おかしい。
今日はとてもよく晴れていて、雲が程よくぷかぷかと浮いていて
いつもならルフィ達とあの雲ソフトクリームみたいでうまそうとかそんな馬鹿話をしたりするのに。
まったくそんな気分にはならないし、さっき食べた朝ご飯も
いつもは争うように奪い合っておいしく頂くのに今日はあんまりいらなかった。
それでもまあ普通には食べれたと思う。多分。
横に座ってたロビンが不思議そうにしてたけど私自身なんであんまりご飯がおいしく感じないのか分からなかったんだ。
今は食事も終わって皆各々好きなことをしている。
私も普段なら読書したりゾロの鍛練に付き合ったり、ルフィやウソップ達と遊んだりするんだけどまったくといって気がのらない。
ぼうっと甲板に突っ立ってたら、どたどたとルフィとウソップが近づいてきた。
「!何ぼけっとしてんだよ?」
「どうした?またルフィに菓子食われたのか?」
「失敬な!まだおれ食ってねえぞ!」
「これから食う予定なのかよ。」
「別に何もないよ。あとルフィ私のお菓子食ったら刺すで。」
「わ、わかってるって!それより今からチョッパーとフランキーも誘ってかくれんぼすんだ!もやろーぜ!」
「今激しく動揺したよなお前。」
返事をする前にルフィが私の腕をぐいと引っ張った。
瞬間、体がぐらりと揺れてそのままルフィの背中にぶつかった。
「うお、大丈夫か?」
「馬鹿、お前強く引っ張りすぎだって。少しは加減っつうもんを考えろよ。」
「いや、こっちもごめん。なんか力入らんくて……。」
背中にぶつけた顔をさすりながら、体制を戻そうとしたら急に足に力が入らずにそのまま後ろから倒れる。
寸前にルフィに腕を掴まれて何とか甲板の芝生とこんにちはせずにすんだ。
「どうした!?!」
「おいおい、大丈夫か?なんか今日様子が変だって。」
「…そうかなあ。」
甲板にルフィに支えてもらいながら座り込む。
ウソップが私の前髪をかきわけて額に手を当てた。
「うわっち!お前おかしいと思ったらやっぱりすげえ熱があんじゃねえか!」
「え、ほんま?・・・・・・まったく気づかんかったわ。」
「なんだ?風邪か?」
ルフィもウソップにならってか自分の額と私の額をくっつけた。
ルフィは元からわりと体温高めだから、あんまりくっついても冷たく感じない。
「うわ!本当だ、すげー熱いぞ!?大丈夫か?」
「なんか熱あるって言われると急にしんどなってきた……。ふらふらする。」
「おい!チョッパー!こっち来てくれ!が大変だ!」
ウソップがチョッパーを呼ぶ声がやけに遠くに聞こえて、そのまま視界が霞んでふらりと意識を手放した。
*****
水中を漂っているかのようなふわふわとした意識が浮上して、目を開けたら目の前にチョッパーが私を覗き込んでいた。
「大丈夫か?気分はどうだ?」
「んー、あんまよくない。」
「そうだろうな。熱が38度6分もあったぞ。よく気づかなかったな。まったく!」
風邪を馬鹿にしたら恐いんだぞ!
とぷりぷり怒りながら私の額に置かれた濡れタオルをサイドボードに置かれた盥に突っ込んだ。
「いやあ、風邪なんてひくの久しぶりで。感覚忘れとったわー。」
「普通忘れないわよ。」
「……うお、ナミ。」
「ルフィとウソップがえらい慌ててたわよ。あんたが急にぶっ倒れたもんだから。」
「あー、ごめん。」
「何でが謝るのよ。」
「うーん、なんとなく?」
起こそうとした体を引き戻され、布団をかけながら、いいからあんたは寝てなさい、と強く言われた。
こくりと素直に私が頷いたのを見るとチョッパーに後はまかせた、と扉を開けて出て行った。
チョッパーは本を見ながら擂り粉木でごりごり何かを作っている。薬かな、薬やだな苦いし。
熱にやられた頭でぼうっとしてたらバタバタとうるさい足音が聞こえて勢いよく扉が開かれた。
「うおーい!大丈夫かー!!」
「馬鹿ルフィ!仮にも病人の前で騒ぐんじゃねえ!」
「こら!二人共静かにしろよ!まだ熱が酷いんだから。」
「「ごめんなさい。」」
騒がしく入ってきたのはルフィとウソップだった。まあ足音とかで大体分かったけど。
「ルフィ、ウソップ。」
「大丈夫か?びっくりしたんだぞー。急にぶっ倒れるからよ。」
「そうそう。触ったら沸騰したみたいに熱いしさ。ありゃ驚いたね。」
「ごめん二人共…。」
「なんで謝るんだよ。」
「今はゆっくり休んで治すことに専念しなきゃな!」
ぐしゃぐしゃとルフィが頭を撫でくり回して、その際にずれた額のタオルをウソップが直してくれた。
「しっかしまあでも風邪とかひくんだなあ。」
「なんやてウソップ。どういう意味やねんコラ。」
「馬鹿は風邪ひかねえって言うもんな!」
「んな…!ルフィに言われた!あんたにだけは言われたかないわ!」
「うわ!コラ暴れちゃダメだってば!」
チョッパーに宥めすかされて、渋々布団に潜る。
(後でルフィ覚えとけよこのやろう)
二人が何かチョッパーと話すのをぼんやりと眺めていたら、扉が軽くノックされてからがちゃりと開いた。
「よう、具合はどうだ?」
「サンジ。・・・・・・おかげさまで最悪やで。」
「はは、そうかそうか、ほらお粥作ってきたからよ。さっさと食って寝て治せ。」
「うへー、ありがとー。」
お盆に乗っけられたお粥を受け取って、ゆっくり確実に咀嚼していく。丁度いい柔らかさでおいしかった。
途中ルフィに取られそうになるのを阻止しながら何とか完食した。
「ごちそうさまー。」
「ん、食欲はあるみたいだな。」
「朝もお前普通に食ってたもんな。」
「でも普段と全然量ちゃうかったもん。いつもならもっと食べれたし。」
「おめーは食いすぎなんだよ!」
ウソップのソフトツッコミ(病人につき)を受けながら、サンジに空の器を返すとちゃんと寝とけよと言って部屋を出ていった。
(さっきから皆そればっかじゃね?)(私そんな信用ないんかい)
ウソップもルフィも寝とけというもはや定番になりつつある言葉をはいてから出ていった。
チョッパーが何かを調合させてまたごりごりしてから出来たぞ!と何やらやり切った表情でこちらに振り向いた。
「ほら、風邪によく効く薬だ。これ飲めばきっとすぐ治るぞ!」
「え、あー……うん。」
チョッパーが笑顔で煎じた薬を私に差し出す。
もう片方の手には水の入ったコップ。つまり今すぐ飲めと。まあ当たり前だが。
躊躇しているとチョッパーが怪訝そうな顔をした。
「どうしたんだ?」
「いや、その……それって苦いやんな?」
「まあ薬だからな。」
「じゃあ嫌。薬飲まへん!」
「なっ!駄目に決まってるだろ!薬飲まないと良くならないって!」
「大丈夫!寝てりゃ治るから!」
「の風邪はわりと重いんだから薬の力もいるんだよ!」
「せやけど苦いの無理!」
「わがまま!子供か!」
「まだ子供やもん!」
わいわいとお互い一歩も引かず、飲め!飲まない!の攻防を繰り返していたらかちゃりとドアが開いてロビンが部屋に入ってきた。
「あら、どうしたのそんなに騒いで。ちゃんと寝ておかないと。」
「あ!ロビン!聞いてくれよったら薬作ったのに飲まないって聞かなくて。」
「だって苦いの無理やし!」
「まあ、そんなことだったの。」
私の寝ているベッドに近づいたロビンは一度ふわりと微笑むと仕方ないわね、と傍に立つ。
その笑顔に何か嫌な雰囲気を感じとった私は咄嗟に起き上がろうとする。
「セイスフルール。」
「ぎゃあ!ちょ、ロビン何を!」
にょきにょきと私の周りに咲いたロビンの腕が体をがっちりとホールドする。
おまけに顔まで押さえ込まれてるときたもんだからまったく身動きがとれない。
「さ、チョッパー。今のうちにに薬を飲ませなさい。」
「ああ!ありがとうロビン!」
「嫌ー!ロビンの裏切り者ー!!」
「酷いわね、これはの事を思っての行動よ。」
にこにこと楽しげに言われてもいまいち納得できないのは仕方ないと思う。
(ロビンってたまにSっ気が出るからなあ)
そんな事を考えているうちにチョッパーが薬を持って私にじりじり近づいた。
ひっ、と小さな悲鳴が出て必死に暴れようとするが、拘束が固い上に病人なためまったく意味を成さない。
口をがっと開けさせられ薬をほうり込まれる。
絶叫が船内に響き渡るまで後10秒。
「よし!これで後は安静にしとけば大丈夫だ。ロビン協力してくれてありがとな!」
「いいのよ、のためだもの。ちゃんと身体を休めるのよ。」
「うぐ……わ、わかり まし、た……。」
まだ苦味が残る口内に悶えながら、なんとか部屋から出ていく二人に返事をした。
がちゃんとドアが閉まる音がして、深く息を吐く。
やれやれ地獄を見たぜまったくよお。
薬を飲んだとはいえ、まだ身体全体が熱っぽいし、間接がぎしぎし痛む。頭もぐらぐらして痛い。
こんな風邪をひいたのは久しぶりかもしれない。
確か最後になったのは6歳くらいの時だったか……。
お母さんが今みたいに嫌がる私を宥めて薬を飲ませたり、冷やしたタオルを小まめに変えてくれたりつきっきりで看病してくれた。
ぼんやりとした頭に浮かぶのはあの時のお母さんの笑顔。
熱は大分下がったな、もう大丈夫やで。
(優しく私の頭を撫でる手、心配そうに見つめる顔、すべてもう過去のもの)
私はどれだけ辛くともお母さんのその笑顔で乗り切れた。
優しかったお母さん、時には厳しくて大泣きする程怖かったけどいつも暖かい笑顔で私を見てくれた。
今はもう会えないけど……。
駄目だ。病気になると心まで弱るというのは本当らしい。
もうそんな弱音は吐かないと随分前に誓った筈なのに。
風邪だからいけないんだな。早く寝てさっさと治そう。
そう考えると意識ぼやけて、ずるずると眠気に吸い込まれていった。
ふわふわとした浅い眠りの合間をさ迷って、徐々に意識が覚醒してくる。
ゆっくりと閉じていた重いまぶたを開けると、何やら右手が暖かい。
何だろうと顔をそちらに向けると私の手を握りベッドに突っ伏して寝ているルフィがいた。
ぐうぐうといびきをかいて眠っている。いつの間に。
ぐっと身体を起こすとルフィもそれに気がついたのか目を覚ました。
「あ、ごめん起こした。」
「いや、おれいつの間にか寝てた。…あ!駄目だろ起きてたら!ちゃんと寝ろ!」
「うん、今は寝たから随分楽やけど。それよりルフィずっと手握ってくれてたん?」
「ああ、だって。何かすげえ寂しそうにしてたからよ。」
どきり、と胸が跳ねた気がした。
お母さんの夢を久しぶりに見て柄にも無く寂しく感じていたのが分かったんだろうか。
ルフィはたまにこういう所で鋭いから困る。さりげに人の感情を汲み取るとか。
「そっか。ありがとう。」
「いいよ別に。それよりも肉食え肉!風邪なんかすぐに治るぞ!」
「いやいやルフィじゃないねんから無理やっつーの。」
もうお母さんもいないけれど、私にはこんなに仲間がいる。
もう何も寂しくなんかないんだ。
風邪で苦しい筈のそれはどっかに飛んでいって、柔らかい暖かな何かに包まれている気がした。
パタパタとチョッパーがこちらに向かう音が聞こえた。
馬鹿は風邪をひかないことなんてない。(ほら、皆のおかげでもう治った)
定番の風邪ネタ。
なんとなしに夢主の過去が出たり。
それにしても管理人の趣向で船長が異様に出ばる。
10.8.7