夏休みも中盤に差し掛かり、宿題も必死にやったおかげで全て片付き安堵していた頃。
小春ちゃんからメールがきて、東京に来るとのことだった。
四天宝寺も無事に全国行きが決まったと息巻いて
ものすごいテンションの電話がかかってきたのが少し前。
(便乗した一氏君や忍足君が電話越しに騒いで大変だった)
どうやらその全国大会の為、近日こちらに来るらしいのだ。
『そっか、私も応援行くね。』とメールを返せば
これまたすごいハートの絵文字が散りばめられたラブメールが返ってきた。
ついでにその文面をのぞき見していたのか、一氏君から嫉妬丸だしなお怒りメールが届いた。
(もはや私が従兄弟だとかそんなん関係ないようだ)(お決まりというやつである)
そしてとりあえずそれは無視しておいた。
携帯をぱちん、と閉じてからそういや私は立海の応援にも行くのだったと今更ながら気づいた。
しまった、日にちかぶったらどうしよう。
それにもし決勝で両校が当たったら私はどちらを応援すればいいのだ。
……どちらにしても何かしら当たり散らされそうで恐い。
まあ私一人の応援なんてさして関係ないから大丈夫だろうと結論づけて考えるのを止めた。
*****
「ねーちゃん!ねーちゃん!助けてぇなー!」
「……私はあなたのお姉さんではないのですが。」
「ちゃう!そういう意味やのうて!
・・・・・・はっ!今のもしかして姉ちゃんのボケか!」
「違いますし、ちょい落ち着きなさい少年よ。」
どうしてこうなった。
じゃなくてどういう状況かというとちょっと用事があり
上京してさっさと所用を済ますと、せっかくこちらに出てきたのでぶらぶらと歩いていた。
そしたら、きょろきょろと辺りを見回す少年がいらしたので、
どうしたのかとじっと見ていたら視線に気づいた少年とがっつり目が合うと、
バビュンと効果音が付きそうな勢いでこちらにやってきたのである。
そして冒頭のやり取りに戻る。
事情がまったく掴めないので話すように促せば少年はぶんぶんと頭を縦に振った。
「あんな、さっきまで白石達と一緒におってんけどな
急にあいつらワイが目離した隙におらんようなってん。」
「へえ、なるほど。友達とはぐれたと。」
「おん。泊まってる所先戻ろうにも場所わからんし……。」
しょぼん、とさっきのパワフルさとは打って変わって
落ち込み始めた少年に私までうっかりしょんぼりしそうになる。
(なんかうつってしまいそうなんだよな)
話し方からして関西から友達と旅行かなんかで来て、
テンション上がってきょろきょろしてる内に友達とはぐれたのだろう。
はあ、と息を吐いてから少年の肩を叩いた。
「まあ、ここで見捨てるのも気が引けるし一緒に探してあげるよ。」
「え!ほんまか!」
「おー。乗りかかった船だし。
まだそんな遠くに行ってないでしょ。向こうも探してるだろうしね。」
「……ありがとうねーちゃん!あんたは神様や!」
「んな大袈裟な。」
感極まって腰にタックルをかましてきた少年を何とか受け止めて、頭をぐりぐりと撫で回してやった。
……弟とかいたらこんな感じなんだろうなぁ。
(我が家にはちょっと残念な兄貴しかいない)
「じゃあ、行こうか。」
「おん!」
元気よく返事をして、さあ行こうと足を踏み出した瞬間。
ぐ〜 ごりゅごるごる
「あ。」
「……今の凄まじい音はもしや腹の音?」
「…おん。」
「お腹空いてんの?」
そう問えばこっくりと頷かれた。
……うーむ、仕方ないな。
*****
「ほんまありがとうなー姉ちゃん!」
「いえいえ。」
腹が減っては何とやら。
とりあえずお腹が減って身を動かすのも怠そうなので、
ファミレスで何か食べてから少年のお友達を探すことにした。
おまけに少年の財布は残り何十円とかしかないことが発覚したので奢ってあげることになった。
目の前で大きなパフェをもすもす食べる少年に
痛い出費だがその幸せそうな笑顔で良しとすることにしておく。
自分の頼んだアイスティーを啜りながらそういえば少年の名前を聞いてなかったことに気づく。
「そういや、少年名前は?」
「わい?わいはほおやま」
「はいはい飲み込んでから喋ろうね。」
んぐんぐ咀嚼して飲み込んでから少年はにぱっと輝かしい笑顔を浮かべる。
「ワイは遠山金太郎や!よろしゅうな姉ちゃん!」
「私は、よろしく。
で、これからの捜索に必要だからお友達の名前とか容姿とか教えてくれない?」
「ええでー。んーとなぁ、
まず白石は部長で左腕に包帯巻いとって、口癖がエクスタシー!」
「……ん?」
ちょい待ち。なんかその白石さんは知ってるような気がするぞ。
(しかも特徴で部長とか口癖とか言われてもわからんぞ)
(でもその少ない情報でわかった気がするけどさ!)
手を遠山君の前に差し出して一旦制止させると、きょとんとした顔で見つめてくる。
よくよく見てみれば、遠山君ラケットを背中にしょってるじゃありませんか。
「…遠山君てもしかして四天宝寺のテニス部だったりする?」
「お、おん。そうやけど。」
「んでもってさっき言ってた白石さんが部長で
他に忍足君とか小春ちゃんとか一氏君とかいたり。」
「おるで…って姉ちゃん何で知ってるん?
あ、もしかして姉ちゃんエスパーか!サイコキネシス出せるんか!!」
「出せたらすごいよね。残念ながら違うよ。
答えは簡単、私は金色小春と従兄弟だからです。」
「なんやて!」
これまたいつかの時のように遠山君は大袈裟にリアクションをとってくれた。
(まったくノリいいなぁ)
「そうやったんか〜。ならもっと早う言うてくれたらよかったのに。」
「言うタイミングなかったしね。私も四天宝寺の子だと気づかなかったから。」
それならば話は早い。
小春ちゃんに連絡をして迎えに来てもらうなり、こちらから行くなりすればいいのだ。
「じゃあ、小春ちゃんに連絡するね。」
「おん、頼むわー。」
小春ちゃんの番号を呼び出して電話をかける。が、なかなか繋がらない。
留守番サービスに接続されてしまった。もう一度かけたが同じ結果に。
仕方ないので違う人にしよう。
ここはやはり部長さんに連絡したほうがいいだろうと、白石君に電話をかけてみることに。
2コールくらいで出て少しびっくりして変な声が出た。
「驚いた。随分出るの早いから。」
「ああ、今丁度ケータイいじっとって。
…で、どないしたん?さんが俺に電話するなんて珍しいな。」
「あ、うん。小春ちゃんに最初電話したんだけど出なくってさ。」
「小春ならユウジとラブルス中やからなぁ。ごめんごめん。」
「(ラブルス中…?)そうなんだー。
でね、実はお宅のテニス部の迷子さんを預かってまして。」
「……もしかして赤茶っぽい髪に
ヒョウ柄タンクトップに半ズボンで一人称がワイのゴンタクレですか。」
「ぴんぽーん。白石君よくおわかりで。」
「まったく何しとんねや金ちゃんは……。
さんが見つけてくれとったんやな。おおきに。」
「いいえー。じゃあ駅近くのファミレスにいるからさお迎えよろしくね。」
「おん。ほんまごめんなさん。じゃあすぐそっち行くわ。ほなな。」
電話を切ると遠山君が口をもごもごしながら「何て言うてた?」と聞いてきた。
「すぐこっちに来るって。」
「そうか、姉ちゃんおおきに!」
「いえいえ。」
*****
程なくして白石君がやってきた。
あと、知らないやたらと身長がでかい人もいた。
ジャージが同じ所を見ると彼もテニス部なのだろう。
片手を上げてこっちこっちて手招きすれば、それに気づいた白石君が慌ててこちらに近づく。
私達のテーブルまで来たら有無を言わさず遠山君の頭をぱーん、と景気よく叩いた。
(非常にいい音がしました)
「いだあ!何すんねん白石!」
「どあほ!勝手にほっつくな言うたやろ!すぐ迷子なんねんから!」
「そんなんワイだけやなくて千歳もやろ!」
「千歳は帰巣本能があるからええんや。」
「こらこら、人を犬みたいに言うんやなかよ。」
目の前で繰り広げられる喧騒に何だか親子のようだと
ほのぼのしてたら、でかい人がくるりとこちらに向き直った。
「すまんねー。うちの金ちゃんが迷惑かけたばい。」
「いいえそんな。ええと失礼ですがあなたは……。」
「ん、俺は千歳千里。こいつらと一緒のテニス部たい。」
「おお、やはりそうでしたか。私はです。」
椅子から立ち上がってお辞儀をすれば向こうも「ご丁寧にどうもー」とお辞儀仕返してくれた。
大きい体でされるとなかなか迫力がある。 若干体制が苦しそうだ。
「それにしても大きいですね。」
「はは、よく言われるとよ。」
「うらやましいかぎりです。私ももう2、3cmほしい。」
「心配せんでもこれからいくらでも伸びるったい。」
「だといいんですけどねぇ。」
「ちょいそこ!何ほのぼのしとんねん。」
千歳君とゆるい会話をしてたら、白石君につっこまれてしまった。
「おー。もう説教は終わったと?」
「おん。制裁完了や。」
「うー、毒手は堪忍やで。」
「あらまあ。」
遠山君は何故か異様に白石君に怯えていたが、
まああんだけ怒られれば仕方ないかと勝手に結論づけた。
「ほんますまんかったなぁさん。金ちゃん見つけてくれてありがとう。」
「偶然居合わせただけだから気にしないで。」
白石君は遠山君と共に何度も頭を下げた。それを笑って制した。
店を出る際に飲食分のお金を払おうとしたら白石君がそれを止めた。
何でも女の子に奢らせる訳にはいかないとな。
それに対してまた遠山君にお説教をしていたので慌てて止めた。
(私が勝手にやったんだし)
おまけに白石君が私の分まで支払ってくれたので、
お金を返そうとしたら迷惑かけたからとやんわり断られた。
(何とまあ中身まで男前である)
「姉ちゃんほんまありがとうな!
今度大阪来た時はワイがたこ焼き奢ったるな!」
「おう。楽しみにしておくよ。」
「じゃあさんまたな。」
「うん。バイバイ。小春ちゃん達にもよろしく。」
ひらひらと手を振れば、遠山君はぶんぶんと大きく、白石君と千歳君も振り返してくれた。
今日はなんだか色々あった一日だった。
浪速から来ました。
2011.3.20