屋上への扉を開けると、錆び付いた蝶番がぎしぎし音を立てた。
途端、飛び込んでくる風と太陽の光に目を細める。
中程まで歩いていき、フェンス越しにグラウンドを眺めた。
どこかのクラスが体育をやっている。あ、野球やってんだ。
一人の男子が見事なヒットを打って、チームから歓声が湧いた。
いいなぁ、楽しそう。
強い風が吹いて髪の毛ぶわりと巻き上げる。
手で髪を押さえながら、尚も野球を観戦していると、ふいにぎぃと扉が開く音がした。
まさか誰かやってくるとは思わなかったので、心臓が波打つのを静めて扉の方を振り返る。
すると見慣れた銀髪がこちらを見ていた。
「やっぱりここにおったか。」
「うげ、仁王君……。」
「うげ、とはなんじゃ。」
にやりと片方の口角を釣り上げ不適な笑みを浮かべる。
すると仁王君はつかつかとこっちに近づいてきた。
そのまま私の隣に移動してくると、フェンスに背を預けた。
「……仁王君サボりは良くないよ。」
「お前さんだってサボっとるじゃろうが。」
「ですよねー。」
「……。」
「……。」
ち、沈黙が何か痛いなオイ!
どうしたんだろ仁王君。なんだか様子がおかしいような。
じっとその横顔を見つめていると、視線に気がついたのかこちらと目が合った。
「…顔、大丈夫か?」
「何かその言い方だと私の顔面終わってるみたいだよね。」
「違う。そうじゃのうて、怪我。」
「ん。ああ、平気平気。
あれ、ちょっと階段からずっこけただけだから。」
件のことは言いたくなかった。
別に偽善者ぶって言い触らすようなことじゃないし、私が勝手に起こしたことだから関係ない。
すると仁王君はみるみるうちに苦い顔に変わってしまった。
「嘘つくんじゃなか。」
「はい?嘘とかそんなわけ…」
「知っとるよ。」
「え」
「知っとる。全部見とったから。」
「……何のことやら。」
「しらばっくれるんじゃなか。」
ばつが悪くなって目を逸らしたら、はあとため息つかれた。
こりゃ完全分かってるな。
「まさか目撃者がいたとはね。どっから見てたの?」
「最初っから最後まで全部。」
「うわお。マジですか。」
フェンスにもたれ掛かりながら、ずるずると腰を下ろせば、仁王君も同じように座り込む。
「まったく女の子が顔にこんな傷こさえて。
大事にならんかったからまあよかったものの。」
「……面目ない。」
「どうなるか見ててヒヤヒヤしたぜよ。」
「…すんません。」
「―でもま、嬉しかった。」
「…は?」
驚いて仁王君の顔を見やれば、緩い笑みを浮かべていた。
「単純にの、そうやって俺達のことを思うて
真剣に怒ってくれたのが嬉しかったんじゃ。ありがとな。」
そう言うと仁王君は優しく頭を撫でてくれた。
今までにない穏やかな笑い方をするものだから
なんだかとても気恥ずかしくなって思わず目を逸らした。
(これだから顔がいいやつは!)
「べ、別に私はただ何も知らない奴が
友達を悪く言ってるのが許せなくて……。」
「なんじゃ、照れとるん?
も意外とかわいいとこあるのう。」
「照れてないです。全然断じてこれっぽっちも。」
「いやー照れなさんな。ちゃんたらかーわーいーいー。」
「うざっ!なんか今日の仁王君うざい!キャラおかしくね!?」
ぐりぐりと頭を撫で回す手を退ければ、
今度は少し真面目な顔で私の怪我した頬に触れてきた。
「でも男子と取っ組み合いの喧嘩するのは関心できんぜよ。
もしも、もっと酷いことになったらどうする。」
「う、それはまあ…申し訳ないです。」
「もうあんなことしたらいかんよ。」
「滅多にないから大丈夫だよ。」
「どうだかのう。」
ふわりと風が私達の間をすり抜けていく。
秋も色濃くなってきたのか少し風が冷たくなってきた。
でも不思議と穏やかな心地好い空気が漂っていてとても落ち着く。
「私さ、昔から口より先に手が出るガキだったんだよね。」
「それはまた物騒な。」
「まだ幼稚園くらいの時に公園で従兄弟と砂場で山つくってたのね。
それで向かい合わせで穴掘ってもう少しで手が触れるってところで
余所の男の子がやってきてトンネルをぐしゃって踏み潰されたの。ワザと。」
「うんうん。」
「トンネルはぐちゃぐちゃだし、従兄弟は泣きそうになってるしでブチッときちゃってね。
砂遊び用のバケツに山盛り砂入れて、男の子の頭からばっさーって被せてやったの。」
「うわー…。」
「そっからまた大喧嘩よ。従兄弟がうちの母親連れて来るまでやっちゃってたの。
だからこれではいかんと自分でも気をつけてたんだけど、久しぶりにカチンときてね。」
「それであの展開か。」
「もう昔とは違うからねー。本当気をつけるよ。ごめん、余計だった。」
「全然余計じゃなか。気持ちは嬉しいって言うとるじゃろ。
ただは女の子じゃき、手は出しちゃいかんってことぜよ。」
そうしてまた私の頬に貼られたガーゼを撫でる。
予想以上に心配してくれたらしい。なんだかとてもむず痒い気分だ。
「ううむ、なんだろうなぁ。」
「どうした?」
「いんやなんでもない。」
不思議そうな顔で仁王君は首を傾げる。
グラウンドの方からカキン、とボールを打ついい音が聞こえた。
見られてました。
11.5.1