、ええ。それはもう。彼らはじゅうぶん過ぎるくらいに力を貸してくれましたよ」
「そう、そうですか…。それならいいんです。春助、」
「は、はい!」
ぴしりと姿勢を正して二人は返事をする。
母親はそんな彼らを厳しくしていた目をほろりと緩めた。
「とりあえず、こうして無事に帰ってきて本当によかったわ」
「お母さん…」
「母さん」
その表情はただ我が子を純粋に心配し、無事を喜ぶ母の姿そのものだった。
二人も緊張をすっかり解いて感動している。
一連の流れと様子にジョセフと承太郎もよかったと安心したが
双子の話ではひどく怖い母親だと聞いていたので拍子抜けである。
別に怖いことを望んでいた訳ではないのだが、なかなかに良い母親ではないのかとさえ思い始めている。
じんとした良い雰囲気が辺りを包む。
それを動かすように空気に一石を投じたのも母親だった。
「春助、ちょっとこっちに寄ってくれない?」
突然母親は二人を立ち上がらせるとジョセフや承太郎が座っている所より離れるように言った。
「え?ここらへん?」
「そうね。そうそう、もう少し右に」
ちょいちょいと手を右側に振ってなにやら位置を確認している。
一体どうしたというのだろうと皆不思議に思っていた。
「うん、その位置ね」
言うやいなや母親は居間に置いてあった長い大きな机を持ち上げると双子に向かって投げ飛ばした。
「ぐへっ」
「ふぎゃっ」
蛙が潰れたような悲鳴を上げて二人は襖もろとも隣の部屋に突っ込んでいった。
あまりにも唐突な出来事にジョセフらは呆気に取られていたが、はっと我にかえると慌てて母親の方へと駆け寄った。
「おいおいおい!いきなり何をするんだ」
「ジョースターさんからの話と春助達の話を聞いて理由は分かりました。
この子達からも謝ってもらいましたし、無事に帰ってきてもくれました。
―しかし、それはそれです。何の断りもなく長い間連絡もせず
いなくなっていたことを怒っていないわけではないんですよ。なので然るべきケジメはきちんとつけませんと」
さっきまでの穏やかな雰囲気はどこえやら。
表情こそは変わらずにこにこと微笑んでいるが決して笑ってはいない。
その様子にああこういうことかとやっとジョセフと承太郎は理解したのである。
「さ、春助に。まだ説教は済んでないわ。
いつまでも寝てないでさっさと起きなさい。お母さんはけっこう怒っているんですからね」
「ごめんなさいい」
「すんませんでしたああ」
机をすぱっと除けてきっちりと見事な土下座をする双子に静かに怒りを爆発させる母親。
「これは、まあ……しょうがないのかのう」
「やれやれだぜ」
その後ろでジョセフと承太郎は密かにため息をついたのだった。
*****
翌日、ぼろぼろになって登校してきた春助とに花京院は驚きどうしたのかと訪ねた。
承太郎はあの母親の様子を見ていたので大体は察しがついたが
あの後すぐに帰ったので彼らがどうなったのかは分からなかったのだ。
まず、承太郎が花京院に昨日の経緯を説明した。
その話に驚きつつ、やはり言ってたことは間違いではなかったのかと彼も似たような反応をしている。
続いて春助とがそれからの事を話始めた。
「承太郎とじい様が帰った後さっそく説教が始まってな」
「正座させられて、その膝の上に金剛力士像乗せられたまま1時間半くらい延々怒られました」
「おれが阿形でが吽形な」
「いやどっちがどの像とかどうでもいいんだけど」
「何で家に金剛力士像があるんだよ」
「お父さんがそういうの好きなんだ」
「そうそう、父さんが止めてくれなかったらあと1時間はやられてたな」
「足動かなくなったもんね」
あはは、と笑いながら二人はのんびり言っているがやられていることはなかなかキツいものである。
花京院も怒られはもちろんしたがここまでではなかったなと思っていた。
なぜ、双子の母親がこんな風であるかというと、幼い頃の二人は今より更に好奇心旺盛の塊だったそうだ。
まだ自分で歩くことができない時はよかったものの、自由に動き回れるようになってからは
あっちへふらふらこっちへふらふらと興味の赴くままに行動した。
まだ小さい彼らはちょっとしたことでも危険に繋がる。
それをうまく諌めるために母親は厳しくなっていったという。
「だってあなたたちったらいくら注意しても聞かないんだもの。だったら肉体言語でやるしかないわよね」
とは後に二人が聞かされた母親の言葉である。
普段の春助との事をあの旅で充分というくらい見てきたので、母親の苦労が目に浮かぶようである。
そりゃああれくらい仕方ない…かもしれないと承太郎と花京院はそう思ったのだった。
生まれたときから萼だった
16.4.16