「で、どうだったんだよ仁王。」


文化祭も終わりまだ楽しかった余韻が残る教室で丸井は仁王の机に身を乗り出して問いかけた。
仁王は丸井が何を問いかけてるのかは見当がすぐついたので、こくりと頷いてみせればぱっと丸井は顔を輝かせた。


に喫茶の残り渡してー」

「おう。」

「図書委員の仕事手伝いながらいろいろと話してー」

「うんうん。」

「後夜祭の出し物見た。」

「…それで?」

「楽しかったぜよ。」

「へー、よかったなぁ……ってそうじゃなくて!」


ダンッと勢いよく両手で仁王の机を叩いた。
当の机の主は「ブンちゃんがノリツッコミしとる〜」と暢気にへらへらと笑っている。
事の次第がまったく分かっていないと丸井は思わず頭を抱えた。
そもそも文化祭のあの日に仁王へクラスの出し物の残りをに渡すように命じたのは丸井である。
片付けもぼちぼちにしきりに何かを気にする仁王に余りを持って行ってやれと促してやったのだ。

丸井は仁王がを好きな事を知っていた。
元々人の感情に聡い丸井は仁王がに対して最初こそ友達として親しくしていたが、
ある時からそこに別の感情が混じってきたのが分かったのだった。

それを確信付けたのがいつかの日に何気なく仁王と雑談していたら
ぽろりと「俺のことが好きじゃ」そう零していたのである。
あまりにも何気なくさらりと言われたので一瞬反応が遅れてしまった。
それでも丸井は素直に気持ちを話した仁王に嬉しくなり「そうか、がんばれよ」と心から友人を応援した。
二人とも丸井にとって大事な友人であったからうまくいけばいいと思っていた。
だからあの日そのままいい雰囲気になって告白できればいいと背中を押したのだ。
なのに丸井が思っていた方へはいかなかった。


「お前、のこと好きなんだろぃ?」

「ああ。」

「じゃあせっかくいい雰囲気だったのに何で告白しなかったんだよ。」


ここら辺は小声で周りに人がいないのを確認してからの会話である。
すると仁王はふいとそっぽを向いて「まだそういう時じゃない」とぽそぽそ消え入りそうな声で言った。


「あのなぁ、いくらあのだからっていつまでもフリーだとは限らないんだぞ。
 別の誰かを好きになる可能性だってあるし。ぐずぐずしててもしょうがねぇだろ。」

「……そんなんわかっとる。」


そう言ったきり机に顔を伏せてしまった。
放っておいてくれと暗に語る姿を見て、丸井はこれはなかなかに前途多難だと小さく溜息をついた。










*****











そんな仁王とのやり取りを経て明くる日のこと。
今日も今日とて友人の事で頭を悩ませていた丸井の元へ柳と幸村が訪ねてきた。


「どうしたんだよ二人して。」

「丸井は仁王とのことで悩んでるんだろう?」

「ちょっとは進展したのかと思ってね。」


二人は仁王の恋に気づいている人物だった。
ぽろっと自身の好きな人について話してから二人が丸井にその話題を持ち掛けたところ
なんと柳も幸村も「ああ。知っている」「あ、やっぱりそうなの」とあっさり頷いてみせたのだ。
さすがはこの二人だと丸井は感心したのは記憶に新しい。
そしていつしか三人で仁王を見守る会のようなものが出来上がっていたのである。


「いいやー全っ然!仁王のやつ案外奥手だからちっとも先に進まねぇよ。」

「まあ、仕方ないと言えば仕方ないかもしれないな。」

「でもいくら高校も同じだからってゆっくりしてたらすぐ卒業まで経っちゃうんじゃないかな?」


幸村の言葉に他の二人も同意した。
立海は大きな規模の学校である為に同じクラスにまたなれるとは限らない。
それに加えに好きな人が出来たりするかもしれない。


「やっぱりいくらなんでも卒業するまでには告白しないとなぁ。」

「こうなれば少し協力してやるか…。」


柳はいつもの涼しげな顔でデータの刻まれたノートを静かに開いた。









*****









それから三人はと会話し、好みだとか好きな人はいるのかだとか些細な情報を引き出したり、
はたまた彼女の様子を観察してみたりして役に立つかは分からないが舞台裏で地味に働いた。
そしてそれらを仁王に伝え、告白してみたらどうだとせっついてみたのだが。


「まったく反応ナシとか。」

「…あとは仁王の気持ち次第なのだがな。」

「やっぱぶつかってみねーとわかんねぇじゃんか!言う前からそんなんでどうすんだよ!」


仁王の相変わらずの保守の姿勢に三人は更に頭を悩ませることになった。
おまけに「何を企んどるか知らんけど放っておいてくれ」との言葉で追い返されてしまった。
あー!何だよあいつ!まどろっこしい!とイライラした様子の丸井に柳は落ち着けと冷静に宥めた。
隣で顎に手を当て何やら考え込んでいた幸村は突然「そうだ!」と声を上げた。
突然何事かと二人は幸村を見る。


「もうさ、こうなったら奥の手だよ。」

「奥の手?」

「しちゃおうよ。強行手段。」


人差し指を立てて楽しそうに笑う幸村に丸井は僅かに頬が引き攣り、柳は興味深そうに頷いたのだった。









*****









「上手くいったね。」


にこにこと思い通りにいって嬉しそうに幸村が笑った。
強行手段、それは仁王とを体育倉庫に閉じ込め二人っきりにしてやろうという案だった。
逃げ場のない状況かつ意中の相手しかいないとなると腹も括るだろうという考えだった。
なかなか容赦のない豪快な手段だと柳と丸井は心の中で思った。
丸井がを幸村が仁王を誘い出しこっそりブレザーのポケットにメモを入れる。
これで仁王は三人がやった事とその意図に気づくだろうと踏んでだった。
あれだけに関してお節介を焼いていたのだから簡単に分かるだろう。
二人が倉庫に入ったのを見計らい柳と幸村が両側から扉を閉めて施錠した。
これで二人きりの密室の完成である。


三人は体育倉庫の傍で座り込み、仁王から連絡がくるのを待った。
全ては意図を理解した仁王が告白を成さねば出られないのだから。


「まさか告白できないってことはないだろうな。」

「それはさすがに無いだろう。」

「できるだけ早く済ませてくれればいいけどね。」


そうこう言いながらも三人はきっとうまくいくと思っていた。
なんとなくだが確信めいたそれに何故か安心できていたのだ。
かなり回りくどいやり方になっていたがこれでやっと苦労が報われると思うと安心した。
尚且つ、こんな事ができるのは今の内だけだと考えると少しおかしくもあった。
どことなく三人で顔を見合わせると小さく吹き出して笑った。


仁王から早く開けろと連絡が入るまであと少し。













仁王を応援する一同の奮闘。











13.7.14