どうにか皆がいる本山へと辿り着いて、状況を説明した。
ざっと周囲を見渡したが、負傷者がかなり多い。こちらもこちらで大変なようだ。
坊と奥村が結界の中心にいると報告すれば、霧隠先生が一足先に向かってくれることになった。
それにほっとしていたら霧隠先生が私達の元へ近づいてきて、それぞれの頭をぽんと撫でた。


「よくやった三輪、志摩、


軽やかに走っていく先生の背中を見つめて、撫でられた頭に触れた。
なんだかちょっと嬉しい。
志摩はこれだけじゃ割りに合わないと口を尖らせていたので、子猫さんと一緒に冷ややかな視線を送っておく。







見上げれば結界の中に巨大な不浄王の本体が見える。
今まで経験したことのない怪物の存在に現実感が薄れるような気がした。
でも今、みんなその災厄と戦っていて実際怪我人も多く出ている。
特に不浄王のすぐ傍にいる奥村と坊はどうなっているんだろう。
霧隠先生、もう着いているだろうか…。

待機していたら突然結界がパンッと破裂して、みるみる覆っていた膜が剥がれ落ちていく。


「坊に何かあったんや!!」


子猫さんが叫んで手足が強張る。
結界が崩れたということは当然術者に何かあったということ。
それが何を意味するかはあまり深く考えたくなかった。


「ちょちょちょ!瘴気が街に流れてまうやん!」

「いや、幸いこの激しい雨が胞子の拡散をおさえてくれとるようや。今はまだな」


焦る志摩の問いかけに八百造さんが答える。
その点はよかったと安堵すべきだが、根本的な解決ではないしそれに坊達のこともある。
その時志摩の錫杖から声が聞こえた。


「不甲斐ない人間共め…」


ぼっと燃えていた錫杖から炎が飛び出して不浄王の方へと飛んでいった。
あれは、八百造さん達が呼び出した烏枢沙摩だろうか。
しばらくして眩い光が灯ったかと思うと青い炎の塊が不浄王へと放たれた。
あれは、奥村がやったのか。

すると山の上からどっと青い炎がこちらへ向かって燃え広がってきた。


「な、なんだ!」

「魔神の炎!?」

「逃げろ!」


周囲はパニックに陥り、炎から逃れようと多くの人が走り回っていたがとても間に合わない。
やがて待機している私達にも炎を被ったが不思議なことに焼ける痛みも苦しさもなかった。


「あたたかい…」

「これは!!炎で菌糸だけが浄化されていく…!?この炎はいったい……」

「見てみい!不浄王の飛沫が消えて地面が見える!」


志摩の言う方を見てみれば確かに今の炎で先程まで道を塞いでいた飛沫は焼き祓われていた。


「奥進めるで、行こう子猫さん!さん!」

「うん!」


子猫さんと志摩に続いて山をまあ登る。
後ろから八百造さんの制止する声が聞こえたが、止まっている暇はない。

不浄王は倒された。ならみんなは、無事なのか。
ただそれだけが気がかりで仕方がなかった。
ガチガチに固まりつつある足をなるべく早くと動かして奥へと進んだ。








*****







辺り一面何もない。
不浄王がいた所一帯が木も含めて焼かれて更地になっていた。
その中心に小さく坊と奥村と霧隠先生が見えて少しほっとした。
走って三人の元へと近づく。
私達の後ろには動けた出張所の人らも着いてきていた。


「奥村くん……坊!!」

「子猫、!志摩!…無事やったか!!」


坊の話す声を聞いてようやく無事であったことを確認できた。
強張り固まっていた体が弛緩していくのが分かる。
奥村もぶんぶんとこちらに手を振ってにかっと笑った。


「子猫丸!!俺やっと炎操れるようになったぞ!
 不浄王以外は燃やさねーようにコントロール出来たんだ!!」

「…成程なぁ。いやほんま不思議な体験やったで
 炎の中におって痛くもカユくもない。逆に菌どもは燃え尽きていくんやからなぁ」

「瘴気に中てられた連中は私も含めて皆浄化された。
 青い炎の中で…!物凄い炎や…感謝してもしきれへん…!!」


志摩と八百造さんから立て続けに褒められて奥村は照れ臭そうに頭をかいた。
そんな中子猫さんがぼろぼろと涙を流して奥村へ感謝と謝罪の言葉を口にする。
子猫さんずっと板挟みになって苦しんでたもんなぁ…。
それにわたわたと慌てている奥村の名前を呼ぶ。


「私からもありがとう、奥村。いろいろとほんま…よかったわ」

「お、おう。も信じてくれてありがとな」


奥村は照れ隠しに傍にいた子猫さんの頭をしゃりしゃりと撫でる横で、視線を感じて振り向く。
坊と目が合ってちょっと気不味そうに視線を反らされた。
つかつかと無言で近づいて坊のお腹をグーで殴ってやった。


「うぐ…っ!何すんねん!」

「ほんま、ほんま坊は無茶しよってからに……
 どんだけ心配したか、死んだかと思って…どないしようかと……!」

「―すまんな、心配かけてもうて」


坊の片方の手を取り、両手で包み込む。
ああ、大丈夫だ。あたたかい。坊は、生きてるんだ。
ぎゅっと力を込めれば空いた手で握り返してくれた。


「でも、生きててくれてほんまによかった…」


様々な感情が胸を締め付けて堪えきれずに涙が溢れてきた。
それにぎょっとした坊が今度は慌てる番だ。


「はっ!?ちょ、泣くなや!」

「ひっく、あほ!坊のあほたれー!」

「あーあ、坊がさん泣かせよったー」

「ちゃうわ!いや、違わんかもしれへんけど…志摩は黙っとけや!」


わあわあと子どものように泣く。
こんなに泣くなんていつぶりだろう。
そういえば生まれ変わってとして生きるようになってから、これ程泣いたのは初めてかもしれない。
坊は私の頭を撫で、背中を擦り、ああでもないこうでもないと必死に宥めてくれた。




不浄王は倒されて、皆が無事で、本当によかった。













17.6.2