今日はとてもよく晴れていて体育の授業日和だ。全然嬉しくないけど。

体育はあんまり好きじゃない。
成績も中くらいだし、何より女子団体で何かスポーツをした時のあの微妙な緊迫感が好かない。

例えばミスした時とかごめんねーって謝ったら、
いいよいいよ、気にしないで、とか返してくれるけどその実あんまり気にしてなくないとかさ。

まあ本当に何とも思ってない子もいるけど。
でも何となくそういった女子特有のプレッシャーが私は兎角苦手だ。


グラウンドで軽く走った後、先生が体育館に移動します。と高らかに宣言した。
皆体育シューズの袋を持ってわらわらと体育館へと移動する。

え、何それ聞いてない。



「ちよちゃん、次体育館でやるなんて言ってたっけ?」

「朝体育委員が言ってたじゃん。何、聞いてなかったの?」

「いや今朝は超絶眠たかったからまったく。
ていうかちよちゃん私持ってないの見てるんだから言ってくれてもよかったのに。」

「ああ、いやなんとなくいいと思って。」

「ひでえなおい。」



とりあえずさっさと取ってきな。

ちよちゃんに促されて先生に一言伝えてから教室に向かう。
あの子のああいった微妙に意地悪な所はなんとかならんのだろうか。
まあそれが彼女の性分なんだけど。


授業中でしんと静まり返った廊下を一人歩く。
どこからか英語の授業をしているのか、先生の英文を読む声が聞こえる。
あの先生やたら発音意識しすぎて、逆に不自然になってんだよなぁ。

自分の教室に着いて少し建て付けの悪い引き戸をからからと滑らせる。

教室に一歩足を踏み入れた所でいるはずのないクラスメイトがいることに気がついた。
窓際の一番後ろというかなり良い席に銀色の頭が腕を枕にして机に突っ伏していた。
それは間違いなくテニス部の仁王雅治君(下の名前はこの前柳君が教えてくれた)で、
男子も同じく体育の授業中のはずなのだが何故ここにいるのだろうか。

もしかしてサボりだろうか。

うんうんと暫く悩んでからはっとして、そうだ自分も早く体育シューズを取って戻らねばと気づき静かに歩を進めた。
何にせよ寝てるみたいだしなるべく音を立てないようにしよう。
そろりそろりと自分の机に近づいて、フックにかかったシューズ袋を掴む。
よし、と気を緩めたのがいけなかったのか前の机に思い切り右手をぶつけてしまった。
かなり振りかぶったので勢いづいて相当痛い。
右手を押さえて悶絶しているとふと視線を感じた。

この教室には私と仁王君しかいない。
即ちこの視線は……。

そろそろと顔を上げると案の定仁王君がこちらをじっと見ていた。
その目と整った顔つきにどぎまぎしたが、なんとなく目線を反らしたら駄目だとこっちもじっと見つめる。


……何か喋らないと気まずい。



「……えー、お、おはよう?」

「……おはよう?」



何故か口を出たのがおはようの挨拶だった。
しかも自分でもピンときてなくて疑問形で言ったら仁王君も疑問形で返してきやがった。
(これは私が悪いのか)



「ごめん何か騒がしくしてしまって。起こしてしまいました。」

「いや、別にいい。お前さんここで何しとる。」

「体育シューズ取りに。そういう仁王君は?」

「……頭が痛くてのう。休みじゃ。」



そういってけだるげに頭をかく姿は何だかとっても絵になる。
窓から日差しがさして余計にきらきらして見える。



「そうかー。じゃあ保健室行ったほうがいいんでない?」

「……何か気分じゃないから嫌じゃ。」

「……さいで。」



気分じゃないとかどういう事だよあんた。とか思ったけどつっこまなかった。
きっとまあ仁王君なりに色々あるんだろう。多分。



「お前さんはよ戻らんでいいんか?」

「うお、そうだった。じゃあ起こして悪かったね。」

「……んー。」



仁王君は生返事1つ寄越すとまたさっきと同じように突っ伏してしまった。
直ぐにすうすうと寝息が聞こえてくる。
どんだけ寝付くの早いんだよ。のびたくんか。

……本当にしんどいんだなぁ。
部活とか諸々のあれできっと私達より疲れてるんだろう。

ふと鞄の中にあれが入っているのを思い出して、なるべく音を立てないように静かに漁った。

あったあった。

鞄から取り出したバファリンを1回分ぺきりと包装を折って分ける。
そのまま仁王君の机に置こうとして何の薬か分かるように一応メモ書きも添えておいた。



「バファリンです。もしよかったらどうぞ……っとこれでよし。」



机にそっと置いてから結構時間が経ってることに気づいて慌てて教室を出て行った。













詐欺師とファーストコンタクト。








11.1.8