たまたま仕事帰りに正義さんとばったり会って、そのままご飯を食べに行こうという話になり適当な店で一緒に食事をした。
パスタがおいしいお店で大変私の好みだった。今度お母さんも連れてきてあげよう。
続いてどっかで飲もうとうろうろしてたら今度は秋山さんに会った。すごい偶然である。
二人でデート?なんて茶化したように言われたけど
お互い鼻で笑って否定したので、分かってたけど言ってみたかっただけじゃないと苦笑された。
流れで秋山さんも一緒に飲みに行くことになり、一番近かったバーに入った。
銘々が好きなものを頼んで、最近あった事だとか仕事の話だとかをぽつぽつと話していた。
私はおつまみに頼んでいたピスタチオを剥くのに真剣になっていたので、ほとんど秋山さんと正義さんが話していたけど。
カウンターで二人の間に座っている私は頭上でぽんぽんとやり取りされる会話を時に相槌を打ち
時に返事をしながら剥いては食べを繰り返していた。
「正義さんそこの紙ナプキン取ってください」
「ん。てかナッツ食べ過ぎだろ」
「だっておいしいじゃないですか」
あらかた食べて満足したので手の汚れを拭こうと正義さん側に置いてあった紙ナプキンを取ってもらう。
礼を言いつつ手の汚れを拭き取っていると右側から、つまりは秋山さんからの視線を感じた。
なんかすごくじっと見られてる気がする。
「秋山さんどうしたんですか?なんか顔に付いてます?」
「いや、そういうのじゃないんだけど」
「じゃあなんですか」
「ちゃんって何で谷村さんのこと名前で呼んでるの?」
ひょいと投げかけられた質問に私と正義さんは顔を見合わせて、ほとんど同時に「何を今更」と秋山さんに返した。
「前々から何でかなーって気にはなってたんだけどね。聞きそびれちゃってさ」
何でと聞かれても特別な理由があるわけじゃないし、本当に些細な事なんだけどな。
面白いネタでもないし。
「そうですね……」
「昔と付き合ってたからですよ」
「えっ!本当に!?」
「なっ!ち、違いますよ!全然!さっきもデート否定したばっかじゃないですか!」
理由を答えようとしたら正義さんが真顔でさらりと嘘をついた。
慌てて否定したものの、思ってもない事をよくもまあそんな涼しい顔で言ったものだな。
秋山さんも嘘だと理解しつつも、それはそれで面白いのになぁ、なんて言っていた。
別に面白くないでしょうに。
「取り立てて特別な理由があるわけじゃないですよ。」
そう前置きしてから昔の出会った頃の話を思い出す。
まだ高校生だった私はその日母の働く雀荘に立ち寄った。
店内に入ると母はなんだか若い男の人と話していて
けっこう盛り上がっていたから声をかけるタイミングを逃してしまった。
ふと会話が途切れた時に母がこちらに気づいて手招きした。
そろそろと近づけば傍にいた男の人がじっとこちらを見ていた。
まっすぐ向けられた視線に少し居心地が悪い。
そわそわと落ち着きのない私を余所に母がその人を紹介してくれたのだった。
「、こちら正義君よ。うちの常連さんで刑事さんなの。なかなかイケメンでしょう」
「あ、こんにちは。初めましてです」
とんと背中を押されたのでこちらも挨拶をして、
下げた頭を上げたその時初めてちゃんと男の人の顔を見た。
確かに母の言う通りイケメンだった。
しかしゆるく着こなされたシャツとネクタイに何だか刑事とは思えないなと失礼な事を思ってしまった。
実際彼の事を知っていく内にそれは強ち間違いではなかったのだけれど。
「どうも。君がちゃんね。高校生なんだ」
「はい、そうです」
「ふうん。若いねー」
その後どんな会話をしたのかあんまり覚えてないけど、大体はこんな感じであっさりしたものだった。
*****
「その時名前でしか紹介されなかったので
そのまま正義さんと呼ぶようになったんですよ。名字知った時にはもうその呼び方で慣れてましたし」
「そうだったっけか」
「ふーん。じゃあ俺もちゃんに最初会った時名前だけしか言わなかったらそうなってたのかな」
「かもしれないですね」
「じゃあさ、俺の事名前で呼んでみてよ」
「秋山さんを?」
「うわー、それってセクハラなんじゃないですか」
「名前呼んでもらうだけで!?」
「……秋山さんの名前って何でしたっけ?」
「あれ!そこからなんだ!」
「タカシとかじゃなかったですか」
「違いますよ正義さん。たぶんタダシとかそんな感じですよ」
「二人とも全然違うからね。もうあれでしょ。二人とも分かってて言ってるんでしょ」
「駿さんですよね。駿さん」
「そうそう。って何気にさらっと言っちゃってるし」
「だって名前呼ぶだけじゃないですか」
「ええー。なんかこうもっと恥ずかしがるとかあるかと思ったのに」
つまんないな、と不貞腐れられたが私に一体何を求めているのか。
正義さんに至ってはいつの間にかグラスを空にさせて、次のドリンク注文してるし。
「でも秋山さんは秋山さんって呼び方のイメージがあるんで名前だと変な感じですね」
「確かにな」
「ええ?そう?…あー、でも最近名前で呼ぶ人周りにいないからな」
「昔はいたってことですね。彼女ですか」
「いやキャバ嬢もしくは風俗系かも…」
「谷村さんは本当失礼だよね」
残念ながら正義さんが失礼極まりないのは前からです。
仲が良いのか悪いのか分からない応酬を右から左から聞きながら、次は何を飲もうか考えるのであった。
幼ごころの溶け残り
15.5.4
title by afaik