なんか最近からまれやすくなった気がする。
何にとはチンピラとか恐い人達にである。
ある時はぶつかってベタな骨折れたわー慰謝料払えやーとか
この辺危ないからさ、俺達が送ってやんよー、その代わり礼たっぷりもらうぜげへへだとか
よくそこまでバラエティーに富んでるなと思わず関心してしまうくらい様々な理由でからまれる。
その度に適当に相手の気を紛らわせて脱兎の如く逃げたり、
どうしようもない場合は真島さんより授かった護衛グッズで撃退した。(もちろん複数相手は無理である)
なんでこんなにもからまれるのか考えてみたが、どうにも真島さんの所で働き出してからである。
なんだろう、その道特有の喧嘩オーラみたいなものが私にも染み付いてしまったのだろうか。私全然喧嘩強くないのに!
おかげで日に日に逃げ足だけは早くなる一方である。
いつか大怪我したりするのかなあと思いつつもここで働いてから色々な事に巻き込まれたり見たりするせいか妙に腹が据わってしまい
まあその時はその時だと頭の中の片隅では考えている。(慣れただけともいう)
袖振り合うも多生の縁とはよく言ったもので、からまれている時に誰かが助けてくれる事もある。
真島さんだったり南さんとか組の方達、秋山さんや正義さん、花さんも意外と強くて助けてくれたこともあった。
レアな所で桐生さんにも助けて頂いた事もあったな。
最近は沖縄に住まいを移されたし、神室町にいる事が少なくなったから滅多にないけれど。
こういう時神室町で知り合いが多くて助かったなぁと思う。
そんな事がちょくちょくあったけど、近頃は落ち着いていて実に平和であった。
ちょっと事務所内がごたごたしてるけど末端の平事務員の私には直接的には関係ないことである。
そういや秋山さんも何か警察にお世話になったり、誰だかに狙われてたりしてるようだけど。大丈夫なのだろうか。
考えてみるとやっぱり平和ではないのかも…。
密かに気落ちしてとぼとぼと神室町を歩いていたら、背後からおい!と声をかけられた。
もう嫌な予感しかしない。
もしかしたら私じゃないかもとそそくさとその場を離れようとすれば、さっと前方に回り込まれてしまった。
某RPGで逃げるコマンドが失敗した気分だ。
「何無視してくれちゃってんのお?」
「いや、無視とかじゃないんです。人違いかと思いまして……」
「アンタに用があんだよ!決まってんじゃねえか!」
決まってませんよと反論しそうになったが口を慎んだ。
火に油を注ぐ真似はしたくない。
相手は3人。
左から茶髪、金髪、坊主といった見た目で格好もかなりチャラい。
如何にもゴリゴリのチンピラである。
さっと周りを見渡してみたけど、何故か今日に限って通りに人が少ない。
当然知り合いもいないわけで。
「ど、どういったご用件でしょうか?」
「はっ、お前その様子じゃ俺達のこと覚えてねぇようだな」
金髪が馬鹿にしたように話し出す。
どうやらこいつがリーダー格のようだ。
「俺達アンタと会うのは2回目なんだよ。
そっちが覚えてなくてもこっちはしっかり覚えてんぜ。何せあんな事されたからなあ」
あんなこととは。
意味深な言われ方して心底気持ち悪いが表情に出さないよう努めた。
この人達の顔には見覚えないけど、チンピラの様相に発言からして以前からまれたが護衛グッズで撃退した人だろうか。
「俺達はなぁ、アンタにちょっかいかけてスタンガンでのされちまった奴らだよ。思い出せたかあ?」
「はあ…まあ」
やっぱりそうでした。
スタンガンでのされた輩ですという現実ではありえないような自己紹介にこんな状況でなければ吹き出してしまう所だ。絶対笑わないけど。
心の中で笑いを堪えているとは露知らず金髪はとうとうと語りだした。
「アンタにそのスタンガンでやられてからな、もうダメなんだよ。」
「はぁ」
何がダメなんだろうか。主語が無さすぎて分からない。
…まさかあの強力さのせいで後遺症でも残ってしまったんだろうか。
だから使っても大丈夫か真島さんに聞いたのに!
慰謝料払えやゴラということなのか。
そう来られるとこっちもやってしまった手前なんとも言い難いけど。
でもあの時ちょっかいかけてきたのはそっちだし、正当防衛しただけだし……。
「―おい!聞いてんのかコラ!」
「えっ!すみません聞いてませんでした」
「聞いとけや!素直か!」
金髪リーダーから意外とノリのいいツッコミを頂いた。
とりあえずすみませんともう一度謝っておいて話を聞くことにする。
どちらにせよこの人達から聞かないことには分からない。
「だから、もうあの衝撃が忘れられないんだって」
「衝撃って」
「アンタの持ってるスタンガンのだよ!あの強い電流をくらっちまったら他のなんて生やさしすぎる!」
「その強さでしか味わえない感覚!まさに至高!」
「アレなしじゃ感じないんだよ!物足りねぇ!」
3人がそれぞれ一様に叫びだした事に絶句した。
この人達今とんでもないこと口走らなかったか?
いやいやいや、待てちゃんと確かめないと嫌だけど恐いけど!
「つまりまとめますと?」
「あのスタンガンをもう一回俺らにやってくれ!」
もしかして、いやもしかしなくともこの人達……
へ、変態だー!!
ひゅるり
心なしか冷たい風が私達の間に吹いて、言葉の意味を理解したと同時に身震いした。
今度こそ全力で引いた、ドン引きだ。
これで引かない人がいたら心から称賛したい。
今までたくさんの人と出会ってきたがこんな変態は初めてである。
ちょっといやかなりどうしたらいいか分からない。
「待ってください落ち着いてください」
「俺らは至って冷静だ」
「冷静な人があんな発言するわけないです。
ほら、じゃあこうしましょう!スタンガンは皆さんに差し上げますから好きなだけ楽しんで下さい!」
「それじゃあ意味ねぇんだよ!アンタからされるからいいんだ!!」
「なんですかその謎告白は!?」
ズバァン、と無駄にきりっとして言われたが言ってることはただの変態のそれである。
ヤバイ色んな意味でこの人達ヤバイ。
今までにない危機に頭の中は大混乱である。
いいだろう、いいじゃねぇか、とじりじり迫られていよいよ本格的にまずい。
護身のためとスタンガンを使えば思うつぼだし、こんなときに限って催涙スプレーを家に忘れてしまった自分を呪いたい。
こうなったら―
「あっ!親方空から女の子が!!」
「えっ!シータ!?」
びしっと明後日の方向を指差して叫べばチンピラ達はそっちの方へと振り向いた。
案外どんな言葉でもいいから叫んで指差せば人は思わず視線を外してしまうらしい。
そしてこの人達意外とノリノリである。
でもよかった引っかかってくれて!
今の内にと全力で逃げ出せばようやく気づいたのか待て!と追いかけてくる気配がした。
「着いてこないで下さい!」
「誰が逃がすか!」
「俺達は去るものは追うスタイルなんだよ!」
「今すぐそんなスタイル捨ててください!」
必死に足を動かすけどやはり男女の体力差というのは歴然で次第に呼吸も荒くなってきた。
でもここで捕まるわけにはいかない。絶対に。
縺れそうになる足を根性で動かして路地裏や曲がり角を駆使してぐねぐねと走る。
少し差は開いたけど追いつかれるのも時間の問題だ。
どこか隠れられる所を探さないと―。
辺りを見回すが出てきた場所が悪くてあまり隠れられる所が見当たらない。
焦りばかりが募ってくる。
どうしよう、どこに隠れれば…。
ふと視線をやった自動販売機の横にとても大柄な男の人が立っていた。
あれだけ大きければ後ろに回らせてもらえば私一人くらい隠れられるだろう。
顔立ちはちょっと厳ついけれど人は見た目で判断してはいけないと日頃の生活の中で身に染みている。
他に案もないし迷っている時間はないと意を決してその人の元へと近づいた。
「すみません!少しだけでいいので背中貸してください!」
「はあ?何を言うとるんや…って、おい!なんやねん!」
「ごめんなさい!ほんとちょっとだけでいいんで!匿わせてください」
困惑する男の人を差し置くようで申し訳ないが一刻を争うのだ。
さっとその大きな背中の後ろに回ればやっぱりちょうどよくすっぽり私の姿を隠すことができた。
まだ何か言おうと私の方へ振り返ったその直後にあのチンピラ達声が聞こえた。
「―来た!」
小さく呟けば男の人は声のする所に顔を向けた。
私も背後からそっとバレないよう覗き見ればあの三人組がバタバタとこちらに走ってくるのが見えた。
思わずぎゅっと目の前にある男の人の上着を握れば
察してくれたのか何も言わずに自動販売機と体を使って私が奴らから見えないように隅へ寄せてくれた。
「ちっ、アイツどこ行きやがった」
「まだ近くにいるはずだぜ」
「あっちか?」
三人組はこちらに気づかず慌ただしくこの場を離れていったようだ。
「……あいつら行ったで」
すっと寄せていた体が離れて、掴んでいた手を慌てて離した。
今度はちゃんと男の人の前に回って頭を下げた。
「突然すみませんでした!本当に助かりました!」
「別にかまわへんけど。それにしても嬢ちゃんあんな奴らに追われるなんてどないしたんや。」
思ってたよりも落ち着いた声音で訪ねられて、さっきまでの焦燥感が少し治まってきたようだった。
本当はあんな理由を話したくないのたが、助けて頂いた手前そういう訳にはいかないと腹を括る。
「えっと、変な話なんですけど事実ですからね―」
*****
「ただの変態やないか」
ありのままに事実を話せば、そう怪訝な表情で一言頂いた。
まあ、そうとしか言いようがないのだから仕方ないけども。
そうなんです変態なんです、と私も続けて言う。
本当人間って複雑怪奇な生き物である。
「おかげさまで何事もなくて、全部お兄さんのおかげです」
「よかったな。それとお兄さんて歳ちゃうわ」
「失礼でなければお名前を聞いてもよろしいですか?」
「……鈴木や」
「鈴木さんですか。私はです」
間を置かれて名乗られたけど、特に気にすることなく改めて鈴木さんへお礼をした。
そんな大したことじゃないと居心地悪そうにしていたけれど。
「それじゃあ、私そろそろ失礼します」
「一人で大丈夫か?まだあいつらうろついてるかもしらんで」
「大丈夫です。なるべく人通りの多いところから行きますから」
お気遣いありがとうございます、と頭を下げて顔を上げた瞬間「見つけたぞ!」と聞き覚えのある声が背後から聞こえて心臓が口から出るかと思った。
「……やっぱり一人は無理みたいやな」
「す、すみません…」
下がっとき、と私の腕を軽く引いて庇うように目の前に立ってくれた。
私からはその大きな何とも頼もしい背中しか映らなくて、
こっそりと横から顔を出して覗けばやはりあの三人組が立ちはだかっていた。
本当にしつこい輩である。
「お前らええかげんにせえ。この子が迷惑しとるんが分からんのか」
「なんだテメェは!」
「構うな!やっちまえ!」
「聞いた通りほんま聞く耳持っとらん奴らやな」
いきり立つ三人組を前に鈴木さんは悠然と肩を回した。
たぶん強そうだから大丈夫だと思うけど、少し心配だ。
*****
瞬殺だった。
いろいろと心配していたことは杞憂で
どっちがとは言わずとも分かるであろうが、わっと声を上げて飛びかかってきた三人組を鈴木さんは意図も簡単に倒して見せた。
恐らく5分もかかってない。カップラーメンが出来上がるよりも早かったかもしれない。
鈴木さんの強さにも驚いたけど、人間って殴られてあんなにバウンドするんだという方が驚いた。
地面コンクリートなのに。すごすぎる。
心配はその人達が生きているのかという心配に変わったが
死んだかと思うくらいやられてたけど気を失っているだけのようで、これもまた人間の不思議な生命力に感心する。
「ま、こんだけやっといたらもう絡んで来んやろ」
「何から何までありがとうございました!」
ぱんぱんと手を払っている鈴木さんに深々と頭を下げた。
何回もええって、と笑う鈴木さんにやっぱりいい人だなと感動する。
「そうだ、何かお礼を―!」
「そんなんいらんて。気使わんでもこんな嬢ちゃんから貰ったりできんわ」
ごそごそと鞄を漁るも目ぼしいものは何もなく、
じゃあ現金かと財布を取り出そうとしたところで鈴木さんにええからと手を抑えられて財布は鞄の中へと戻った。
見ず知らずの私に良くしてくれたのに何も返せないのかと肩を落とす。
「気持ちだけ受け取っとくわ」
もう変なやつに絡まれるんやないで。
そう続けてがしがしと頭を撫でられた。
はい!と元気よく返事すれば鈴木さんは薄く口角を上げた。
そのまま短く別れを告げて去っていく鈴木さんの背中を見送り、もう一度だけその姿に礼をした。
鈴木さんが真島さんの親友で本当の名前を知ることになるのはまだ少し先の話であった。
フリルスカートと機関銃
15.03.14
title by alkalism