授業の一環で同じ学年の忍たまを罠に嵌めるということになった。
くのたまの初歩的な素養、らしい。

みんなあれやこれやと志向を凝らした罠や策略を巡らしていたが
私はというとこれといったものが思いつかず困っていた。

いい策が下りてこないかとぷらぷらと中庭を歩いていたが当然そんなんで思い付くはずもなく。
ちらと視界に映った池を見つけて、ああもうこれに突き落とすのでいいやと半ば投げやりになったのだった。


さて、あとは忍たま一年が誰か来るのを待つだけだが。
するとちょうど藤色のふわふわした髪の子が近くを通りかかった。なんというグッドタイミング。
気配を殺してさあ突き落とすぞといったところでそれは起きた。

まず忍たまが地面になぜか落ちていた小さなボールを踏んでスッ転んだ。
後ろ手に転んだので背後の木に頭をさらにぶつけて
そのままふらふらよたよたと斜め歩きになったと思ったら、誰が掘ったのか知らないが落とし穴へ落ちてしまった。

気配を消すことも忘れて「うそやん」と思わず呟いた。何だ今の見事な負の3連鎖は。
まるで計ったかのようだがボールなんてたまたまだし、頭をぶつけたのだって計算してできるわけない。
ああ、それにしても痛そうだった。
先に落ちられては意味がないから、とりあえず目の前のかわいそうな忍たまを助けてあげようと落とし穴に駆け寄った。


「おーい、大丈夫?」

「いてて、大丈夫…ってくのたま?」

「先に言っとくけど私が仕掛けたんとちゃうからな」

「そうだろうね、これたぶん綾部先輩の落とし穴だから…」


壁面はしっかりと固められていて、手や足をかけにくくしてあるらしい。
それならとあやべ先輩が掘ったらしい落とし穴に縄梯子を降ろしてやる。
登っておいでと声をかければ、遠慮がちに足をかけた。
無事に登り終えて忍たまもほっとした様子だ。


「助けてくれてありがとう。僕は一年は組の三反田数馬だよ」

「私は山川。それにしてもすごい連鎖やったな。ちょっと見てて感動したわ」

「ええ…感動しないでくれよ。いつもこうなんだ。僕は不運だから……」


数馬が苦笑しながら自分が不運なばっかりに起きた出来事を一部話してくれた。
ウソだろうと言いたくなるようなものばかりだったけれど本当のことらしい。
おまけに不運な人ばっかり集まる保健委員会に所属してるそうな。
そういえば前に怪我をして医務室に行ったとき、善法寺伊作先輩も包帯を踏んで転んでたりしてたような。
あれってただのドジじゃあないんだな。
…なんというか気の毒である。


「うん…まあ、強く生きてな。いいこともたくさんあるから」

「はは、ありがとう。大丈夫、がんばるよ」


すべての保健委員会の平穏を祈ってると遠くから数馬を呼ぶ声と足音が聞こえてきた。


「数馬!大丈夫か!」

「藤内!」


藤内と呼ばれた前髪と結った髪がくるりとしている男の子が息を切らせてやって来た。
今はあちこちでみんながあの手この手で忍たまを罠にかけてるから
この藤内くんも数馬を心配して駆けつけたのだろうか。私がやったわけではないが。

そこではたと自分もその授業の途中であり
思わぬハプニングで達成出来なかったことを思い出し、しまったと汗をかく。
池の傍で何やら話をしてる二人を見やって、ぴんと思いついた。
数馬がダメなら藤内がいるじゃないかと。


「すまん、藤内くん」

「え?―うわぁっ!」


先に謝っておいたら済むとかそんな問題じゃないが、一応入れておいて藤内を池へと突き落とした。
ばしゃんと大きく水がはね上がって傍にいた数馬にもたくさん降りかかった。
ああ、またここでプチ不運が。私のせいだけども。


「お前!いきなり何をするんだよ!」

「ごめんごめん。くのいち教室の授業でなぁ。忍たまを罠にかけんとあかんかってな」

「罠って…この池に突き落とすのが?」

「うん。やったね大成功」

「大成功じゃなーい!あとこれは罠じゃない!雑すぎるだろ!」


池から上がった藤内に罠というのはという定義から何から
まるで先生が教えるように懇切丁寧に解説され、そしてあげく私の粗雑さまで説教されてしまった。
ちなみにその合間に自己紹介を済ませた。なんとも滑稽である。
ひどいやと呟けばどっちがとまた怒られる。


「これからはちゃんと予習復習をしてだな―」

「あのう」

「なんだ」

「そろそろ着替えないと風邪ひくで。数馬も結局びしょ濡れになっとるし」

「誰のせいだ、だれの!」

「いひゃい!いひゃい!」


心配半分早く終わらないかなと思うのが半分でそう言ったら頬っぺたを両手で摘ままれ伸ばされた。地味に痛い。
数馬が藤内その辺で許してあげてと諭してくれたおかげで私の頬の危機は去った。引きちぎられるかと思った。


「じゃあそろそろ僕たちは行くよ」

「うん。二人ともごめんな」

「はあ…もういいよ」

「道中気をつけてー。今度はもっとうまくやるわ」

「二度とごめんだけどな」


バイバイと手をふり別れる。
その際に数馬のくしゃみをする声が聞こえて、池に落ちたのは藤内なのにこれじゃ数馬が風邪を引きそうだと思った。
これでこじらせたら確実に私のせいだから何かお見舞いを持っていってあげよう。うん。



授業が終わって案の定先生から大雑把すぎると怒られて、見事赤点をくらってしまった。
最近先生に怒られてばっかりだ。反省しよう…。
次はちゃんと藤内の言う通りまじめにやろうと決意した。










15.10.17