私が仁王君の告白を受けてから、どうやって倉庫から脱出したかというと。
おもむろに仁王君が倉庫の扉をガンガンと叩くと暫くしてからすんなりと扉は鈍い音を立てて開いた。
しかも扉を開いたのが丸井君でおまけに柳君や幸村君までいたからとても驚いた。
仁王君は分かってるみたいで三人に向かって何やら文句を言ってるみたいだし、
あっちはあっちで訳知りそうだし、事情がのみ込めずぽかんとしていたら柳君が説明してくれた。
なんとこの一連の出来事は三人の仕組んだ事だったらしい。
なかなか踏み込まない仁王君にもどかしくて手を貸したのだとか。
でも当の本人全く知らずに倉庫の中でブレザーに入ってたメモを見て、ようやく彼らがやったことだと気づいたらしく。
全て彼らに促されていたのだとようやく認識できた時には
恥ずかしい気持ちと結果付き合うことができた事への感謝で色々ごちゃ混ぜになってしまった。
とりあえずなんかどや顔だった丸井君の頭をチョップしてから皆にお礼を述べた。
丸井君はじゃあチョップすんな!と喚いていたがスルーした。
そんな激動の放課後を送り、翌日ちよちゃんに仁王君と付き合うことになったと報告すれば
「よかったじゃない」とやわらかく笑ってくれたものだから、妙に照れ臭くなってしまい
うへへと変な笑い方をすれば「きもい」といつも通りのお言葉と態度を貰った。
こうして改めて考えてみると私達は随分まわりに気づかってもらっていたのだなとつくづく実感する。
友達とか、あとお母さんや兄ちゃんにもあの時様子がおかしかったから心配されたな。
とりあえず彼氏ができた云々はゆくゆく話していけばいいとして。
あ、小春ちゃんにも相談に乗ってもらったから報告しといた方がいいよね。また電話しよう。
そんなたくさんの事をつらつらと考えている内に時間はあっという間に過ぎていった。
*****
付き合い始めたからといって特別何かあったと言えばそうでもない。
ただ今までより話す事や一緒にいる事が多くなったり、帰りは遠回りになるのにわざわざ送ってくれた。
恋人らしいことというのはいまいちよく分からないけれど
私は充分楽しかったし、仁王君もたぶんそう思ってくれていると思う。
別に無理してあれこれしなくてもいいしね。
今のままのゆったりとした時間もとても大切で好きだから。
「。」
「仁王君。ちょっと待ってね。」
授業が終わってホームルームも終わったら、仁王君はすぐに帰り支度を済ませて私の元へやって来た。
鞄に筆箱と宿題に必要な教科書とノートを突っ込んで、マフラーをぐるりと首に巻いた。よし、準備完了。
「お待たせー。」
「ん。」
短い返事と同時に隣り合わせで歩き出す。
校舎から外に出れば乾いた冷たい風がこうこうと容赦なく吹き付けた。
「うわ。今日風強いね。」
「そうじゃのー。」
「体育の時とかやばかったよね。砂ぼこり立って軽い嵐みたいだった。」
「ああ、そういやブンちゃんが思いっきり目に砂入って泣いとった。」
「わー。そりゃ痛いね。」
今日あった出来事とかこの前テニス部に顔出した時に切原君が真田君に怒られてた話とか他愛ないことを話ながら帰る。
ゆっくりとした私の歩幅に合わせて仁王君もゆっくり歩いてくれる。
本当は足が長いからもっと早く歩くはずなのにそうやって合わしてくれることが嬉しかった。
決してスタイルの良さとかコンパスの差に恨めしく思ったということは断じてない。
横に伸びるすらりとした足と自分の短い足を視界にこっそりとはさんで思わずため息が出そうになる。
まあ、こればっかりは仕方ない。
落とした目線を前に戻そうとしたところでがくっと視界が揺れた。
よそ見をしていて躓いたのだ。
前につんのめる感覚と無様にも仁王君の前で転ぶのかと妙に客観的な思考の中で地面とこんにちはする覚悟を決めた。
その一瞬、隣から伸びた手がぐいっと私の腕を掴んだ。
「大丈夫か?」
仁王君が傾いた体をきちんと立たせてくれた。
なんだか倉庫の時といい最近この助けてもらうパターン多いな。申し訳ない。
こちらを覗きこむようにして問いかけたそれに体勢を改めて整えながら答える。
「うん。平気。ありがとう、おかげでみっともなく転げすに済んだよ。」
「というか今なんか躓くような所あったか?」
後ろを振り返って怪訝そうにしている仁王君に乾いた笑いしか返せない。
考え事をしていたとはいえ何もない所で蹴躓くとかどんくさすぎる。
結局転ばなくても恥ずかしかったなと少し落ち込んでいたら突然右手がふわりと暖かくなった。
驚いて手を見れば仁王君が私の右手を握っていた。
こ、これはもしかしなくとも手を繋いでるという状態では……!
「に、仁王君!」
「またなんもないとこで転ばれても困るからのー。」
「な!あれはたまたま考え事してただけだからであってそんなしょっちゅう転ばないよ!」
「はいはい。わかっとるってー。」
「絶対ばかにしてる…!」
「で、何考えとったん?」
「教えん!」
「えー。けち。」
仁王君はからからと笑いながら繋いだ手をぶんぶんと振った。
空いている左手で赤く熱くなった頬を冷ます。
いくらこの前抱きしめた事があるとはいえ、あの時は状況が状況であったし何せこういった経験は初めてなのだ。
仁王君は何でそんな余裕で自然にさらりと手を繋ぐ事ができるんだ……!
手を繋ぐだけでこんなにも照れてしまってる自分と余裕そうな仁王君が対照的て悔しくてちくしょうと隣を見上げたら。
マフラーに半分埋もれ長い銀髪の隙間から覗く耳がほんのり赤く色づいている。
少しその様子をぽかりと見つめてまたぱっと前に向き直る。
なんだ。仁王君も同じだったのか。
思いの外かわいらしい彼の一面を見れて、心の奥の方がむずむずとしてなんだか嬉しくなった。
返すようにぎゅっとこちらから握り返してみれば、はっとしたようにこっちに向いてきたのでへらりと笑った。
「顔、締まりないぜよ。」
「そっちもね。」
ゆるやかに持ち上がってる口角を指差せば、また前を向いてピヨッとあの謎の鳴き声を出した。
それからの私達。
13.11.24