今日は図書委員会の日だったので、文化祭の準備はせずに委員の仕事をした。
こんな時でも図書委員は絶賛活動中である。

閉館の時間になり、戸締まりをしてから鍵を職員室に返した。やれやれ今日も疲れたな。
どっこいせと靴箱から靴を出して履きかえると「あ。」という誰かの声が聞こえた。
顔を上げると仁王君が立っていた。
彼も同様に靴を履きかえて今から帰るようである。


「仁王君じゃないすか。」

「プリッ。」

「え?……ああ、なんか久々に聞いたその鳴き声。」

「プピーナ。」

「何その無駄なバリエーション。新着ボイスですか。」

「次はこれを流行らそうと思っての。」

「微妙だけどそれ。ってか前も流行ってなくない?」



そんな少しアホみたいな会話をしながら玄関を出る。
仁王君も横に並んで歩いていた。
校門を出た所でバイバイしようと手を上げたら仁王君はそのまま私に着いてきた。


「あれ。仁王君の家こっちだっけ?」

「いんや違うぜよ。」

「じゃあ何でこちらに?」

の家まで送ってってやる。」

「…?大丈夫だよ別に。」

「もうすっかり日も落ちて暗いけえ。女の子一人じゃ危ないぜよ。」

「……なん…だと…!」


仁王君の私の扱いに驚愕しつつ、あれこんな紳士的な人だっけ?と疑問に思う。


「…はっ!もしや仁王君に変装した柳生君では!?」

「何のメリットがあってんなことするか!しばくぞ。」

「いだっ!もうしばいてるし!」

「人の好意は素直に受けておきんしゃい。」


叩かれた頭を摩ってたら仁王君は背を向けてさっさと歩きはじめる。慌ててそれに着いて行った。


「しかし、どういう風の吹きまわし?
 仁王君がわざわざそんなことしてくれるなんて。」

「別に普通じゃろ。俺は紳士やからのー。」

「うわー。嘘くさー。」

「もっぺん叩かれたいんか?」

「ノン。暴力反対。」


頭の上で腕を交差して×をつくれば仁王君は盛大にため息をついた。なんでだ。


「何で親切でやっとるのにこんな扱いなんじゃ。」

「そりゃあ日頃の行いが……ってうそうそ睨まんといて。」


仁王君にきつく睨まれると迫力あるな。恐い。
横を歩く仁王君の顔を見てからまた前を向いて歩く。


「でもさ、嬉しかったよ。」

「…うん?」

「うっかりときめきそうになったぜ。」


そう言って笑えば仁王君は目を丸くした。
そしてばつが悪そうに視線を逸らしてしまった。


「……。」

「……あれ。まさかの無反応?何かキモいでもないわーでもいいから
 リアクションくれないとこっちも恥ずかしいんですけど。」

「………のアホ。」

「何で!」


ぷいとそっぽを向いてしまった。
ああ、何か分からないが機嫌を損ねてしまったようだ。


「仁王君ー。」

「……なんじゃ。」

「怒ってるの?」

「別に怒っとらん。」

「そう。」

「そうじゃ。」

「………。」

「………。」



……な、なんだこの気まずい空気は。
どうしてこうなった!
原因はよく分からんが、多分私が何かやらかしたに違いない。
……とりあえずここは素直に謝っておいたほうがいいか。


「仁王君ごめん。」

「何が。」

「え?だって私が無意識の内に仁王君の琴線に触れたんじゃなかったの?」

「別にはなんもしとらんよ……いや、したか。」

「どっちだよ。」

「まあ気にすんな。これでこの話はお終いぜよ。」

「ううむ。…ま、仁王君がいいならいいけど。」


ぽんぽんと頭を撫でて仁王君は緩く笑う。
腑に落ちない感は否めないが、これ以上の空気の悪化は堪えられないのでここまでにしておく。


まあいいか。






*****







「どう?仁王君、お口に合うかしら?」

「はい。すごく美味しいですよ。」

「嬉しいわ〜。いっぱい食べていってね!」

「ありがとうございます。」



お箸とお茶碗片手に母と仁王君の会話を見つめる。
ただ今私は家+仁王君で夕飯を食べている。どうしてこうなった。
本日2度目のどうしてが出た。

事の発端は私の家の前まで仁王君は送ってくれたのだが、ちょうどそこにお母さんが帰宅。
仁王君とお母さんが挨拶してるなんやかんやの内に
いつの間にか夕飯を食べていくということが決定していた。(なんという早業)

それで今こうして夕食を共にしているのだが、
お母さんに対応する仁王君が果てしなく別人みたいなんですけど。
丁寧な言葉でおまけに爽やかなきらきらした笑顔なんて向けちゃって。
流石は詐欺師。表と裏の使い分けが上手い。
お母さんが上機嫌で台所に入るのを見送ってから、仁王君に向き直る。
あ、いつもの緩い顔に戻ってる。


「仁王君たらそんなとこまでペテンとかすごいですね。」

「失礼なこと言いよるのう。俺はいっつもこんな感じぜよ。」

「馬鹿おっしゃい。
 通常運転がそれなら丸井君とか超鳥肌立ってると思うよ。」


何か文句を言う仁王君を無視してハンバーグを咀嚼する。
今日のお母さんはいつも以上に張り切って
ご飯を作ってるので、味も品数も一つ上である。
今日は兄ちゃんもお父さんも遅くなるらしいので実質三人でご飯だ。
お母さんの猛烈なトーク攻めに仁王君は受け答えしながら夕飯は終了した。



リビングでデザートに出された林檎を食べながら一息ついた。



「お疲れ様。」

のお母さんはなかなかに強烈じゃのう。」

「ほら、仁王君イケメンだからテンション上がっちゃったんだよ。」

「何じゃそら。」

「ま、なんかごめんね。うちのお母さんが無理矢理。」

「全然構わんぜよ。ご飯うまかったし。」

「お母さんに言ってあげて。めちゃくちゃ喜ぶだろうからさ。」


もしゃもしゃと林檎を食べながら他愛のない会話をして、
そろそろ遅くなるからと仁王君は帰ることになった。


「またいつでもおいでなさいな。大歓迎するから。」

「ありがとうございます。ごちそうさまでした。」


ぺこりと頭を下げて玄関の扉を開ける。外まで見送ろうと私も続けて玄関を出た。


「もう暗いから気をつけて帰ってね。」

「ガキじゃあるまいし大丈夫ぜよ。ましてや男だし。」

「いやいや世の中物騒だからさ。何があるかわからんからね。」

「はいはい。」

「はいは一回。」

「ピヨッ。」



玄関から離れて道路に出た所でくるりと仁王君は振り返った。


もご飯、作るんじゃろ?」

「うん。まあね。」

「今度はの作る飯も食べたいのう。」

「んー、機会があればね。食べていちゃもんつけたら嫌だけど。」

「さあ、味によるんやない?」



くつくつと仁王君が笑った。
突然何を言うのかと思えば、私の作るご飯が食べたいとか。
めちゃくちゃうまいわけでもないし、かといってまずいわけじゃないけど。



「仁王君のご期待に応えれるように努力するよ。」

「おー。楽しみにしとる。」

「じゃ、また明日ね。」


ひらひらと手を振れば仁王君も振り返した。
街灯に照らされた道を歩いていく背中を暫し見つめてから家の中へと戻った。










送ってもらいました。







11.7.18