「ぶあく、あー眠いぜちくしょう。」
「何今の欠伸?もうちょっと慎ましくやりなさいよあんた。」
休み時間、次の授業が理化室で行われるため移動していた。
隣の校舎への渡り廊下を歩きながら外の景色を見つめる。
最近暑さも和らいですっかり秋めいてきて過ごしやすい季節になってきたな。
「いやー、涼しくなってきたせいか読書がはかどるはかどる。」
「の場合年中読書とゲーム三昧じゃないの。」
「やりやすさってもんがあるじゃないか。
いやー昨日は推理小説読んでたんだけどねー…。」
ちよちゃんに昨日読破したばかりの小説について語る。
今回のはラストが大どんでん返しですごい面白かったとか、
でももう少し登場人物に魅力がほしいとか、
熱を込めて語っていたらふと前を歩いてくる男子の声が耳に入った。
「結局今年の夏はテニス部優勝できなかったなー。」
「常勝常勝ってえらそうに言う割にはボロ負けだったみたいじゃん。」
「関東大会でも同じ学校にやられたしなー。
実際の所たいしたことないんじゃね?あいつら。」
笑いながら相手が話す内容が嫌なもので思わず眉を潜めた。
悪口とはどんな所にもつきものだ。特に目立つものに対しては。
だから嫌だとは思いつつも知らないフリをして歩みを止めず、ちよちゃんと話を続ける。
「ちょーっと顔がよくて女子に持て囃されてるから
そっちばっかに気いっちまってるからダメなんじゃねえの。」
「あー言えてる。ありゃ絶対意識してるよな。」
「幸村も復帰したからって一年にあっさり負けてやんの。」
「期待ハズレもいいとこだな。」
へらへらと笑いながら私達の横を通り抜けてく。
聞くな聞くな。
妬み嫉み何か気にしたら駄目だ。
「そんなざまなら退院してくんなよな。」
「ははっ。大人しくもう一度入院しとけってか。」
ぶちり
何かが切れるような爆ぜるような音が耳の奥から聞こえた。
立ち止まった私をちよちゃんが心配そうに見つめている。
ちよちゃんはきっと分かってる。
私がどう思っているのとか何をしようとしてるのか。
頭の中がぐるぐるする。
2年の時真田君達と知り合ったこととか大会で優勝したと聞いたこととか
冬に幸村君が倒れたと悲しそうな顔で真田君や柳君が話したこととか
丸井君や仁王君達と仲良くなったこととか
毎日暑い日も仁王君なんか特に暑さに弱いのに一生懸命練習してたこととか
全国大会で負けた決勝のこととか切原君が見せた涙とか皆の悔しそうな顔とか。
誰だって皆がむしゃらに頑張っていたのに。
それなのに君達は何を知ってそんなこと言ってんの?
ぐるぐるぐるぐる。
そんなことが一瞬で頭を駆け巡って真っ白に弾けた。
ちよちゃんが私の腕を掴む。
それを振り払い気づけば駆け出して男子の一人の肩を掴むと、振り向きざまに一発顔を殴った。
「なっ…!」
突然のことに驚き二人は目を見開いて呆然としている。
「てめっ!いきなり何すんだよ!」
「お前らなんかに…何もしてない奴らなんかに、
必死に頑張ってる人らの悪口なんか言ってほしくないんだよ!」
一人の胸倉をがっと掴めば向こうも抵抗してくる。
それでもお構い無しに力一杯掴み上げる。
「お前らに何がわかる?全力でぶつかって負けて悔しくて涙流したことがあるか?
ああ、分からなくてもいいよ。ただな、努力も何もしてない奴が平気で悪口垂れ流すな。
へらへら笑いながら軽々しくお前達が非難していいもんじゃねえんだよ!」
「う、うっせぇ!お前に関係ねーだろ!」
私が思ったより大声で怒鳴り付けたからか、一瞬相手は怯んだが、すぐに訳のわからない事をほざいてきた。
その上そいつが私の顔に向かって殴りかかってきた。
咄嗟に避けたつもりだったけど少し頬の下辺りに当たってしまう。
「…っ!いってぇなこの野郎。女の子の顔殴るなアホ!」
「お前が先にやってきたんだろバカ!」
「私はいいんだよ!ボケ!」
「よくねぇよ!」
ぎゃあぎゃあ低レベルな言い争いをしながら
取っ組み合いの喧嘩をしてたらちよちゃんが慌てて止めに入った。
男子の方はもう一人の連れが止めてくれた。
殴ったにも関わらず抑えに来たのはきっと私達があまりにもみっともなく争っているからだろう。
「ちょっと落ち着きなさい!」
「だってあいつらが悪いんだよ!」
「んなこと分かってるわよ。
女の子がどつき合いの喧嘩するなって言ってんの!ほら、保健室行くよ。」
ぐいと引っ張られて立ち上がる。
殴られた頬を触れば成る程少し腫れている。
おまけに口の端が切れて出血していた。
ちよちゃんに連れられるがまま、立ち尽くす男子達に背を向けて歩き出す。
途中くるりと振り返ってありったけの凶悪な顔をつくってからガンを飛ばし中指を立ててやった。
ぽかんとした顔に満足してふんて鼻を鳴らすとちよちゃんにはしたないと叱られた。
*****
「あらあら、一体全体どうしたらこんな傷つくるのかしらねぇ。」
「……す、すいません。」
場所は変わって保健室。
美人でゆったりした性格が人気の堀先生が困ったような顔で言う。
消毒液のついた綿をぴとぴとあてがう度に痛みが走る。
「何があったのか知らないけど
女の子が顔に傷つくっちゃ駄目よ。はい、おしまい!」
「痛っ!……ありがとうございます。」
最後に顔にガーゼとテープを貼り付けると、
堀先生はじゃああとは訪問記録に書いておいてね、と言い残すとどこかに去って行った。
(まったくこの学校の教師はフリーダムだな)
ちよちゃんには先に戻ってもらい、先生に適当に理由つけといてくれと頼んであるので大丈夫だ。
とりあえず授業に戻る気分ではなかったのでどうしようかと暫し保健室の天井をぼうっと眺める。
保健室で寝るのもいいけど今は何だか外の風に当たりたい気分。
よし、屋上へ行こう。
保健室を後にすると屋上へ向かって歩きだした。
腹立たしかったので喧嘩しました。
11.5.1