「うわ、あんたすごい顔!」



起きぬけ一発目にナミから辛辣なお言葉を頂きました。
鏡を見てなるほど納得、目元に濃い隈が鎮座してらっしゃる。
朝ごはんの席でもみんながひどいだのどうしただの聞いてきたが眠れなかっただけ、と適当に流した。



「本当ひどい隈ね。どうしたの?」


ロビンが私の目元の隈を優しくなぞるように親指で撫でた。
隣に座るチョッパーも心配げに見つめてくる。


「どっか悪いのか?」

「ううん、たまたま眠られへんかっただけやから。全然平気やで!」


にこりと笑って何でもないよう返せば、少し安心したようにして、
あんま無理すんなよ、とチョッパーが言ってくれた。


それから甲板に出て芝生に座りぼうっと海を眺めていた。
寝不足で頭が回らない。なんせ3日はろくに眠れてないのだ。
身体もだるいし、思考も低下するし、改めて睡眠の大切さがわかった。
かたや私の斜め前でごろりと横になって呑気に昼寝をしているゾロがうらやましくなった。
私だって昼寝できるなら今すぐにでもしたい。でも、今は……。



さん、そんな険しい顔されてどうしましたか?」

「うおわ!」



どーん!と急に目の前にブルックの顔があって、思わず叫んでしまった。
ちょっと後ろにのけ反ったまま、暴れ出した心臓を落ち着けようと、胸に手を当てる。



「ブルック!いきなり背後から顔出さんといてや!心臓止まるかと思ったわ!」

「いやいや、これは失礼しました。」



ヨホホ、と特徴的な笑い方をしてブルックは頭にちょこんと乗った帽子を上げた。

ブルックはこの船の音楽家だ。
ヨミヨミの実を食べたせいで、一度死んだけどまた生き返ることができたそうだ。

でも自分の肉体に戻る時迷子になって、
やっと見つけた時には骨だけになっており骸骨のまんま蘇れたんだって。
悪魔の実って何でもアリだとあの時は実感したね。

そういえばブルックは確かに骨だけなのに何故か飲食できている。
ちゃんとどこかに消化されてるみたいで、食べて飲んでも外にこぼれてないし。
前にその疑問を本人に直接ぶつけたら

さん、それは禁則事項ですよ、ヨホホホ。」

―と、口元に人差し指を置き笑って流された。結局謎のままだ。

あれ、考察してた筈が何か変な方向にいってしまった。
きっと寝不足のせいに違いない。
もういいや、考察終了。まる。


暫し考え事をしてる間にブルックが隣に座っていた。
かなり背が高いから見上げてると首が痛くなる。アフロ+帽子で更に高く見えるしな。

近くを通りかかったナミに決まり文句のようにブルックが
「パンツ見せて頂けますか?」と言ってげんこつくらっていた。
ブルックはサンジと同じくらい女の人にだらし無い。そこではたと気がついた。


「ブルックは私にはパンツ見せてって言わへんよな。」

「流石に子どもには言わないですよ。」

「そうか、大人のきれーな女性がいいってわけやな。」

「うーん、まあそうですね。一理あります。
 だからさんも私にパンツ見せて下さいって言わせるような素敵な女性になって下さいね。」

「よし、わかった。がんばる!」

「お前今のつっこむ所だからな。努力の方向性間違ってんぞ。」


話しを聞いてたのか通り掛かったウソップにしらっとつっこまれた。何でだろうか。





*****





「それでですね」


場を切り替えるようにブルックがぽんと手を打った。
隣に座る私を軽く覗きこんでくる。高い側から低い人を見るのも大変そうだな。


「最近どうしたんですか?」


ああ、やっぱりその話になるのか。


「寝不足だとお聞きしましたが、何か理由があるんじゃないですか。
 よろしければ私に少しお話してみませんか。話せば楽になることもありますよ。」


ブルックの黒い眼が私をじっと見つめてきた。
何となく話をしにくい事だったけど、一味の最年長(一応)だしブルックなら話してみてもいいかもしれない。


「……本当にたいしたことじゃないんやけど。」

「はい。」

「最近悪い夢ばっか見るねん…。」

「悪い夢、ですか。」


正直に全てのことを打ち明けた。
ここ数日連続で悪夢を見続けているのだ。
誰かに追い掛けられて襲われたりだとか、一人ぼっちになってしまうとかまあレパートリーは様々だ。


「眠る度に見るもんやから、だんだん寝るのが恐くなってきて……。しょうもないことやんな。」

「いえ、そんなことないですよ。これは大変な事態です。」


ただ夢見が悪いだけでなかなか皆には話しにくいことだったけど、ブルックは深刻そうな表情で頷いた。


「私もルフィさん達に出会うまでは、よく悪い夢にうなされました。
 その頃は一人だったものですから誰にも話すこともできなくて辛い思いをしました。
 でも今は皆さんがいる。さんだって私達がいるじゃないですか。」


はっとしてブルックを見ると、彼はわいわいと楽しそうにはしゃぐルフィ達を見ていた。


「楽しい事も辛い事も分け合えば、楽しい事はより楽しく、辛い事は半分になります。
 さんもどんな些細な事でも遠慮せずに頼って下さい。私達は仲間なのですから。」


ブルックの細くて固い指が私の頭をそっと撫でた。
その手は骨になって固く冷たい筈なのにとても優しくて暖かい。


「…そうやね。ありがとうブルック。ちょっと楽になった。」

「ヨホホ、それはよかったです。
 でも睡眠不足は困りましたね。身体を壊してしまっては大変です。」

「うーん、わかってはいるんやけど、やっぱり抵抗があるから…。」

「ではさんが快適な眠りにつけるよう子守唄を弾いて差し上げましょう!」


スチャ、と何処からかバイオリンを取り出してきた。
いつものように弓を構えると、そうっと弦の上を滑らせた。

美しい綺麗な音色が辺りを包む。
穏やかでそれでいて芯が強いような曲。

ブルックはやっぱり楽器を弾くのがとても上手だ。
じっと耳を澄ませていたら、ふわふわとした心地好い気持ちになってきた。
かくり、と舟を漕いで重くなる瞼を軽く擦る。久しぶりに訪れた心底眠いという感覚。
ブルックの奏でる優しい音に包まれて、私はついに意識を手放した。
眠る寸前ブルックが静かに「おやすみなさい」と声をかけてくれたのを聞きながら。





*****





すうすうと穏やかな表情で眠りにつくを見遣り、ブルックはバイオリンを弾く手を止めた。
こてりとブルックの足に頭を乗せて眠っている。



「おう、ブルック!何してんだ……。」

「しっ、フランキーさん、お静かに。」


しーっと指を立てれば、フランキーはが眠る姿を見て慌てて声のトーンを落とした。


「あらあら、やっと眠りにつけたのね。」

「おやロビンさん。ありがとうございます。
 私の膝枕では固いと思ったんですよ。ヨホホ。」


ロビンが愛用の羊枕と毛布を持ってきてくれ、
そっと枕を頭に挟み、毛布を身体にかけてやった。


「随分寝ていらっしゃらなかったようでしたので。
 少々夢見が悪かったのが原因のようですね。」

「そういうことだったの。体調を悪くするまでに至らなくて良かったわ。」

「そうだな、あいつに元気のない辛気くせぇ顔は似合わないからな。」



起こさないようにロビンがふわりとの頭を撫でる。
気持ちよさそうに少し身じろぎをして緩く微笑んだ。





「おやすみなさいさん。良い夢を……。」










わたしのくらし。(音楽家さんといっしょ)










ブルックさんと絡む回。
今回は大人組と一緒なお話でした。
ブルックとは穏やかにお茶飲みながらまったりした会話をしていたい。

12.2.19