「、私達だけじゃとても食べきれないから銀時の所に持ってっておやり。」
そうお登勢さんに言伝てられて私は今二階にある万事屋に向かっていた。手にはりんごが入った紙袋。
この間たま姉と買い出しに出かけた時に商店街の福引きでりんごを段ボール一箱当てたのだ。
それで万事屋の皆にもお裾分けしてこいとのお達しなのである。
カンカンと音を立てながら階段を登りつつそういえば初めて会った時もりんご剥いてたんだっけと思い返した。
扉の前まで着いて横にあるインターホンを押した。
「すいませーん。」
ピンポーンと軽い音の後に声をかけてみたが一向に返事がこない。あれ?留守なのか?
もう一度押してもしもしと訪ねてみるがやはり返事がない。
試しにとふうと息をついて扉に耳を押し当てる。
神経を尖らせ集中してみれば僅かに人の気配がした。
……なんで居留守使ってんだあの人達。
些かむっとしつつもそちらがその気ならと頭に差していたヘアピンを外して真っ直ぐに引き伸ばした。
それを鍵穴に差し込んでかちゃかちゃと弄くればあら不思議。
取っ手に手をかけ静かにスライドさせればするすると扉が開いた。
さてさてお三方はどこに隠れてるのかな。
気配を殺してひたりと足を進めれば探すまでもなく居間の方から声が漏れていた。
そうっと中に入ると銀さんがいつも座ってる社長椅子の机から声がする。さては下に隠れてるな。
そろりそろりと三人から見えないように机に近づき音もなく上に乗っかってみる。まだ気づいてない。
「おい。もう行ったか?」
「ちょっと銀さんやっぱり出てあげましょうよ。
家賃の回収じゃないかもしれないじゃないですか。」
「何甘いこと言ってんですか新八君。
あんな子どもヅラしといて今に激しく取り立ててくるよ。
例にもれずちゃんもただ者じゃなかっただろ?」
「確かにただ者じゃないネ。
りんごをあれだけの早さで正確にうさぎに仕上げるなんてカタギじゃできないヨ。」
「いやりんご関係ないでしょうが!」
あながち関係なくないですけどね。りんごお裾分けに来とりますからね。
相変わらずいつ聞いてもテンポがすごい面白い会話だ。
さてそろそろ声をかけますか。
驚いてくれるかなと少し期待に胸を膨らませて、がっと勢いよく机の上から下を覗きこんだ。
「無視するなんてええ度胸やないかあんちゃん。」
ぎゃあああ!
ワンテンポ空けて揃いの悲鳴を上げて机から飛び上がった銀さんと八さん。
あ、そんないきなり立ち上がったら頭ぶつけてしまうよ。
告げようとした忠告は胸の内に留まり二人はがっつんと鈍い音を上げ頭を机にぶつけてしまった。
先に机から降りていた私はそれを見つめて呆れた面持ちで見つめていたら、傍に神楽姉がやって来た。
「ごめんヨ。そこの天パが家賃取り立てに来たから開けるなって無理強いしてきたアル。」
「いや、まあええんやけどね。」
「つーかてめ、どっから入って来やがった!」
「普通に玄関から。鍵をちょちょいとこいつで開けてー。」
「お前それピッキングじゃねェか!どこでそんなの覚えたんだ!」
「キャサリンさんが教えてくれてん。」
「ろくなこと教えてねーなあの猫耳ババァ。」
そんな犯罪者紛いのこと銀さん許しませんよ!なんて言いながら机から這い出てくる。
なんで銀さんに許しを乞わないといけないんだ。
「で、ちゃん家賃取りに来たんだよね。申し訳ないけど……」
「違うで。今日はお裾分けに来ただけやから。てか家賃は今度ちゃんと払ってな。」
ほい、と八さんにりんごの入った紙袋を手渡すと揃いも揃って拍子抜けしたと言わんばかりの顔をされた。
「それとも今出せんの?」
「いやいやいや出せねェけどさ。あ、勘違いしないでね払う気はあるからね。
なんか気張って損しちゃったなぁくらい思ってただけだから。ほんと他意はないから。」
「そ、でもちゃんと支払わんとお登勢さんが腎臓一狩りしよっかなーって言うてたから気をつけてな。」
「どこのモンスターなハンターだよ!さらっと物騒なこと言うな!」
言ったのお登勢さんだけどな。
ちゃんと払わない銀さんが悪いと八さんも呆れたように溢していた。
無事りんごを届けるという任務を果たして、神楽姉からうさぎりんごをまたリクエストされたので八さんと一緒に剥いた。
それをみんなで食べているところに隣の部屋から真っ白い塊がのそりと現れてびっくりした。
「あ、定晴起きたアルか!」
「定晴?」
「にまだ紹介してなかったヨ、この子は定晴ネ!よろしくするアルよ。」
わん!
一鳴きしたでかくてふわふわの塊。で、でかい…。
規格外ではあるが恐らく犬であろう。つぶらな瞳がとっても愛らしい。
神楽姉から紹介されて私もでっかいわんこ、もとい定春の前に歩み寄る。
「よろしく定晴。」
そのやわらかそうな毛並みを確かめたくて手を伸ばす。
すると八さんがよく噛みつくから気をつけて!と声を上げた。
それほど凶暴なのだろうか。とてもそんな風には見えない。
最初はゆっくり恐る恐る触れてみた。
少し硬いけど柔らかな毛だ。大きいため触れた手は簡単にその長毛に埋もれる。
次第にそのふわふわをもっと堪能したくて首筋に抱きついてみた。
「うわー、もふもふだー。」
「あ!ちゃん!」
ばふっ
ふかふかと楽しんでいたら急に目の前が真っ暗になった。
あれ。なんか生暖かい。しかもぬるっとする。
暖かな何かを隔てた向こう側で
「ちゃんが食べられたー!!」「定晴だめヨ。ペッしなさいペッ!」
という声が聞こえてようやく定晴にかぶりつかれてると気がついた。
理解した途端だんだんおかしくなってきて笑いが込み上げてくる。
「あははは!食べられてるよあははは!」
「え。なんか笑ってるんですけど。全然そんな状況じゃないんですけど。」
「さすがババァの申し子。これァ大物になるぜー。」
だって定晴全然私を食べる気ないしね。じゃれてるだけだもの。
頼んだらあっさり離してくれ、その後神楽姉の提案でいっしょに定晴の散歩に行った。
定晴の背中に乗せてもらったり、公園で遊んだりしてとても楽しかった。
おすそわけ。
14.5.10