最近気温が下がってきた。冬がやってきたのだ。
冬眠も近づくからと今日も今日とて生物委員会の手伝いに駆り出されていた。
図書室から本を借りたのでそれをゆっくり読んで時間を過ごそうとしていたら
生物委員会の面々に捕まり飼育小屋の修繕を手伝うことになったのである。
「ももう生物委員会に入ったらいいのに」
用具倉庫へ使った物を返しに行く道のすがら、孫兵がそう言ってきた。
がちゃがちゃとなる道具箱を抱え直す。
「そうだなあ。もう頻繁に手伝いに来てもらってるし正式に入ってもらうと助かる」
「竹谷先輩まで」
朗らかに笑って竹谷先輩もあわよくばと勧誘してきた。
確かにもはや生物委員会に所属しています、と言っても過言ではないくらいお手伝いをやっている。
くのたまは基本的に委員会活動は無いのだけれど、許可が下りれば入れるらしい。
生物委員会の活動は嫌いではないけれど、正式にとなると悩むところである。
「まあ考えておいてくれよ」
竹谷先輩は空いた手で私の頭をぽんぽんと撫でた。
それにはいと返事をしつつ、どうしようかと悩んでみるのだった。
*****
「ちゃん、ちょっといい?」
本日の授業がすべて終わって、これから何をしようと考えていたところで千歳ちゃんが話しかけてきた。
聞けば今日の実技の授業が散々だったので、体術の練習に付き合ってほしいそうだ。
それに二つ返事で答えると千歳ちゃんはぱっと表情を明るくして、ありがとうと笑った。
裏山の開けた所で千歳ちゃんとしばらく鍛練をした。
こうきたらこう、向こうが蹴りだしてきたらこうして、と真面目にみっちりこなしたら
千歳ちゃんも分かってきたのか、先程より動きがよくなっていた。
「ちゃんのおかげでうまくなった気がするよ!」
「いやいや、千歳ちゃんも元々素質がよかったんやから」
「そんなことないよー。これで明日の授業も大丈夫そうだわ。本当に付き合ってくれてありがとね」
ぶんぶんと両手を握って振り回される。
今度お礼をすると意気揚々と帰っていく彼女を元気で明るいなとぼんやり見送った。
汗もかいたしお風呂に入りたいなと思いながら一歩足を踏み出そうとすれば
何かピリッとした気配を感じて咄嗟に後ろに飛んだ。
すると目の前にバレーボールが人の力らしからぬ速さで飛んできて、地面が軽くへこんだ。
えっ、何事なの。
「さすがだな山川!やはり私が見こんだとおりだ!」
がさりと草むらから見知らぬ忍たまが現れた。
制服の色からして4年生の先輩だろう。
というかバレーボールであんな地面へこんだりするの。
「えっと、3つほど質問よろしいでしょうか」
「なんだ?」
「まずどちら様でしょうか」
「4年ろ組の七松小平太だ」
「はあ、七松先輩。なぜ私の名前を?」
「さっきいたくのたまがそう呼んでいただろう」
「確かにそうですね。では見こんだとは」
「組手を見ていたのだがおまえはくのたまなのに筋がいい。どうだ、体育委員会に入らないか!」
ほけっと七松先輩の言うことを聞いていたが我にかえって言葉の意味を咀嚼する。
体育委員会へ誘われたみたいだけど、そこで三之助から体育委員会について聞いていた話を思い出した。
なんでも裏山のずっと遠くまでマラソンをしたり、延々と塹壕を掘らされたりその他もろもろエトセトラ。
とにかくきついしんどいと言っていたのだ。
その時は大変な委員会だなあと他人事のように聞いていたのだが、まさか自分が誘われるとは。
正直断りたいなと思ってちらっと顔色を窺えば
もちろん入るだろうという期待に満ちた純粋な目と同時にまさか断らないだろうなという静かな圧力も感じた。
なんだよこの先輩怖いよ。
「でも、体育委員会ってきついって聞きますし、私じゃ足を引っ張っちゃうかも……」
「それだけ動けてたら問題ない!私が保証する!!」
すごい自信満々に言い切られた。
評価してくださるのはうれしいんだけどなぁ…。どうしようかと思い悩む。
孫兵に生物委員会に入ってくれとも言われてるしな。
うんうん唸っていると七松先輩ががっしりと両肩を掴んできた。
「体育委員会に入れば強くなれるぞ!!」
「強く……」
まぶしいくらいの笑顔と言葉の力強さ、それに加えて肩に置かれた手の圧力もあってか
気がつけば私はこっくりと頷き「入ります」と口にしていたのであった。
「そうか!なら入ってくれると思ってたぞ!
じゃあさっそく活動が明日あるから遅れるなよ」
ぶんぶんと掴んできた両手を上下に振り回されて肩が外れるかと思った。
じゃ!と手を上げて颯爽と去っていた七松先輩の背中を見送る。
言ってしまったなあという後悔と同時に強くなれるならいいのかもと思ってしまっている私がいるのであった。
後日、正式に体育委員会のメンバーとなり、三之助にはゆるっと歓迎され
滝夜叉丸先輩には本当に入って大丈夫なのかと心配された。
そして委員会活動はやはりめちゃくちゃきつかった。
あと孫兵には裏切り者!と怒られたけど七松先輩のことを話せば仕方ないかと諦め同情してくれた。
暇がある時は手伝うから許してと付け加えたら、絶対だぞと孫兵と約束した。
16.8.12