!注意
※もしもOTEに事務員の子がいたらの話
※冒頭部分のみ、好きな所だけざっくり書いてます
その日、いとも簡単に日常は崩れ去った。
「真島さん、そろそろ準備した方がいいんじゃないですか?」
「大丈夫やって。今ええとこやから、もうちょいしたらするわ」
真島さんは何が面白いのかげらげら笑いながらいつものゾンビ映画を鑑賞していた。
今日は神室町ヒルズの竣工式なのに建設代表である肝心の真島さんが全くやる気がない。
元々そういったお堅い式典とか嫌いそうだけど、今日ばかりはちゃんと出てもらわないと困る。
東城会の幹部の方々も来られるそうなので、真島さんだけ遅刻なんてなったら大変だ。
きっと本人は全然気にしないであろうけど。
周りばかりがいつもハラハラさせられるのだ。
いつもの理解者兼ストッパーの冴島さんは中国へ出張中だし。
真島さんも多分分かっているだろうから大丈夫だろう。
未だテレビに釘付けなのを横目にお茶でも淹れてこようと立ち上がった時。
その異常なものに初めて出会した。
いつの間に入って来たのだろう。
真島さんの座るソファ、その傍に誰か立っていた。
目は赤く血走り皮膚は青黒く爛れ、ボロボロの服には血が沢山付着している。
持っていたお盆を取りこぼすとがらん、と音を立てて床に転がった。
その音と恐らく顔を青ざめさせている私の異変に気がついたのか真島さんは怪訝そうな表情をしている。
「なんや、ちゃんどないしたんや」
「ま、ま、真島さん!後ろ!」
震える声でそれを指差すとその方向に真島さんがぐるりと首を傾けた。
その異形の存在を目視し、テレビに映されてるゾンビ映画とを交互に見た。
私もつられてテレビとそれを見比べたがなるほどそっくりだ。
……そっくりってことはまさか。
「ええ!ゾンビ!?」
「いやーやっぱほんまもんは迫力が違うわー」
「言ってる場合ですか!」
呑気に宣う真島さんはどこからかショットガンを取り出し、襲いかかろうとしていたゾンビの口に銃口を突っ込んだ。
ドンと鈍い大きな音と共にゾンビの頭が吹き飛ぶ。
思わずひっと引きつったような声が出てしまった。
頭が無くなったゾンビは力なく倒れ動かなくなった。
うえっ、グロい……。
一人倒したと思ったらまたわらわらとこちらに押し寄せてきた。
「うわっ、まだたくさんいる…!」
「ええでええでー。おもろい展開になってきたやないか!」
こんな異常な状況なのに何故か生き生きし出した真島さんに、この人はどんな時でもブレないなと改めて感心した。
してる場合じゃないけど。
「ちゃん行くで!まずはこいつら蹴散らして弾と武器の調達や!」
「……わかりました。ああ、ほんとなんでこんなことになったんだろ」
これがまさか大変な神室町を崩壊させる事態にまで発展するとは、この時の私は夢にも思わなかったのだった。
*****
真島組の倉庫にあった弾丸を補給し、自分の身を守れるようにとハンドガンを渡された。
簡単に扱い方を教えてもらったのはいいものの、私は完全に及び腰になってしまった。
真島さんはフォローするから大丈夫だと気楽に言っていたが、つい先程まで一般人であった私にはなかなか難しい事だ。
それでも無いよりは全然いいことには変わらないけど。
「よっしゃ!これで準備は整ったで。そんならゾンビ狩りに行くとしよか!」
「ゾンビ狩りって……逃げるんじゃないんですか?」
「何言うてんねん。こんなチャンス滅多にないんやで!楽しまな損に決まっとるやろ」
楽しくてしょうがないといったワクワクとした顔をされても困る。
ゾンビ映画が好きなのは分かってたけど、まさか実際に起こってもこんなに楽しめるのかと真島さんの恐ろしさを知る。
「それにちゃんも実戦積んだ方がはよ上達するやろうし」
「……まさか」
「習うより慣れろって言うしな。さあ行くでー!」
「待ってください!ちょ、無理ですってー!!」
*****
実に酷い目にあった。
意気揚々とゾンビの群れに突っ込んだ真島さんはそれはもう鬼のようにばったばったと蹴散らしていった。
私はと言うと着いていくのに必死で、それなのに真島さんがスパルタよろしく銃を使わせてくるのだからたまったもんじゃない。
当然初めて扱ったので当たる処か外れてしまうことも多い。
その度にヘタクソだのどこ当てとんねんだの罵られるのだ。
仕方ないとか初心者だし真島さんみたいにうまくできませんとか言い返しはするけども。
ゾンビといえば頭が弱点やろ。ヘッドショット狙え。
とずぶの素人に無茶ぶりをするのが真島さんスタイルである。
一応狙ってはみるもののそう上手くいくものではない。
しかし、たまたまヘッドショットが決まった時があってその時はやるやないか!と褒めてもらえた。
私も嬉しく感じたのだけど、よくよく考えればいくらゾンビとはいえ
元人間であったものを頭撃ち抜いて喜ぶってどうなのかと考えてしまった。
―いや、深く考えるのは止めておこう。じゃないと自分もあちら側の仲間になってしまう。
ミレニアムタワーを出てからも、巨大な岩のような化け物がいて
おまけに真島さんがキラキラした目でそいつに向かっていった時は本気でこの人大丈夫かと思った。
だって仕方ないと思う。
普通あんな自分より何倍もある化け物にショットガンでいきなりフルスイングしないよ絶対に。
なんとかそいつも倒して、一息ついていたら東城会の幹部の人から真島さんへ電話がかかってきた。
会話の内容は分からないけど二言三言話すと何故かにやにやと嬉しそうな表情になったので、たぶん良くないことなんだろうと察した。
電話を切るなりざかざかと歩き出したので、私も後ろから着いていく。
「神室町ヒルズもなんやゾンビにやられとるみたいやわ」
「やっぱりそうなんですか。それで、真島さんは行くんですよね」
「まあなぁ。大吾に死なれても困るし、何よりまだまだ暴れ足らんからな」
ヒヒヒ、と笑いながら真島さんは言ったけど、東城会の方々を助けに行くというより後半の理由の方が強い気がする。
でも結果的に助けに向かうというのは変わらないから良しとするべきか。
とにかくこの隔離された場所から出ないといけないと、どこかに抜け道がないかと探し回った。
するとうまい具合に壁の下が崩れて隙間ができていたので、そこから脱出することができた。
ずるずると大きな壁の隙間から向こう側へ這い出てきた。
そこにはいつもと変わらない神室町の風景が広がっていて、一瞬今までの出来事は夢なのかと錯覚した。
でも私達の出てきた所を含めてずらりと隔てられた壁とあちらこちらにいる自衛隊が夢ではないことを語っている。
出てすぐに真っ黒な車が私たちの前に停車して
近江連合の二階堂と名乗る男の人がヒルズにいる東城会の人達の危機を挑発するように真島さんに伝える。
言うだけ言い終えるとさっさと走り去った車を見て、けっと真島さんが吐き捨てる。
「あれ明らかに怪しいですよね。あの人がこの騒ぎを起こしたんでしょうか?」
「さあなぁ。ま、何かしら関係してるんは間違いないやろうな」
「あの横に座ってた白衣の人も絶対関与してますよ」
「ゾンビもんに怪しい科学者は付き物やしのう」
けらけらと笑う真島さんに同意しつつ足はヒルズに向けて進んでいる。
電話での話とさっきの二階堂という男の話ではかなりマズイ状態だというのは違いないだろう。
もう直に着く、といった場面で真島さんが発した言葉に思わず足を止めてしまう。
「ちゃんはここにおるんやで」
「えっ」
「えってなんや」
なんでそんな意外そうやねん、と真島さんが不思議そうに言う。
確かにここはあちらと区切られていて安全だ。
実際あの隔離された中では早く出ていきたいと安全地帯にいたいと願っていた。
でも、それでも私は。
「私は真島さんと一緒に行きたいです」
「はあ?何言うとんねん。やっと出られたのにまたゾンビだらけの所行きたいんかい」
「今は安全かもしれないですけど、真島さんも見たでしょう?
あんな岩みたいな怪力の化物までいて、こんな壁なんかいつか崩されますよ」
「……確かにな」
「根本の原因を叩かないと神室町だけじゃなくて、もっとでかい規模で本当に安全な場所なんてなくなっていきます。
今ここでは完全に安心できる場所なんてないんですよ。なら私はまだ真島さんの傍にいた方が安全だと思います。それに―」
続けようとした言葉はわっとなだれ込んできた人々の声によって掻き消される。
見ると七福通りの方からぞろぞろとゾンビが群れを成してやってくる。
それらから逃れようとたくさんの人達がこちらへと走ってきた。
自衛隊が新たな壁を設置しようと、逃げる人を誘導している。
こうしてこれからどんどん神室町は侵されていくのだろう。
だったらどこにいたってきっと同じ事なんじゃないか。
「安全地帯の崩壊とパートナーのヒロインはゾンビ映画に付き物ですよね」
うまく笑えてるかどうか分からないが、笑ってそう声を張って続ければ真島さんは一瞬目を見開いてからにやりと口角を上げた。
「ひっひ、言うやないか。死んでも知らんで」
「大丈夫です。私は死にません」
「根拠のない自信やな。あとヒロイン言うにはもうちょい出るとこ出て色気があった方がええな」
「余計なお世話です」
逃げ惑う人の波に逆らって走り出す。
その背中を見失わないようにしっかり前を向いて足を動かした。
自衛隊の人が止める声がしたけど心の中で謝って振り切るように走った。
がちゃんがちゃんと背後で壁が形成される音がする。
「ちゃっちゃとヒルズに向かおか」
「簡単に行けたらありがたいんですけどね」
「遅れたらあかんで。しっかり着いてきぃや!」
「はい!」
目の前にはゾンビの群れ。
この先どうなるかなんてわからないけどこの人の背中だけは見失うまいと決意した。
15.6.13