じめじめした梅雨が過ぎてあの時期なんて無かったかのように、毎日からりとした晴天が続いていた。
そしてそれに比例するようにぐっと気温も上がった。
急に夏を引っ張ってこられたようで、些か平凡な身体の私には堪える。
もうすぐ夏休みだから嬉しいけど、その前に期末テストがあるしなあ。やや憂鬱である。
今日は体育の授業があったので、余計に体力使った気がする。
校舎を出れば途端に襲い掛かる日差しに目を細める。
ここまできたら最早暴力である。
梅雨の時はあれ程お天道様を望んでいたのに、ここまでがんばってほしいとは思っていないぞ。
もう少し自重してくれたら助かる。
ぱたぱたと意味がないと分かりつつも右手で顔辺りを扇ぎながら、ゆったりと歩を進める。
ふと運動部の掛け声につられて横を見ればテニス部のコートが見えた。
学校が無駄に広いだけあって、個々の運動部のスペースも広い。
テニス部も例に洩れずコートが広い。
夏場の炎天下の中、沢山の部員が練習している。
その中心で真田君が激を飛ばしていた。
はあ、がんばってるな。すごいな。
陳腐な感想しか出てこないが本心である。
木陰に移動して更にじっとコートを眺める。
ざっと視線を巡らすと、目立つ赤い頭を捉えることができた。
あの髪色は一番見つけやすい。桑原君と打ち合いをしているようだ。
おお、あんな暑いのによく動くな。流石にちょっとしんどそうだが。
「おや、お客さん。どん人がお目当てですかー?」
「ふおわ!」
両肩に重みがかかったかと思えば、急に耳元へ低音ボイスが襲ってきた。
おまけにふうっと軽く息がかかってぞわりと背筋が粟立った。
右耳を押さえて慌てて振り返ればにやにや笑っている仁王君が立っていた。
「もう少し女らしい声は出せんのか。」
「は、背後から来るとは卑怯な!びっくりしたなもう!」
「なあに、あまりに油断しきった背中だったんでな。つい。」
「ついじゃねぇよ。つかここ学校だから油断もへったくれもないし。」
反論すれば仁王君はにやにや笑いを崩さずにそのまま右隣りに移動してきた。
「つか君、部活は?本来ならあそこに混ざってないといけないでしょうが。」
「ちぃと休憩しとるんじゃ。すぐ戻るきに。」
「ほんまかいな。」
「ほんまほんま。で、は何しちょるん?」
「私は帰ろうと思ったんだけどね、
ちょっとテニス部が練習してんのが目に入ったから。」
「へえ。」
コートに視線を戻せば柳生君が柳君と何やら話をしている姿が見えた。
何か打ち合わせかな。
柳君の手には相変わらずあのノートが開かれている。
「仁王君も練習がんばりなよ。もうすぐ大会なんだってね。」
「何じゃ、知っとったんか。
のことだからそんなん知らんかと思ったぜよ。」
「ついこの間まで知らなかったよ。
丸井君が大会あるって話してたからさ。」
「ほうか。」
「私も試合見に行くよ。面白いって話だし。」
「なら俺の活躍ぶりをしっかとその目で見とくんじゃな。」
「皆自信満々だな。まあ期待しとく。」
まあ実際そう言って強いからレギュラーはれてるんだろうな。
先程まで柳君と話していた柳生君がきょろきょろと辺りを見回しながら誰かを探している。
よくよくその呼び声を聞くと、どうやら仁王君を探しているようだ。
「ほら、柳生君が探してるじゃないか。行かないと。」
「えー。」
「えー。じゃないから。」
「暑いし怠いし暑いしやる気起きん。」
「暑いし二回出てきたよ。
……ほら、今度ガリガリ君奢ってあげるからやる気出して。」
「んなブンちゃんじゃあるまいし食べ物で喜ぶとか。」
「じゃあいらないのか。」
「いる。」
「いるんかい。」
柳生君がこちらにいる私達に気づく。
仁王君を見てから私に視線を移してにこやかな笑みを浮かべ会釈してくれた。
その姿にやはり彼は紳士だと再認識してから自分も笑顔で会釈を返す。
仁王君はあちー。と一言呟いてからのそのそと柳生君の元へ歩き出した。
がんばれー、とその背中に声をかければひらひらと前を向いたまま手を振ってくれた。
夏本番。
「おー、ブンちゃーん。
が今度ガリガリ君奢っちゃるってよー。」
「マジか仁王!」
「奢る相手増やすな!」
11.2.20