「いやあ、春ですねー。」
「そうですねー。」
ひらひらと薄い桃色の花びらが春の暖かな風に乗って運ばれていく。
もう立海に咲く桜は大分散ってしまったけど、この中庭の大きな桜だけはまだかろうじて生き残っていた。
ちよちゃんと二人で大木の下に座ってぼんやりと散りゆく桜を眺める。
「うーん、やはり春っていいですなぁ。あ、この三色団子うめえ。」
「こっちのみたらしもうまいよ。チョイスの和菓子屋当たりだったね。」
「でしょー。最近あそこお気に入りなんだ。」
所詮人は花より団子というやつで、綺麗な景色より食欲が勝ってしまうのである。
水筒から注いだ温かい緑茶からはまだ湯気が立ち上っていた。
「うーん、これであと赤い敷物があれば完璧なのにね。お茶屋さんでよく見るやつ。」
「あと大っきな和傘ね。」
「あー、そうそう。あれも雰囲気出るよねー。」
団子を食べ終わって次の和菓子はどれにしようかとちよちゃんと思案していたら、
妙に鋭い視線が突き刺さってる気がして顔を上げる。視線の先には渡り廊下で佇む二人の男子がいた。
よく見ればそれは仁王君と丸井君だった。
二人はこいつら何やってんだ的な顔をしていらっしゃる。
いや、そんなガン見されても困る。
そしたら丸井君が何か閃いたようにぽんと手を打ってから私に向かって指をさした。
「あ、お前この間の日の丸のやつ!」
「止めてくださいそんな黒歴史な名前で呼ぶの。」
「何じゃ日の丸て。」
「この前こいつ昼飯、米と梅干しだけの日の丸弁当食ってたんだよ。」
「お前……。」
「そんなこいつ貧乏だったんかみたいな哀れみの顔やめろ!違うから!…で、何のご用でしょうか。」
「…え。なんつうかその……。」
「お前さんら何しとるん?」
何故か言葉につまった丸井君の代わりに仁王君がその疑問を口にした。
「何って、花見だけど?」
「花見ぃ?」
丸井君が素っ頓狂な声を上げる。
いや、そのままの事を言っただけなのになぁ。
二人はゆっくりとした動きで私達に近づくと、ざっと辺りを見渡す。
「おー、まだここは結構桜残っとるな。」
「うん。だから花見してんの。日本人たるもの四季は満喫しないとね。」
「……でもなんか食うのがメインになってねぇか?」
「そうともいう。あ、よかったら二人も食べる?」
「食べる!」
「ブンちゃん即答じゃな。」
ちよちゃんにも意見を求めたら勝手にどーぞ、と黒糖まんじゅうを頬張りながら言った。
(いつの間にまんじゅうを)
二人は私達の傍に座り込んで、丸井君はちよちゃんが差し出した和菓子の入った袋から選んでいる。
(何か丸井君すごく嬉しそうだな)
私は二人分のお茶を紙コップに注ぐとそれぞれに手渡した。
「何だお茶まであんのかよ。」
「だって和菓子には緑茶でしょうが。」
「まあそうだけどよ。」
もふもふと桜餅を丸井君は咀嚼しながら頷いた。
桜餅マジうめぇな!とか言って早くも食べ終わったのか次の和菓子に手を伸ばしている。
「仁王君はどれにする?」
「あんまり甘くないのがええのう。」
「じゃあこの塩豆大福がおすすめだよ。」
「おん。」
私もよもぎの大福を手に取ってもぐもぐと食べ進めた。
ふんわりとした心地の良い風が辺りを包んで和やかな空気が流れた。
春を楽しむ。
「ちょっと丸井君もちよちゃんも食べすぎ!つか食べんの早っ!」
「ケチケチすんなよい。」
「そうそう。それにが遅い。」
「何だとこの。あー!それ私のいちご大福!」
「まったくにぎやかじゃのう。」
11.1.16