放課後何となく直ぐに帰らず学校内をうろうろと散歩していたら、
柔道場のほうからキェェ!とかなり気合いの入った声が聞こえて思わず肩がびくりと震えた。
何だ何だ。びっくりしたなもう。
恐る恐る中を覗きこめば真田君がブンブンと竹刀を振っていた。
何だ真田君か、と胸を撫で下ろしていると
こちらに気づいたのか、腕を止めると「か。」と声をかけてきた。
「あ、ごめん。何か邪魔した?」
「いや、もうそろそろ終わろうと思っていた所だ。構わん。」
真田君は傍らに置かれたタオルで汗を拭きながら、私のほうに向き直った。
靴を脱いで柔道場に足を踏み入れると、畳の少しひんやりとした感触が足に伝わってきた。
「部活前にもこういう練習してるんだ。」
「練習…というか精神統一だな。
これを行うと部活時により集中することができる。」
「へえ。流石真田君。」
純粋に関心する。真田君は今の時代に珍しいかっちりと真面目で侍みたいな人だ。
いつも凛としていてその芯の強さは凄いと思う。
ふんふんと頷いていたら、ちらとこちらを見てから
「―佐久田はちゃんとやっているか?」と尋ねてきた。
ちよちゃんと私は2年の頃、真田君と同じクラスだった。
おまけに当時の担任がちよちゃんと真田君を学級委員長に任命したもんだからそれは大変だった。
(学級委員長は男女1名ずつである)
あろうことかあの面倒臭がり、怠け者で定評のあるちよちゃんと、
きっちり真面目な真田君と組み合わせたというのだから、
お互い真逆の立場にいる二人は衝突が絶えなかったのである。
何事も適当で何かを決めるにも真田君に丸投げで、
学級委員の集まりにもサボろうと逃げたりするちよちゃんに真田君はいつもキレまくっていた。
適当でいいんじゃね?と言うちよちゃんに自分の意見も言え、すぐ投げ出すな、
人の話をちゃんと聞け等説教は頻繁、果ては集会をサボろうとするちよちゃんを
探し出して連れていったり、兎角真田君はちよちゃんの面倒を見てくれていたのだった。
そして何の因果かその1年間はちよちゃんと真田君はやたら他でも同じグループになることが多かった。
(掃除の班しかり、授業のディベートの班しかり)
一時期のちよちゃんの口癖が「真田うぜぇ」だったのは記憶に新しいものだ。
かくいう私もそんなちよちゃんを宥めたり、真田君と共に委員会へ引っ張っていったりサポートしていた。
そんなことだったから、クラスが離れた今もちよちゃんのことが気掛かりなのだろう。
真田君らしいな、と苦笑した。
「うん。元気にちゃんとやってるよ。
前よりかは結構、マシになった…かなぁ。」
「その微妙な間が気になるが。
……少し目を離すとサボってしまう奴だったからな。しっかりやっているのならいい。」
ふう、と息をついて真田君はまたタオルで汗を拭った。
そろそろ梅雨だし、じっとりとした嫌な暑さが肌につく。
「そういえばは丸井と仁王と同じクラスだったな。」
「うん、そうだよ。最近よく話す。」
「あいつらちゃんと授業を受けているか?迷惑かけていないか?」
「ああ、まあ大丈夫だよ。よく丸井君は私にお菓子をたかりに来るけど。」
「まったく丸井は……。たるんどる。」
眉間にシワを寄せて難しい顔をする真田君はその口ぶりといい、何だか保護者のようだ。
(見た目もそう、とは言えないが)(お父さんみたいだ)
「何か真田君ちよちゃんといいテニス部といい保護者みたいだね。」
「それはあまり嬉しく感じないのだが…。」
「あはは、違うよ。面倒見がいいなぁって思っただけ。」
そう言ったら複雑そうな表情が少し崩れた。
これから部活に行くのだからこれ以上邪魔したら悪いので軽く挨拶をして教室に戻った。
私もそろそろ帰ろう。
立海大のラスト侍。
11.2.4