下宿先から一歩出た瞬間にギラギラと強い太陽の光が肌をこがす。
手で庇をつくって空を仰ぎ見れば真っ白に輝く陽光がさんさんと辺りを照りつけている。今日もこの国は良い天気だ。


「いやぁ、今日も今日とて暑いですねー」

「本当にねぇ。晴れるのは良いけれどこうも紫外線が強くっちゃお肌が荒れちゃうわ〜」


隣に立つシルビアさんも頬に両手をあてて、参ったというようにごちる。
現在私達は南の大国サマディーに滞在中である。
周辺が砂漠に囲まれているこの国は、それを苦とせずとても栄えた国だ。
というのもここでは二大観光名所があって、一つはウマレース……要は競馬である。
サマディーには大きな競馬場があって、騎手は兵士が行っている。
どこへ行っても賭け事というのは盛り上がるもので、国民も観光客もみんな熱を上げてレースを観戦していた。
特にもうすぐこの国の王子、ファーリスさまの名前を掲げた『ファーリス杯』という年に一度の大規模なレースが開催されるようで、それに合わせてたくさんの観光客が訪れるそうだ。

そして二つ目の名所がサーカス。
これまたウマレースに引けを取らない立派なサーカスのテントが常設されており、毎日公演をしている。
私達はというとこのサーカス団で暫しの間一緒にショーを行っているのだ。
元々シルビアさんの活躍をよく知っている団長さんが是非我がサーカス団で公演を!と頼まれたのが切欠で
それを受けたシルビアさん自身も悪い話ではないので、一緒に盛り上げていこう!と固く握手したのが前の事だ。
シルビアさんも大きな舞台でやるのが楽しいのか毎日楽しそうに様々な芸を披露している。
世界中の人を笑顔にするのがシルビアさんの夢だから、お客さんが喜んでくれるのが嬉しいんだろうな。
かくいう私も彼のショーを見るのは好きだし、シルビアさんの嬉しそうな顔を見ると私も嬉しくなる。


「どうしたのちゃんニヤニヤしちゃって」

「えっ!な、なんでもないですよ」


いつの間にか顔が緩んでいたのか、マヌケな顔をばっちり見られてしまった。
顔を覗き込まれたので慌てて普通の表情に戻して明後日の方へと頭を向ける。


「あらぁ、なにかしらその反応。怪しいわね」

「全っ然怪しくないです!ほら、今日もはりきっていきましょうシルビアさん!」

「ちょっとちゃん勢いでごまかしてない?」


訝しがるシルビアさんの背をぐいぐい押してサーカスのテントを潜る。
こうして今日もまた私達の忙しい一日が始まった。





*****




サーカス団での私の主な仕事は裏方業や雑務である。
備品等の管理に買い出し、ショーに使う小道具の点検や簡単な補修。
これは団員の仲間と一緒にやらないと分からない事もあるし
自分の使う道具は自分できちんと管理する、という決まりなので一緒に作業する。
あとはサーカスの衣装を繕ったりもする。
ここでも母の教えが生きてくるといもので大変助かっている。
他にも諸々その他仕事はあって忙しいけれど、仕事自体は楽しいのでとても充実している。


テントの飾りである垂れ幕をナイフ投げの練習をしていた新人の子がうっかりナイフをそこに飛ばして破いてしまった。
すみませんすみませんと謝る彼に縫えばすむことだから大丈夫だと諭して団員の控え用のテントで繕っていた。
始めてから少しすると受付をしていた団員のミリィさんが休憩に入ってきた。


「あー、あっつい!もうほんと溶けちゃいそうよ!」

「お疲れ様ですミリィさん。今お水いれますね」


ハーブやレモンが入った手製のフレーバーウォーターをポットからコップに注いでタオルと共に渡してあげた。


「ありがとう。……はぁ、冷たくておいしい!今日のは何が入ってるの?」

「オレンジとレモンにローズマリー、あとちょっとだけミントとハチミツを入れてます」

「この暑い時にはさわやかでぴったりねー」


生き返るー、と少々おっさんくさい言い方で一気に飲み干したようだった。
気に入って頂けたようで何よりだ。
タオルで汗を拭いながら私の向かいの椅子に座ると手元を覗きこまれた。


「なに縫ってるの?」

「ナイフ投げの練習で間違えて垂れ幕を破いてしまったみたいなのでそれの補修です」

「ああ、あの新人くんがやったんでしょ。あの子もまだまだねぇ」


ミリィさんが鍛えがいがあるわとイイ笑顔で言うので少し恐ろしく思いながらも縫い物をする手は休めない。


「それにしても今日の公演チケットも完売よ。あなた達が来てから毎日大盛況だわ」

「シルビアさんの力はやっぱり絶大ですね。何度見ても飽きないし楽しいですから」

「確かにシルビアさんのおかげだけれど
 私達はも来てくれてとても助かっているのよ。細かい所までよく気がつくし…いつもありがとうね」


ミリィさんの表情でそれが偽りのない心からの言葉だと分かる。
自分にできることをがんばろうと決めてやっているだけなのだが、こうして誰かの口から直接感謝されるというのは嬉しいものだ。


「そう言ってもらえると私も嬉しいです。これからもがんばります!」

「ふふ、頼もしいわね。…あ!やだもうこんな時間。私そろそろ戻らないと」

「暑いので体調には気をつけてくださいね!」

「はいはーい!もがんばってね!」


ミリィさんはぱちんとかわいくウィンクをして去っていった。
この世界の人達はウィンクが異様に上手いのかな…。似合っているから全然問題ないのだけど。
さて、私もそろそろこれを仕上げなければいけないな。
ぐるりと肩をまわして気合いをいれて残りの作業に取りかかった。












2019.10.19