初日から魔障患者の看護に、薬草茶作り、洗濯、食事の手伝いその他諸々。とにかく忙しい1日だった。
私達はまだ候補生でやれることも限られているので、とにかく自分が今できることを精一杯やった。
特にこちらが古巣の私や志摩、子猫さんにもちろん坊も勝手知ったる家の事を率先して手伝った。
女子と男子でやることが別れていたのであまりあちらのやっていることは知らないのだが、主に力仕事をメインにやらされているようだ。
時折すれ違った際に志摩がアカン暑い疲れた等とぼやいていた。


とにかくそうしてバタバタと1日を終えて、次の日は何やら明陀の当主などを集めて詮議をすることになった。
本来なら私や子猫さんなんて若い者は参加しないのだが
青い夜で親を亡くしてしまい一応当主は私達になるので出ることになったのだ。
私は両親だけでなく、ただでさえ少なかった家の身内全員が亡くなっているため
当主とはいえ実質の血は私一人しかいないのだ。

当主に加え当日現場にいた者も含めて全員が集まった。和尚は来ていなかったけれど。
坊の方を見ればやはりというか怒っているようだった。
重い空気の中で静かに詮議は開かれた。









*****







詮議は結果として何も解決しないまま、ただ皆が疑心暗鬼になっただけでお開きになった。
お互いがお互いのせいにしてギスギスして正直途中で退席したくなった。
昔から志摩家に宝生家の子どもらは喧嘩をよくしていたけれど、今回のはひどい。今までとは違う。
なにより詮議の場に姿を見せず、何も語らない和尚にまで疑いがかけられていた。
坊もそれに同意している節もあった。確かにそういう目を向けられても仕方ないかもしれない。
和尚の笑顔やぶっきらぼうできつい所もあるが何だかんだ面倒を見てくれた蝮さんに錦さんに青さん
そしていつも優しくて怒ると一番恐い柔造さんやにぎやかな志摩の兄弟。
皆の顔が次々に脳裏に過って苦しくなる。
ああ、何だか嫌だな。



今日は候補生は休んでていいと言われているが、このままじっとしていても余計なことを考えて薄暗い気持ちになってしまうだけなので
虎子さんに言って無理矢理手伝いをさせてもらうことにした。


ほんまに平気なん?休憩しててもええんやで」

「全然大丈夫です。動いてたほうが落ち着くんで」

「…それならええんやけど。あんま無理したらあかんえ」

「ありがとうございます」


部屋や庭の掃除をして戻れば山盛りの洗濯物を抱えたしえみを見つけた。
あまりに多いので足元が覚束なくなっている。
見ていられなくて思わずその山を半分取り上げた。


「あれ、ちゃん」

「いっぺんに運びすぎやで。今にも転びそうやん。手伝うわ」

「ごめんね、つい張り切っちゃって。ありがとう」

「いいえー」


洗濯物を部屋へ運んで、そのまま二人で畳んだ。
どうやら話を聞いてみればしえみも今日1日休まず働いていたらしい。


「そんな無理してんちゃうの、大丈夫?」

「これくらい全然平気だよ!昨日は焦っちゃって失敗しちゃったし
 私皆よりできること少ないから、まずはやれることから一つずつやろうと思って」


奥村の件があってから、しえみも元気がなくて悩んでいるようだった。
それでもなかなか話が聞けなくて心配していたが、どうやら転機があったらしい。
その顔は前より晴れやかになっていた。


「そう、ならええんやけど。しんどくなったら休憩するんやで」

「うん。心配してくれてありがとう!燐も皆もがんばってるし私もがんばらなくちゃ!」


しえみは気合い充分に洗濯物を畳んでいる。
そういえば奥村はサタンの炎を自由自在に操れるよう特訓しているらしい。
皆それぞれたくさん悩みながら努力してるんだよなぁ。
私はどうなんだろうか。あまり進んでいる気がしない。
とりあえず目の前に山をつくっている洗濯物は片してしまおうと、また一枚手に取った。







*****







空になったやかんに新しく作った薬草茶を淹れて両手に持って運んでいた。
あれから洗濯物を畳んで、虎子さんに言われた所へしまった。
しえみとは途中で別れて、魔障者の看護を手伝った。
そこで薬草茶が切れてしまったので淹れに来たのである。
大きめのやかんにたっぷりと入っているので少し重い。
溢れないように注意しながら廊下を歩く。
すると角から突然人が飛び出してきてやかんを落としそうになった。


「あっぶな!おっ、やないか。なにしとんねん」

「金造さん……いきなり飛び出してこないで下さいよ。危うくやかんをぶちまけるところでしたよ」


角から現れたのは金造さんだった。
つい昨日まで床に臥せていたというのに、今日はもう働いていた。軽めの症状だったかららしい。
そういえば昨日は昨日で蝮さん達と喧嘩してたな。


「なんや患者用の茶かいな。はちゃんときりきり働いとるみたいやなあ。感心感心」

「どこ目線なんですか。金造さんこそもう体は大丈夫で?」

「もちろんや。あの程度で倒れとる金造様やないで!」


ふははは、と金造さんは高笑いしている。
相変わらず元気の塊みたいな人だな。良いことだ。


「ほな、私はこれ持って行かなあかんので失礼します」


軽く会釈して金造さんの横をすり抜けようとしたら、首根っこを掴まれた。
首が締まって蛙の潰れたような声が出た。


「ちょお待てや

「いきなり何するんですか。お茶こぼれるでしょうが!」

「お前、顔色悪いで」

「は…?」


そう言われて顔に手をやろうとしたが、両手はやかんで塞がっているのを思い出す。


「そんな悪く見えます?」

「おん。なんや青白くて気持ち悪いで」

「き、気持ち悪いて失礼な」


じいっと渋い顔で見つめられて居心地が悪い。
身動ぎをしてやかんの中身がたぷりと音を立てた。
なんとなしに気まずくて視線を下に向けていたら、金造さんの腕がにゅっと伸びてきて持っていたやかん二つを引ったくられた。


「えっ、ちょっと金造さん」

「お前はええから休んどけ」

「でもまだ手伝いが……」

「アホか!そんなしっろい顔しとったら寝てる病人の方が気ぃつかうわ!これは俺が持っていくからはよ休憩せえ!」


強引に話をつけられて私が「わかりました、ありがとうございます」と返事をしたところで満足そうに頷くと
金造さんは最後に「休んでなかったらしばくからな」と言い残して去って行った。
休めって言ってるのにしばかれるというこの矛盾…。
それでも金造さんなりに気を使ってくれたのだろう。
ああ言われてみればずっと動いていたせいか疲れたような怠い感じがする。
お言葉に甘えてちょっと休もうと踵を返した。












17.4.29