私が仁王君を好きだと自覚してから数日が経った。

改めて思えば仁王君には好きな人がいて、私が彼を好きであろうともどうしようもないことなのだ。
だからといって別に悲観しているわけじゃないし、
それでもこの気持ちは変わらないのだからいいんじゃないか、と私は思っている。
むしろ今までぐるぐると渦巻いていた靄がきれいさっぱり晴れて清々しいくらいだ。

それでちよちゃんに気持ちの整理がついた事、仁王君が好きだとわかった事を話した。
(思えばちよちゃんは私の気持ちにとうに気づいていたんだろう)

すると、ちよちゃんは難しいような複雑な表情で何やらぶつぶつ独り言を呟いたあと、
が思うようにいけば良い、と頭を優しく撫でられた。

ちよちゃんにしては珍しい態度にちょっと照れたら、なんで照れてんの、と頭を叩かれた。
前言撤回。あまり変わらなかった。


そんな事がありつつも、私は普段と変わらず過ごしていた。
仁王君とも別段変わることなく接することができている。
そりゃあ多少はドキドキしたり変に意識して緊張したりするけども。
露骨に表に出るような真似はしていないと思う。…多分。
友達としてでは決して味わうことのなかった感情に戸惑いはある。
今までそういった恋愛的な意味で人を好きになったことがなかったから尚更。

でもそれは楽しいことでもあった。
仁王君とほんの少し会話を交わすだけでも嬉しいし、
仁王君が笑って楽しそうであれば私も楽しい気分になる。
自分自身こんな風になるなんて思いもしなかったけど、
ちよちゃんが彼氏の話をぶっきらぼうでありながらもどこか嬉しそうに話す気持ちが少し分かった気がした。










*****









私がどんなに気持ちに変化があろうとも時は寸分の狂いもなく進むものだ。
今日も一日まじめに授業を受け、あっという間に放課後になった。
帰り支度をさっさと済ませ、さてこの後何をしようかと休み時間に食べ損ねたトッポを食べながら廊下を歩く。
すると前方に丸井君の姿が見えて、向こうも私に気づいたのか軽く手を挙げ近づいてきた。


「よー。」

「おう。に伝言預かってて探してたんだよ。」

「私に?誰から。」

「体育のセンセーから。放課後体育倉庫まで来いってさ。」

「げっ。私なんかしたっけ。」

「呼び出しなんて何やらかしたんだよー。」

「何もしてないはずだけどなぁ…。」


おー、恐い恐い。と丸井君はいやらしいニヤニヤ笑いで言った。くっそ腹立つな。
でもマジで何の用だろう。全く検討がつかない。

あれこれと考えていたら、確かに伝えたからな、と私の手からさりげなくトッポの袋を奪って去って行った。
思考に没頭していたから反応が遅れてしまい、泥棒だと気づいた時には丸井君の姿はすっかり消え去っていた。







*****







どことなく重い足取りで体育倉庫へ歩を進める。
トッポがまだ2本しか食べてなかったという切なさと
体育の先生は一体何の用があって私を呼びつけたのかという不安でテンションは下がりっぱなしだ。
気落ちしつつも呼ばれたものはしょうがない。

だらだらとゆっくり歩いて体育倉庫にたどり着いたが先生の姿が見えない。
もしかして倉庫の中にいるんだろうか。そう思い覗き込んでみて固まってしまった。


「…?」

「……に、仁王君?」


なんと倉庫の中に仁王君が立っていた。
切れ長の目を見開いて驚きの表情で私を見ている。
何でここにいるのとか一瞬の間にぐるぐると色んな考えが頭の中を駆け巡った。
予期せぬ仁王君の登場に(最近意識し始めたこともあり)完全に混乱してしまった。
だから背後から近づいてきた人影に気づくことができなかった。



ドンッ―



「わっ!」

「っ!!」


突然背中に強い衝撃を感じた。
誰かに押されたと理解した時には体が前のめりに傾いていた。
仁王君の前で無様にも顔面からずっこけてしまうのか、と瞬時に諦めの境地に入る。
ぎゅっと来る衝撃に耐えるため目をつむる。
冷たく固い床の感触の代わりにぽすりと暖かいものに包まれる。


「…あっぶな、大丈夫か?」


安堵したような低い声が頭の上から降ってきて、ようやく仁王君が抱き留めてくれただと分かった。


「うわ、あ、ありがとう!ごめん、なんかごめん!」

「落ち着きんしゃい。」


お礼を言おうと顔を上げればあまりにも近すぎた距離に鼓動が一気に加速した。
慌てて礼を述べつつ離れたところで後ろ手でがちゃりと扉が閉まる音が。
振り返れば倉庫の扉は完全に閉じられて、おまけにかちりと鍵までかけられてしまった。


「は、ちょっと嘘でしょう!?」


扉の取っ手に飛びついてがちゃがちゃと回してみるがびくともしない。
さっと血の気が引く音が聞こえた。


「おー、閉じ込められてしもうたのー。」

「落ち着いて言うとる場合かー!」


ゆるい仁王君と慌てふためく私の叫び声が倉庫内に虚しく響き渡った。








閉じ込められました。









12.12.2