「仁王君、仁王君あそこクレープあるよ食べたいんですけど。」

「お前さん食べ過ぎぜよ。ちょっとは自重せんかい。」


そんな仁王君の呆れた声はスルーして、
ささっと行ってささっとクレープを買ってくれば、じとりとした目で見られた。


「ブンちゃんみたいにブタみたいになってもしらんよ。」

「ええ、丸井君全然太ってないよ?テニスやってるし。」

「甘くみたらあかんぜよ。
 ブンちゃんは運動してるからっちゅうことに託けて、
 ハンパない量食べよるからの。お腹なんかぷよぷよじゃ。」

「マジか!今度触らしてもらおうかな。」

「いやんセクハラ。」

「やましいこと考えてないからセーフだし!」

「いやセウトぜよ。」

「それどっち?」


そんなゆるい会話を繰り広げながら、学校内を歩き回る。
あの時約束した通り私と仁王君は二人で文化祭を見て回っていた。
行く前にちよちゃんに仁王君と回る旨を伝えれば、
僅かに目を丸くしてからにやりと口角を上げて

「へえ、そうなんだ。ふうん。」

と何やら含みのある返事をされたのだった。何でだ。


それであっという間に時間は過ぎて休憩時間になり、
こうして一緒に文化祭を楽しんでいるわけだ。

クレープをもそもそ食べる私の横で
仁王君はさっきどっかのクラスで買った謎のジュースを啜っている。


「それ一体何のジュースなの?」

「わからん。ミステリーゾーンとか書いとったけど。」

「飲んでてわからんって何だよ。」

「だってなんか形容しがたい味やから。」

「へえ、一口おくれ。」

「ん。」


片手を上げてストローを差し出されたので、遠慮なく頂いた。
一口飲んでから思わず眉をひそめた。


「うわあ、何これ。」

「な、わからんじゃろ。」

「確かに何味かわからんね。さすがミステリーゾーン。」


一体あれ何をどう混ぜたらあんなカオスな味になるんだ。
飲んで大丈夫なのかどうかも心配になるわ。
てか仁王君よくあんな平気な顔して飲んでたな。すげえ。

口直しにクレープを食べてたら、
何やら手に持ったジュースをガン見している仁王君が視界に入った。


「どうしたの仁王君。」

「いや、思ったんじゃけど…」


そこで言葉を切ってからジュースの容器を私に見せるように振った。


「今の間接キスだなって。」



ぽすり。

私の手からクレープが落下した。哀れ私のクレープ。
許しておくれ、じゃなくて今仁王君なんか意味わからん発言してなかったか。


「い、今何て言ったの?」

「だから間接ちゅーじゃなって。」

「ちゅー言うな気持ち悪い!」

「酷いのう。」


雅治君傷つくわー、なんて真顔で言うこやつに頭が痛くなりそうだ。
何で唐突にそんなこと言うかな。意図がわかんないよ。
多分自然にぽろっと言っただけなんだろうけどさ。

とりあえず落ち着け私。
たかが間接キス、中坊じゃないんだしそんなことで騒がなくとも
……って私達まだ中坊だったよ。中3なうだったよ。


「やだな仁王君ったら。
 そんな飲み物の回し飲みくらいじゃないか。わざわざ言わなくたって……。」

「でもお前さん顔真っ赤ぜよ。」

「はい?」


顔が赤い…だと…?
手を頬に当てたら成る程熱い。
いやいや何で私赤くなってんの。
あ、まだ中坊だからか。じゃあしょうがないよねー。


「しょうがないのか!?」

「うお、何じゃいきなり。」

「……なんでも。」


そっぽを向いて答えればにやりと
怪しげな笑みを浮かべた仁王君が目の端に写る。
そっと猫のような静さと俊敏さで私の前に来ると、ぐいと顔を近づけてきた。
うおお、近い近い近い!


「…もしかして意識した、とか?」


右耳に囁くように言われたのと息がこそばゆいのとで
今度は自分でも顔が真っ赤になったのがわかった。


「…仁王君のバカ野郎!」

「ぐふっ!」


渾身の力を拳に集めて腹パンチをすれば、
丁度鳩尾に入ったのかお腹を押さえてうずくまってしまった。
その隙にさっと距離をとりそのまま脱兎の如く逃げ出したのだった。







恥ずかしい思いをする。









「くっ…いいパンチぜよ。」

「仁王お前何やってんの。地べたで。」








最後のセリフは丸井。

11.11.20