朝、春助と並んでいつものように登校していたら目の前にゆっくりと歩いている承太郎が見えた。
いつもわいわいと賑やかに女の子たちが彼を取り囲んでいるのに今日はそれがいない。
おや、珍しいこともあるもんだ。
春助と顔を合わせてどちらともなく駆け出す。
承太郎の広い背中を春助は右側、私は左側を同時に後ろからぽんと叩いた。
「おはー承太郎!」
「おはよう」
「ああ、お前らか」
全然動じることもなくそのまま歩く承太郎に私たちも彼を真ん中に挟んで歩きだす。
後ろからおれ達が来てるって分かってただろう、と春助が言えば「まあな」と彼が短く答えた。
「今日はめずらしく女の子たち誰もいないんだね」
「朝からやかましかったから、はがしてきた」
「ぜーたくな悩みだなあ、こんちくしょー」
これだからモテ男は、と春助がやれやれと溢す。
それに承太郎はうっとおしいだけだと嫌そうに言うので
彼を射止めるためには相当な苦労がいるなと承太郎のことが好きな女の子たちに同情した。
そのままとりとめのない会話をしていたら、すぐに学校へ着いてしまった。
またおもしろくない授業に教室で缶詰めにされるかと思うと気が重い。
承太郎と春助は同じクラスだけど私は別のクラスなので、それじゃあまた後でと別れた。
教室に入り、自分の机に鞄を置いた瞬間ものすごい勢いで何かが突進してきた。
「ぐえっ」
「ちょっとどういうことなの!!」
がしりと強烈に肩を掴みながら揺さぶられる。犯人は友達のあきちゃんだ。
ガクガクと絶え間なく、そして何がとも問いかける暇もなく与えられる衝撃にだんだん気持ち悪くなってきた。
「あき、これ以上はいけない。吐きそうになってる」
「え?うわっ、ほんとだごめんごめん。吐かないでね」
「いきなり人を襲撃しといてひどくないか」
もう一人の友達のつかさちゃんがストップをかけてくれたので、なんとか吐かずには済んだ。
でもちょっと気持ち悪い。
「それで、一体なんだっていうの」
「なんだってもへったくれもないわよ!
いつから空条くんとあんなに仲良くなったの!」
聞けば今朝の登校していた様子をたまたま見かけたのだと言う。
そういえば普通にいつも通りに承太郎と接していたけれど、この人はとてもモテて目立つ存在だったのだ。
今朝も取り巻きがいないなという話をしてきたばかりだというのに、すっかり忘れていた。
だからどうということもないのだが。
「別にふつうに友達なだけだよ。前から話したりもしてたし」
「ええー?本当に?」
「そうだよ。春助だっていたでしょう」
「まあ確かにそうだけど。でも空条くんとあんなに話できるなんてうらやましいわー」
「そうなの?承太郎も案外まわりと変わんないけどなあ」
「イケメンと話をできるって所が重要なのよ。顔が良いのはそれだけで宝なんだから」
きりっと力説するあきちゃんにまたこいつはとつかさちゃんと苦笑する。
日頃から学校だけでなくテレビで見るアイドルなんかにきゃあきゃあと声援をおくるあきちゃんはイケメンが好きらしい。
そりゃあかっこいい人が嫌いな人はいないだろうけど。
そういった人を見るのは日々のエネルギーになるそうだ。
ここまで潔くきっぱりはっきり公言しているところが私はけっこう好きである。
「それにしてもねー。が空条くんと友達だなんてね」
「あの彼とどうやって友達になったの?」
「いやあ、まあ、いろいろと……」
しどろもどろになりながら目線を明後日の方へと向けて乾いた笑いをこぼす。
まさか約50日に渡り四六時中寝食共にして命懸けの旅をしていたなんてとてもじゃあないが言えない。
「ま、いいけどさ!今度空条くんの写真でも撮ってきてよー。宝物にするから」
「無理に決まってんでしょうが。ほら、授業始まるよ」
文句を言うあきちゃんの背中を押して、これまた一緒に撮った写真が実はあるなんて言えないなと思った。
そこには他の仲間も一緒に写ってるんだけども、一番お気に入りのフレームに入れて大事に閉まってある。
また、写真撮りたいなあ…。
ついこの間まで旅をしていたというのにもう感傷的になっているとは。
自分のことだけど少しおかしかった。
*****
「!」
放課後になり、帰り道を一人で歩いていたら背後から声をかけられた。
聞き覚えのある声に振り返ればやはり典明だった。
「今帰り?春助は」
「うん。春助はなんか用事あるって」
「そうなんだ」
自然に並んでいっしょに帰り道を歩く。
しばらく今日あったことなんかを話していたが、そういえばと思い出して典明の脇腹をえいと小突いた。
「痛っ!急に何をするんだ」
「今日1日のことでちょっとね」
「いやいや、なにがあったんだ」
脇腹を擦りながら怪訝な表情で尋ねられる。
そこで今日1日だけで承太郎と仲良いけどどういう関係なのか等
あらゆる所であらゆる人に(女子に)聞いてこられたのだと説明した。
「それと僕が小突かれるの関係なくないか」
「いいやあるね。なぜなら承太郎だけじゃなく典明くん。キミもだったんだから」
「え、僕もかい?」
そう、何気にこの花京院典明、承太郎に加えてわりとモテるのである。
顔立ちも整ってるし、フェミニストだし、頭もいい。
そんな彼を女の子たちが見逃すはずもない。
もう少しくだけてきたら、言葉づかいとか態度とかゆるくなるんだけどな。
それで今日なんかも休み時間にたまたま典明と会話していたのだが
そこを目撃したクラスメイトに彼との関係性を問われたのだ。
確かに典明はうちの学校に転校してすぐにあの旅に出てしまったので、周りからしたらなんで仲良さげなんだと思うだろう。
学年も違うから接点とか想像つかないだろうし。
彼女らには友達だと言ったけども。
「へえ、そんなことが」
「まったくモテる友達を持つとツラいねー」
「嫌になった?」
「まさかー。それとこれとは話は別だよ」
へらりと笑って言えば、よかったと典明はどこか嬉しそうに言った。
期間ではまだ短いかもしれないけれど、承太郎も典明もあの時旅を共にした仲間はとても大事に思っている。
言葉では言いにくいものだけれど。
「そうか。これからも仲良くしてくれると嬉しいよ」
「もちろん。よろしくしてくださいな」
いつまでもこんな和やかなあたたかい関係が続けばいいな、と柄にもなく心の奥底で願ってみたのだった。
シュガーコートセヴンティーン
16.5.14