※サブストーリーとは無関係です
今日も仕事をいつも通りにこなしていたら、ポケットの中の携帯がブルブルと振動した。
マナーモードなので問題はない。
メールだろうとやり過ごしていたら、予想と違って長い間震えている。これは着信か。
一応断りを入れて事務所を出て、廊下の端っこまで移動する。
未だに震えている携帯を取り出して誰かと確認すれば友人だった。
「もしもし?」
「あ、!やっと出た」
「こちとら仕事中なんですけど」
「あ、そうだったね。ごめんごめん」
商業高校とはいえ、皆が就職の道に進むわけではなく大学や専門学校に進学する人もいた。
友人も大学へ行った一人である。
「ほんとごめんね、手短に用件話すから」
「いいよ、どうしたの?」
「あのね今週の金曜の夜って空いてる?」
「何も無かったと思うけど……」
「ほんとに!?じゃあお願いなんだけど合コンに出てほしいの!」
「はあ?」
思わずすっとんきょうな声が出てしまったけど仕方ない。
事情を聞けば元々出る筈だった子が都合が悪くなり来れなくなったのだという。
他にも誘ってみたがそれぞれ予定があるそうで、なかなか捕まらなかったそうな。
「だからね、お願いだから来てくれないかな」
「…ええー。嫌だよめんどくさい」
「理由が正直すぎ!お代は私がもつし、ご飯食べに来るくらいだと思ってさ。
ほんとお願い!その時どうしても狙ってる人がいるから、穴空ける訳にはいかないの!」
「合コンねぇ……」
気乗りしないのは確かだが、友人がここまで必死に頼み込んでくるのもめずらしい。
よっぽどその人の事が好きなのか。
しばらく悩んだけれど、これもまあ人助けだと思うことにしよう。
「わかったよ。参加してあげる」
「マジで!ありがとう!!また詳細は後で連絡するね」
「はいはい」
返事をした瞬間途端に声が明るくなって思わず苦笑した。
なんやかんやで彼女に甘いのかもしれない。
通話が切れた携帯をぱたりと閉じて息をつく。
「なんや、ちゃん合コン行くん?」
「うわっ!ま、真島さん!」
いつの間にか背後にいた真島さんに声をかけられて肩がはねた。
ていうかこのパターン前にもあった気がする。
「友達が一人来れなくなったからどうしてもって言うから行くだけですよ」
「ええやん、ええやん。理由はなんであれ、ええのおったら儲けもんやないか」
「うーん…そんなものでしょうか」
「そんなもんやて。変な男には引っかかったらあかんでー」
若いってええなぁとか何とか言いながら真島さんは去っていった。
まったく嵐のような人だな。暫しその背中を見送ってから携帯をポケットに入れて事務所へと戻った。
合コンなんてどうしようか、なんて考えながら。
*****
時間というものはあっという間に過ぎていくもので、もう約束の金曜日になってしまった。
帰る間際に真島さんからええ男おったらええなぁなんて背中をバシバシ叩かれたし、正直あまり乗り気ではない。
それでもまあ友人のためを思ってだと自分に言い聞かせて、待ち合わせの場所へと急いだ。
「あ、ー!」
先に到着していた友人がぶんぶんと手を振る。
他の子達とも久しぶりだとか元気だったとかとりとめのない話を続けた。
今日は4対4でやるようで、もうじき相手の人達も着くらしい。
友人もお目当ての人以外は初めて会うそうだ。
どんな人だろうと皆で話していたら、あっ!と友人が声を上げた。
続けてこっちこっち!と手招きするので、いよいよご対面かとそちらの方を見て固まった。
「げっ」
茶髪に青いブルゾンに目立つ整った顔立ち。
先の思わずもれた声はお互い顔を合わせた瞬間二人の口からほぼ同時に出たものである。
「ま、正義さんなんでここに……」
「いやいやそれはこっちの台詞だって」
お互い思いっきりうわあという表情をしているが、友人は呑気にあれ?二人知り合い?なんてきょとりとしている。
それに友達だよとどこか悟ったような気持ちで答えてから、
いいから移動しようよと相手の一人が促してくれたおかげで動き出せた。
友人達からはどういう事か根掘り葉掘り聞かれたけども。
*****
谷村正義、彼とは秋山さんと同様母をきっかけに知り合った。
離婚して雀荘で働き出した頃、正義さんがその店の常連で母とよく話すようになり、同じく母の職場に顔を出していた私とも話すようになった。
まだその時は高校生であったから、数えればもうけっこう長い付き合いである。
警察官で見た目もかっこよくておまけに腕っぷしも強いとあらば
引く手数多な正義さんだがかくいう私は彼に恋心とか抱くことはなかった。
どちらかといえば年の離れた友達というのがしっくりくるし正義さんもそう思っているだろう。
それに普段の彼を見ていればそんな気も起こりにくいのではないか。
サボり魔、ギャンブルその他もろもろの事である。
あと性格も少々いじわるかも。
まあフォローするならばもちろん良い所もたくさんあるけど。
「いや、ほんと驚いた。まさかがいるなんて思わなかったよ」
「こっちもですよ。世界って狭いんですね」
「そうだな」
居酒屋の個室に腰を落ち着けて、軽く自己紹介や話を進めた後なんとなくうまいことペアができあがって
お互い数合わせで来ていた私と正義さんは向かい合ってひたすら食事とお酒を楽しんでいた。
もともと友達関係であるから気楽なもので、ある意味良かったのかもしれない。
ちらりと隣の友人を見ればお目当ての人と仲良さげに話している。
他の子も楽しそうだ。よかったよかった。
ちなみに移動中に正義さんとの関係やなんやを聞かれ、
期待されてるような関係ではないと否定してから狙ってみるかと勧めてみたがイケメン公務員とか良すぎるけど敷居が高い!と首を振っていた。
うーん。確かにそうかも。
「最近どうなんだ」
「どうとは」
「私生活とか仕事とか」
「ああ、そういうの。どちらも順風満帆ですよ」
「仕事場とかアレな所だけにだな、なんかあったら言えよ」
正義さんは最初私が真島さんの所で働くと言ったらわりと心配された。
何やってるところか分かってんのかだとか極道の所で働くなんて危ないだとか色々と口酸っぱく言われたものだ。
事務員だから大丈夫だし、真島さんけっこう仁義あっていい人だよとちまちまと説得したら渋々納得してくれた。
なんだかんだで私の心配をしてくれるのだからいい人である。
「正義さん一応警察官ですもんね」
「一応ってなんだよ一応って」
「だってこの前もお母さんが正義君うちの雀荘でぼろ勝ちしてたわよーって言ってましたもん。あれ勤務時間内ですよね」
「違う違う。あれちょっとした息抜きだから。人間根詰めてばっかりだとダメになるだろ」
「ちょっとした息抜きに麻雀する人がいますか」
「ここにいます」
「そうでしたダメだこの人」
ぽいぽいと会話を続けながらテーブルに並んだ様々な料理を食べ進めた。
「あ、これおいしいですよ」
「どれ?―うん。まあまあだな」
「なんで上からなんですか。
そして然り気無く嫌いなもの人の皿に寄越さないで下さい」
「いいじゃんかケチ」
好き嫌いは良くないと地味に返す返されるの攻防を繰り広げたりしていたら、すぐに時間は過ぎ去っていていつの間にかお開きになっていた。
友人達はどうやらうまくいったようでそれぞれ二次会をやると機嫌良さそうに解散していった。
当然二人あぶれた私達は自然と並んでその背中を見送った。
「帰りますか」
「そうだな」
送る、と正義さんが短く告げてどちらともなく歩き出す。
すっかり夜の色になった神室町はあちこちで賑やかな音を立てている。
電飾も客引きのお兄さんもお姉さんもぎらぎら光ってて眩しい。
「はよかったのか?」
「何がですか?」
「今日合コンだったのに俺とばっか話してて収穫ゼロじゃん」
「まあ数あわせですから。それ目的じゃなかったですし。そういう正義さんもよかったんですか?」
「俺も数あわせですから。今はそういうのいい」
「そうですか。でも正義さんもそろそろいいお歳……」
「生意気いう口はこの口か」
「いひゃい!やへてくらさい!」
ぐにぐにと頬をつねられて変な話し方になってしまった。
しかも正義さんのせいなのに何言ってるか分かんねえなー、と煽られるというおまけ付きだ。ちょっと腹立つ。
散々私の頬を弄んで満足したのかぱっと離されて、ようやく解放された頬を両手で擦る。
大袈裟だな、なんて言ってるけど結構痛かった。もちろん抗議しておいた。
「あー、なんか麻雀打ちたくなってきた。朝子さんとこ行こうぜ」
「いきなり飛びましたね、ていうか今からですか!?」
「当たり前だろ。も一緒に」
「嫌ですよ。正義さんめっちゃ強いじゃないですか!すぐ賭けにするし!」
「賭けるから面白いんだろー。じゃあ賭けなしでもいいから早く行こうぜ」
「えー」
手をぐいぐい引っ張られて何故か勝手に雀荘行きに変更されたが、言っても聞いてくれないので諦めて着いていくことにする。
男より食事、合コン後に麻雀、そんなようでは当分私には彼氏は出来ないだろうなと改めて感じた日だった。
ねむたい魚の呼吸
15.03.14
title by alkalism