昼食の仕込みにいくつか足りない材料があったので買い出しに行くことにした。
シルビアさんや他の団員が荷物持ちに着いていこうかと提案してくれたが、そんなに量も重いものもないので丁重にお断りした。


今日はいくらか日差しがマシな気がする。
少し雲が出てきて太陽の熱をうまく遮っているからだろう。
いつも利用しているお店へと向かっていると、向かい側の露店に一人の女の子が立っていた。
なぜ気になったのかというとその子がとてもきれいだったからである。
さらさらの金色の髪にぱっちりとした大きな青い瞳。横顔しか見えないがそれでも美人だということが窺える。
思わずみとれてしまっていたが、あまり人の顔をじろじろ見るのも不躾だと思い視線を戻すと目的地であるお店へと入った。
香辛料や野菜などをいくつか購入して、快活な主人のまいどあり!という元気な声を背に店を出る。
入り口の扉を開けてすぐそこに先程露店を眺めていた美少女がきょろきょろと困ったように辺りを見回していた。

何かトラブルだろうか。
声をかけようか一瞬逡巡したが、ここで帰ってしまってもあの子がどうなったか絶対気になってしまうので彼女へ近づいて話しかけた。


「あの、どうかされましたか?」

「えっ? 申し訳ありません、もしかして邪魔になっていましたか」

「いえいえ全然邪魔とかじゃなくて!なんだか困っている様子でしたのでつい……」

「まあ、ご親切にありがとうございます。お恥ずかしい話なのですが実は仲間とはぐれてしまいまして―」


どうやら露店に並ぶ商品を見るのに夢中になって、気がついたらはぐれてしまったようだ。
そういうことはよくあることだろうと慰めて、ひとまずその仲間という人の特徴を聞くことにした。


「そのお連れの方はどんな見た目ですか?」

「そうですね……イレブンさまはサラサラの髪にやさしくとてもまっすぐな瞳をもった方です。
 カミュさまは青いツンツンした髪で手先がとても器用な方なんですよ。
 ベロニカお姉さまは私の双子の姉で赤いお洋服に金髪の三つ編みで攻撃魔法がとても上手です」


これで全員ですわと頬笑むセーニャさん。
ついでにと互いに自己紹介を済ませて特徴を聞いてみれば、人探しにいらない情報まで教えてくれました。
なんだろうか、会って数分しか経っていないがこれだけで彼女の人柄が分かるような気がする。
ちょっと天然なのかもしれないな。
ともかくセーニャさんのお連れの人は3人。特徴も何となく分かったしいけるだろう。


「良ければ一緒に探しますよ。この城下町広いし人も多いので」

「そんな、あなたも何か用事の途中なのではないですか?」


はたと両手に抱えた紙袋の存在を思い出す。
こちらへやって来た時から身につけていた腕時計でこっそり時間を確認する。
少しなら時間の余裕もあるし、帰ってから急いで作れば間に合うだろう。


「大丈夫ですよ。セーニャさんの仲間も捜探しておられると思いますし、きっと二人の方が効率いいですよ」

「よろしいのですか?では、お言葉に甘えてよろしくお願いします」


ぺこりと頭を下げた拍子にきれいな金髪がさらりと肩から流れた。
今まで色々な人を見てきたけれど美人な子はまだまだたくさんいるのだなぁ……。
特にこの世界は多い気がするのは気のせいか。
思わず固まってしまっていたのか不思議そうにしているセーニャさんにはっと我に返って誤魔化すように笑いながら「いきましょうか」と促した。






*****






結果的に言うと捜索を開始してからものの数十分で彼女の仲間は見つかった。
これも運の良さかしらと思いつつ、早めに見つかって良かったと安堵する。
実を言うと歩いている最中にセーニャさんがあれは何かしらとか露店に惹かれてふらっと消えたりしたので
あっこれは時間かかるかもしれないぞと密かに覚悟していたのだ。


「さがしたよセーニャ」

「どこほっつき歩いてたんだ」

「まったくもう。ぼーっとしてるからはぐれちゃうのよ!」

「すみませんお姉さま。みなさまご心配をおかけしました」


口々に声をかけられているのを端から見て引っ掛かるものがあった。
改めてセーニャさんの仲間を見る。
茶髪のサラサラした髪の人がイレブンさんだろう。
そして、青いツンツン頭の青年がカミュさん。
とすると残ったのがセーニャさんにぷりぷりと怒っている金髪三つ編みの女の子。
彼女がまさかセーニャさんのお姉さんなのだろうか。
その背丈はセーニャさんよりはるかに低く、完全に見た目は小さな子どもである。
確かに彼女は双子の姉だと説明してくれていたと思うのだが。
もしやこの歳でもうボケてきてしまったのだろうか。
軽く混乱していたら彼らがこっちを見ていた。
関係ない話なのだが、よくよく見れば仲間の方たちもけっこうな顔立ちの良さである。
やはりこの世界の顔面偏差値の高さは侮れない。


「あなたがセーニャを連れて探し回ってくれてたのね。ありがとう」

「いえいえ、私は何も……」


件のお姉さんがずいっと前に出てきてお礼を言われ、それが見た目にそぐわずしっかりとした物言いでつい恐縮してしまう。
続けてあとの二人からも礼を述べられたので、さらに自分は何もできていないと両手を前に振る。


「そ、それにしてもセーニャさん。随分と成長期が早かったんですね。お姉さんよりもすごく身長の伸びが良かったようで……」


恐縮ついでに言ってしまえと気になっていたことをぶつける。
すると彼らはなんのことだといった風できょとりとしていたが、互いに顔を見合わせてなにやら合点がいった様子だ。


「違う違う。確かに私の方が今は小さいけれどこれは魔物のせいでこんな姿になったの。
 だから本当はちゃんとセーニャと同じくくらい背丈もあったのよ」

「すみませんさま。説明が足りていませんでしたわね」

「ははぁ……なるほど。そういった事情でしたか。それは大変でしたね」

「そうでもないわ。そいつもちゃんと懲らしめてやったし!」


ベロニカさんが、ふんと腰に両手を当てて得意気に言う。魔法が上手と言っていたし派手に退治したのだろうか。
彼女が大立ち回りしている様を想像していたら、イレブンさんがクスクスと笑っていた。


「ふふっ、まさかこの状態のベロニカとセーニャを成長期の差だなんて勘違いするなんてね」

「普通にいけばセーニャが姉だって言うよな」

「だ、だって嘘をついてるとは思えなかったんですもの。やだちょっと笑わないでくださいよー」


とうとう吹き出して腹を抱えて笑いだしたので制止する。
それにごめんと謝りながら、涙まで滲んでいたのかイレブンさんがそっと拭っていた。
まあ何にせよようやく笑いの波が引いたようでよかった。


「じゃあ、そろそろ行こうか」

「はやく王さまから枝の話聞かないとな」

「あっ!もし用事が済んでから時間があれば皆さんサーカスにお越しください。ウマレースに並ぶこの国の名物なんですよ!」

「ふうん。そんなに勧めるなんてあなたそこに出てるの?」

「いいえ、私は裏方です。でも今特別な出し物もやっていますからぜひどうぞ」


にっこりと営業スマイルで宣伝すればちゃっかりしてるぜとカミュさんから呆れたような感心したような言葉を頂く。
時間があれば行くと返事してくれた彼らを見送ってから時計で時間を確認したら、けっこう経っていたので慌ててテントへと戻ったのだった。











19.10.19