四天宝寺が負けた。

相手は関東大会で立海が負けた青学だった。


やはり彼らは強く、四天宝寺も頑張って応戦してたが無情にも敗退という結果になってしまった。
十分すぎるくらいに四天宝寺は強いと感じていたけど後一歩及ばなかった。

試合が始まる前に小春ちゃん達とは会話したけど、
負けて終わった今、なんと声をかけていいか分からず会場を静かに出てきてしまった。







近くの公園までやってきてベンチに座る。
唐突に関東大会のあの日の光景が頭を過ぎった。
そういえばあの時も私はこうやって帰っていったっけ。

どっちかが勝って、どっちかが負けて悔しい悲しい思いをする。

当たり前のことだけどこんなにも胸がぐっと押し潰されるような
感覚がするのはやはり小春ちゃんの存在がそこに在るからだろうか。

小春ちゃんだけじゃない。
まだ短く浅い付き合いしかないけど白石君や忍足君や一氏君達のことも知っている。
話をしたりメールしたり、そんな少ないやりとりの中でも
その人となりを感じ取ってるだけにまた色々と切なくなるのかもしれない。



ぼんやりと様々な思考を巡らしていたら、ふいに聞こえた足音に肩が上がった。
驚いて足音がした方へ振り向けば、そこには小春ちゃんが立っていた。



「あ…小春、ちゃん?」

ちゃん…。」

「どうしたの?他の皆は……。」

ちゃんが出ていくんが見えたから、ちょっと抜けてきてん。」

「そうなんだ、わざわざごめんね。」

「ううん。いいの。隣、座ってもええ?」

「うん。どうぞ。」



小春ちゃんは静かに隣へ腰を下ろした。
少し俯いた顔からは色んな感情がないまぜになってるように見えた。



「せっかく見に来てくれたのに、負けてもうたわ。」

「…うん。」

「中学最後の大会。大事な一番勝負。
 絶対勝つって自信はあったし、皆の実力も確かやった。…でも負けた。」

「うん。」

「さいご、やってん。四天宝寺中としての。」

「うん。」

「……めっちゃ悔しいわ…!」



小春ちゃんはぽたぽたと肩を震わせ涙を流していた。
ぎゅっと固く結び膝に置いていた手をそっと重ねた。



「小春ちゃんめっちゃがんばってた。」

「小春ちゃんだけじゃない、一氏君も白石君も千歳君も皆。」

「おん。」

「私なんかがどうこう言っていいものか分からないから。でも私は……」



小春ちゃんが顔を上げた。私もその顔をまっすぐ見つめる。



「小春ちゃん達のテニスが見られてよかったなって思うよ。」



泣きそうな顔でとてもうまく笑えたとは思えないけど、伝えたいことは言えた。
それを聞いた小春ちゃんは一瞬目を丸くしてから笑って「ありがとう。」と言ってくれた。
小春ちゃんもまた泣いて困ったような笑い方だった。



「あかん、ちゃん。ちょっと胸借りていい?」

「無い胸でよければどうぞ。」



そう冗談で言えば小春ちゃんは少し吹き出してから「ちゃんはおもろいなぁ」と目尻に涙を浮かべて笑った。
勢いよく飛びついてきた小春ちゃんを抱き留めれば、肩に顔をつけて泣きはじめた。
ぽんぽんと背中を叩けばより一層悲しみが深くなった気がした。












*****









しばらく泣いてすっきり落ち着いたのか、今はさっきより幾分明るくなっていた。



「ごめんねちゃん。」

「いえいえ、素晴らしい男泣きでしたよ。」

「いややわぁ、アタシ乙女やのにぃ。」

「両方兼ね備えてていいんでない?
 それに泣きたい時は全部垂れ流しきったほうがさっぱりするよ。」

「アタシはちゃんのそういう男前な所が好きやわ。」

「ありがとー。」



どちらともなく二人で笑いあっていると、ぶるぶるとマナーモードにしていた携帯が震えた。
誰だろうと届いたメールを確認して苦笑する。
きょとりとしている小春ちゃんにメール画面を見せてあげれば、こちらもふふ、と笑っていた。



「早く帰らないと旦那が心配してるよー。」

「モテる女は辛いわん。」

「さしずめ私は愛人ってところか。」

「なんや昼ドラみたいにどろどろになりそうやねぇ。」



あはは、とまた馬鹿みたいに笑いながら公園を後にした。



「じゃあまたね。」

「おん。決勝見にいくな。」

「おー。」



手を振り合って別れれば、背中を押すように涼しい風がびゅうと吹いた。



決勝、どうなるかな。











ひとつ終わる。








11.3.20