※少し血表現注意
「成る程、大体の事情は分かった。」
「要は研究所の頭をぶっ飛ばして、を取り返しゃいいんだろ?」
「まあざっくり言うとそうなるわね。」
サニー号に戻った面々は船を出港させ、今しがたあの酒場でムツから聞いた話を居なかったクルーに話し終えた。
皆一様に驚いた様子だったが、特に騒ぎ立てることもなかった。
「しかしまあガキがあんな力持ってて何かワケありかとは思ってたが、
そんなえげつない事情があったとはな。ひでえことしやがるぜ!」
フランキーが神妙な面持ちでうんうんと頷く。
誰もが不思議に思ったことだが、とりたてて聞くこともなかった。
どんな者でも過去に何かあっただろうし、それをわざわざ突っこむことなどしない。
それはこの船のクルーが皆そういった質であったからだが。
「まあ言いたくないんだろうとは思ってたし、昔あったことなんて本人が今を楽しんでるのだから気にはしないけど。」
「そうね、だけど現にこういった事態に陥ってしまった。」
「なら、おれ達がその元をぶっ壊して連れ戻せばいいだけだ!」
ふん、と鼻息荒く堂々と船長が宣言したことにクルーは頷いた。
「まったくだ、何も問題はねぇ。」
「ええ、早く迎えに行ってあげないとね!」
「よーし!待ってろよー!!」
わあわあと騒ぐ一味を乗せてサニー号はエターナルポースに従ってひた走る。
―の待つ研究所のある島に向かって。
*****
――助けて!
嫌だぁ!殺さないでくれ!!
来るな!近づくな!やめろ!やめてくれ!!
―っ!!やめ、ぎゃあぁあ!
ズチュ、 崩れ落ちた人の身体から刃物と化した自身の腕を引き抜く。
ごぷり、と抜き出した穴から赤い液体が溢れて腕を伝った。
既にただの肉の塊となったそれから目を離して、部屋の隅でがたがたと震えている男に顔を向けた。
ひたり ひたり
裸足で歩く床が冷たい。
ひたり ひたり
ひっ、男の息をのむ音が静かな空間に響く。
ひたり、
男の目の前に立ち、見下ろせば恐怖に塗れた顔でこちらを凝視する。
正確には私の刃物に変わった腕を、だ。
無言で腕を振り下ろせば男の断末魔が部屋中に響き渡った。
あ゛、あぁ…!この化け物が……っ!!
化け物、そうだ私は化け物だ。
―だけど本当はこんなことしたくないのに……!
ぱちん。
何かが頭に弾けたような音で目が覚めた。
……久しぶりに嫌な夢見たな。
胸焼けがしたように胃がムカムカする。気持ち悪い。
辺りを見ようとするが明かりがついていないのか暗くてよく見えない。
とりあえず身体を起こそうとすると、途端に視界がぐらついてそのまま倒れ込む。
おかしい、頭の中がぐらぐらとして身体も上手く動かせない。
視線だけで身体を見ても拘束されてはいないし、そのような感覚もない。
もぞもぞと動きづらい身体を何とか起こした所でぱっと部屋が明るくなった。
「おお、なんと懐かしいことだろう……!」
頭上から降ってきた声に動かしていた身体がかちりと固まった。
嘘だ。
何故あいつの声が聞こえたんだ……?
そもそも私は何故こんな所にいる?
(そうだ確かいきなり男に掴まれて妙な注射を……)
視線が床から外すことができない。
黒い靴が私の目の前に立っている。
だけど顔を上げてその人物を確認するのを全身が拒んでいた。
(だってそいつは……)
俯いていたらぐっと髪の毛を掴まれて無理矢理顔を上げさせられた。
否定したい。
信じたくない。
そう願っていた最も会いたくないその顔が、私を見下ろしてにたりと嫌な笑みを浮かべていた。
「あぁ、会いたかったよ。No.16、私の愛しい芸術品よ…!!」
「………ドク、ター。」
ドクター、ガラク博士は髪の毛を掴んでいた手を乱暴に離すと、私の目の前に椅子を引いてどかりと座った。
今になって明るくなった部屋を見渡すと、嫌と言う程見覚えがあるドクターの部屋だった。
「どうだ久しぶりの研究所は?さぞかし懐かしいことだろう。」
「……できれば二度と見たくはなかったわ。ドクター、あんたの顔もな。」
「ははっ!年だけでなく口先も達者になったようだな。
いいさ、どれだけ生意気な口を叩こうともこうして私の元へ戻ってきたんだからな!」
「っ!…あほぬかすなや、誰も望んどらんやろう!帰して!私は戻らなあかんねん!」
「帰してと言われて帰す馬鹿がいるか。・・・はて戻るとはあの海賊共の所にか?」
「そうや、ルフィ達は私に居場所をくれた大事な仲間。私はもうあんたの操り人形になる気はない!」
そう叫ぶとドクターは心底おかしいといった風にくつくつと笑い出した。
「何がおかしいねん!」
「……くく、ああ、これがおかしいと言わず何をおかしいと言う!」
刹那、ドクターの腕が伸びて私の身体を壁に押さえ付けた。
あまりの勢いと強い圧迫に胸がむせ返る。
「……ゲホッ、っく。」
「思い上がるなよ。少し籠から抜け出せたからといって勘違いしてないか?
お前はここに来たその瞬間から私の所有物だ!お前はただ私の作品として、道具として使われればそれでいい。
それを勝手に抜け出した挙句、自由になれた?仲間ができた?馬鹿が!喜ぶなどとおこがましいにも程があるぞ!」
ぎりぎりと押さえ付けられた部分が痛む。
押し返したり、反撃しようとするも身体が言うことを聞かない為小さく身じろぎすることしかできない。
それに気づいたのか、ドクターは口の端を吊り上げた。
「身体が上手く動かないだろう。お前を運んできた研究員が打ったのは被験者専用の麻酔だ。
細胞の働きを一時的に低下させる。細胞は全身に行き渡っているからな。変形はおろか立つことすらままならないだろう。」
「……っは、なるほどな…!」
通りで思うように効かないと思った。
そうでなければとうにこの男に切り掛かっているから。
(ああ憎い、殺したいほどに)
ぶん、と勢いよく床に叩きつけられて肺が圧迫され激しく咳込んだ。
畜生、好き勝手に無茶苦茶しやがって……。
床下にはいつくばった身体をドクターが首を掴んで起こす。
自然と首が絞まり呼吸がしづらくなる。
「分かってるだろう?私から逃げられないことくらい。
しかし、あの時もっとしっかり調教しておかなかった私にも否がある。
今度は二度とこんな馬鹿な真似を起こさぬよう、しっかり躾とかないとなあ……。」
まずは仕置きだ。
そう言ってドクターは右手を私の頭のに近づけた。
その右手は薄い紫色の光りを纏い、そこだけが異様な雰囲気を醸し出している。
「……はっ!あ、嫌だ…!止めろ!それは……!」
「ふはは、長い年月を重ねても忘れてないらしいな。いや、忘れられないと言った方が正しいか?」
「や、だ!やめ…!」
「久方ぶりの苦しみを。存分に味わうがいい!」
ドクターの右手が頭に触れてしまう。
嫌だ、止めて、誰か……!
助けて―!
プルル、プルルル
この場にそぐわない気の抜けた電伝虫の声が部屋に響いた。
ドクターはチッと舌打ちをして私を投げ捨てると電伝虫の受話器を取った。
「どうした?」
「大変です博士!麦わらが、麦わらの一味が研究所に侵入してきました…!!」
「何だと?意外に早かったな。
……一般研究員は速やかに避難。A地区、C地区にいるクリーチャー共をすぐに派遣しろ。
その他戦闘員も直ちに出動。必ず麦わら達を始末するんだ。よいな。」
「はっ!了解致しました!」
ガチャン、と大きな音を立てて受話器を置いた。
ルフィ達が助けに来てくれた…?
「フン、どうやらお前の言う“仲間達”がやってきたようだな。馬鹿め、その選択すぐに後悔することになるぞ。」
にやにやと気味の悪い笑みを浮かべてドクターは再び椅子に座った。
「……ルフィ、皆…。」
私はただ壁にもたれ、虚空を見遣ることしかできなかった。
再び繋がれた鎖。
相も変わらずシリアス展開。
早く書きたいのに書けないジレンマがやばい。
10.10.17