「ああ、丁度よかった。」





そうやって先生に呼び止められたのが運のツキだった。

先生が両手で抱えている大量のノートを目に留めた時、
私はなかったことにしてさっさと立ち去ってしまいたかったのだが、
生憎そんな度量は持ち合わせていなかったので仕方なしに何ですかと尋ねた。
心持ち無愛想になってしまったのは許してほしい。



「ちょっと他の用事で呼び出されててなぁ、
悪いがこのノート職員室の俺の机まで運んでくれないか?」

「……はあ、まあいいですけど。」

「じゃ、よろしく頼むわ。」



思いっ切り嫌ですけどなオーラを醸しだしつつ返事をすれば、
先生はそんなのお構いなしに笑顔でノートを私へ押し付けてきた。

もう一度念を押すように頼んだぞ、と言付けてあっという間にどこかへ消えてしまった。
何かしてやられたという気がするのはなんでだろうか……。

もやもやとしたものを抱えつつ、渡されたノートの山を持ち直す。
えー、職員室だっけか。
やだなぁ。こっからわりと遠いじゃないか。
ぶつくさと私へ押し付けた先生に文句を言いながら職員室を目指す。
途中何度かバランスを崩しそうになったが何とか持ち堪えた。

だからといってノートにばかり注意が向いていたのが間違いだった。
前から人が来ているのに気がつかなくて、咄嗟に顔を上げて避けようとした時には遅かった。
目の前にいた人とぶつかってしまった。



「おわっ!」

「おっと、」



お互い小さく声を上げて体を反転させる。
相手は丸腰だが、こちらにはあのアホみたいな量のノートがある。
体制を崩した私は呆気なくノートを放り出し、バサバサと無惨にも床に落としてしまった。
力無く散らばるノートにすっかり数少ないやる気を削がれてしまい、
あー。と間の抜けた声が思わず口から出てしまった。



「大丈夫ですか?」



ぶつかってしまった人が慌てたように私に声をかけてきた。
そこで初めてその人の顔を見たのだが、綺麗に整った髪に眼鏡をかけたとても紳士風な男子だった。
(姿勢もどこかピシッとしてる)



「あ、大丈夫です。すみません私がよそ見してたせいで。」

「いいえ、こちらも荷物を抱えた貴女に気づいていませんでしたから。申し訳ありません。」



本当にすまなそうに謝るので、何故かこちらも申し訳なくなってしまう。
とりあえず散らばってしまったノートを拾おうとしたら紳士風な人が同じく屈んでノートを拾い始める。



「ちょ、いいですよそんなこと!私が悪いんですから!」

「何をおっしゃるのです。ぶつかった云々を無くしても、困っている人を手伝うのは当然です。」



なんとこのお方は見た目だけじゃなく中身まで紳士だった。
結局職員室まで一緒に運んでくれることになった。
その際にも柳生君(名前聞いた)は全部持とうとしたので慌てた。
それでも彼は半分以上を持ってくれたのでこの人は一体どこまで紳士なのだろうか。
(このご時世になんと素晴らしい)


職員室へ着いて無事役目を果たし、私は柳生君に丁重にお礼を言うと
爽やかな笑みを浮かべていいのですよ、と言ってから軽く手を上げて去って行った。

いやあ立海にまさかあんな紳士的な人がいるとは。
何だか妙に感動してしまった。










現代の紳士現る。









後日ちよちゃんにその話をしたらそれはテニス部の人だと言われた。
おまけに近くで話を聞いていた仁王君から自分のダブルスのパートナーだと聞かされた。テニス部パネェ。










11.1.16