「おはよう」
朝起きるとリビングに幼なじみの雷蔵がいた。
小さな頃からお互いの家を行き来していたので、勝手知ったるふうで食パンをオーブントースターに突っ込んでいる。
「おはよ……なんでいるの?」
「おばさん達もう出てっちゃったよ。
朝ごはん作ってくれてるからいっしょに食べよう」
お母さんとお父さんは今日から紅葉狩りと温泉の一泊二日の旅行である。
何かにつけていっしょに旅行へ出かけるのは仲がいい証拠で大変よろしいのだが……うん、まあ険悪よりはいいよね。
私も昔は両親にくっついて行ってたのだが
さすがにもう着いていくより家にいる方が良くなってきたので大人しくお留守番をしている。
というか雷蔵質問に答えてないじゃんか。
のたのたと寝起きの遅い足取りでテーブルにつけば、さっとグラスに注がれたオレンジジュースが出され
続けてこんがりきれいに焼き上がったトーストが皿に乗せられた。なんと手際の良いことよ。
それに加えてお母さんが用意したであろうハムエッグとサラダとヨーグルトがあり、完璧な朝食が出来上がった。
私なんにもしてないけど。
「たまたま朝郵便受け見に行ったらおばさん達に会ってね。
よかったらご飯食べてってついでに起こしといてって頼まれてさ」
「なるほど」
丁寧にトーストにあんずジャムを塗りつけながら雷蔵が先の質問に答えた。
私もバターを塗ってからジャムを塗ると太るよと前から咎める声がする。
「まだ眠そうだね」
「昨日遅くまで本読んでたから」
「ああ、この前買ってたやつ?」
「そう。おもしろかったよ。読み終わったから貸そうか?」
「うん、貸して」
私と雷蔵は食べるのが遅くて、あと朝だということもプラスされゆっくりと食べてから
二人で洗い物をして食器も片すと、何をするでもなく自然と並んでソファに座り込む。
適当に流されているテレビからは今話題のショッピングモールが紹介されていた。
「雷蔵今日はなにか予定あるの?」
「ううん。特にはないかな。は?」
「私もなあんにも」
最新の流行だという洋服だとかおいしそうな料理が映って
あれかわいいだとかおいしそうだとか、予定のない二人はぐだぐだと身のない会話をする。
「どこか出かける?」
「うーん、今日は家でだらだらしたい気分かな」
「そう。僕もそんな感じかも」
じゃあ二人で心ゆくまでだらけようと休みの日で晴天に恵まれているというのに、早々にそれらしいことをするのを諦めた。
天気が良かろうが若いのにだらしがないだとか言われても知らんこっちゃである。
それから漫画を読んで今後の展開を予想し合ったり、なんでもないことをぽつりぽつりと話したり
決めた通りぐだぐだとだらだらと過ごしている内にあっという間に午前は過ぎ、お昼になった。
「お腹すいたね」
「そうだなぁ」
「なんか食べよっか」
立ち上がって台所へと移動する。
朝ごはんはお母さんが作ってくれていたが、当然お昼以降はない。
「何かあるの?」
「食材はね、けっこう冷蔵庫に詰まってるんだけど」
がぱりと開けた冷蔵庫には様々な食材が入っている。
好きなようにしろということであろうお母さんの気づかいなのだけどここでひとつ問題がある。
私も雷蔵も料理が全くできない。
できることといえばチンしたり茹でたり焼いたりといったことだけで。
しかもそれは市販のレトルト物に限った話だ。
一応お母さんが今日明日分の食費は置いていってくれている。
出来合いのものを買うことも可能だ。
「買えるんだけどなー。なんかそういう気分でもないしなー」
「どうする?がんばって料理挑戦してみる?」
「そんな無謀かつ危険なマネはしたくない」
「じゃあやっぱり何か買いに行かないと」
「や、手はある」
さっとスマートフォンを取り出して、ある番号を呼び出す。
いたらいいんだけど……
*****
「お前さぁ、お昼作ってって何様なの?私はの彼氏か」
「でも来たじゃんか」
「そりゃあ、雷蔵もいるって聞いたし…」
はああ、と来るなり盛大にため息をついた三郎にごくろうとぽんぽん肩を叩いてやる。
そう、三郎は雷蔵のためとあらば火の中水の中駆けつけてくるようなやつなのだ。
でも、もともと彼は気を許した相手にはわりと甘いほうなのを知っている。
飄々として見られるがその実友達思いの良いやつだ。
本人にはそれを言ったら照れて拗ねられてしまうので言わないけど。
「で、なんでハチもいんの」
「いちゃダメなのかよー」
「行く途中でたまたま会った」
「まあまあ、いいじゃない。とりあえず入りなよ」
雷蔵が当たり前のように来客用スリッパを出して、リビングに通してくれる。私より手慣れてるな。
食材はだいたいあるからなんでも使っていいよと言えば、三郎は分かったと早速準備に取りかかった。
手伝おうかと一応言ってみたが気持ちだけ受け取っておくとくるりと返却されてしまった。分かっていたさ。
残された三人はお昼が出来上がるまでの間、また尽きることなく話に花を咲かせていた。
時折カウンターの向こうで調理している三郎も交えながら。
ほどなくして完成した三郎お手製のトマトとなすのパスタは大変おいしかった。
こいつは頭も良くて顔も良くておまけに家事も得意だというのだから腹が立つ。
その代わり性格が少々アレなんだけども。
洗い物は私が済ませてリビングに集まる皆の元へと戻る。
いつの間にかゲームを引っ張り出してきて勝手にやっていた。いつものことである。
「誰がどれなの」
「俺がマリオで三郎がキノピオで雷蔵がルイージ」
「あ!それ私が取ろうとしてたフラワー!」
「早い者勝ちだよ三郎」
やいのやいのと騒いでる(主に三郎とハチだ)を眺め
先程と同じくソファの雷蔵の隣に座ってゲームで騒ぐ彼らを見つめる。
ソファの前、カーペットに直に座っている三郎とハチの頭とテレビ画面を交互に見て
時折口を挟んでいたらピロンとスマホが鳴る音がした。
ロックを解除してみれば勘ちゃんからラインがきていた。
『今何してんの?俺は兵助といっしょに図書館で勉強してたよ』
疲れた!とウサギが言っているスタンプと共に送られている。
さすが進学クラス、休みの日にまで勉強会とは恐れ入る。
ちなみに三郎も頭は良いけど気まぐれなのでわざと悪い点を取ったりするという誰の得にもならないことをするので質が悪い。
雷蔵もそこそこ良い、ハチは得意な科目は飛び抜けて良いけどあとはてんでダメ、かくいう私は可もなく不可もなくといった具合である。
『雷蔵たちが来て、ぐだぐだやってるよ』
ついでにとゲームをやってる3人の写メを撮って上げておく。
「ちょっと何盗撮してんのーえっちー」
「三郎気持ち悪い。勘ちゃんから何してんのってきたから現状を撮って見せただけ」
「へえ、勘右衛門は何してたって?」
「兵助と勉強してたんだって」
「マジかよあいつら変態だな」
「変態だ!」
変態変態と騒ぐハチと三郎にお前らも見習えよと思ったが、自分はと聞かれればやらないので黙っておく。
少しして勘ちゃんから返事が届いた。
『なにそれずるい!俺らもそっち行くからね!』
行ってもいい?じゃなくて行くと決まっているのが彼らしい。
手短に『待ってるよ』とだけ残しておいてスマホを置く。
「勘右衛門なんて?」
「兵助とこっち来るって」
「そうか、なんかまたいつもの感じだね」
「だね」
いつの間にかゲームを抜けていた雷蔵が先程貸した本に目を通している。
マリオたちがわちゃわちゃしていたゲームはおどろおどろしいゾンビゲームに変わっていて
三郎とハチのコンビが互いに下手くそだの野次りながらゾンビを倒していた。
それをぼんやり見ていたら急に眠くなってきた。
横から雷蔵が「眠いの?」と聞いてきたので頭を縦に振ることで答える。
だんだんと耐えれないくらいに瞼が重くなってきて、隣にぽすりともたれかかれば「重い」と一言飛んできた。
そういいつつも退けないのが雷蔵の優しい所である。
暖かな熱に余計眠気が誘われて、ついに私は起きておくという事を放棄した。
*****
さわさわとした喧騒を感じて落ちていた思考と瞼をこじ開けた。
「あ、起きた?」
「……ん、あれ勘ちゃん?」
「そうだよみんなの勘ちゃんだよ」
目を覚ませばへらりと笑って冗談を言う勘ちゃんが隣に座っていた。
テーブル周りには三郎ハチに加え兵助もいる。
「いつ来たの?」
「が寝てからすぐだよ」
「一時間くらい前かな」
もたれていた隣の雷蔵からと勘ちゃんからとステレオで答えが返ってくる。けっこう寝てたようだ。
前から「おはよう」「寝坊助ー」「豆腐ドーナツ食べる?」と好き勝手に言われる。
はじめからハチ、三郎、兵助の順である。
ドーナツは兵助と勘ちゃんが手土産に買ってきたらしい。
「食べる。どれがおすすめなの」
「サトウキビ」
「じゃあそれ、ありがとう」
サトウキビのドーナツを受け取ってもしゃもしゃ食べてたら、「ノド詰まるよ」と雷蔵がコップに入ったお茶を持ってきてくれた。
お礼を言いつつテレビを見れば今度は皆で桃鉄をやっていた。
それぞれの名前でプレイしてるから誰が操作してるか分かりやすい。
「おい兵助やめろ!お前ハリケーンついてんだからこっちくんな!」
「みんな道連れになればいい」
「あぁー!私の物件が!!」
「わあ、悲惨ー」
兵助のハリケーンボンビーのせいで彼の近くにいたハチと三郎が物件を巻き上げられていた。
あれちょっとでも画面にいたらアウトなんだよね。御愁傷さまである。
勘ちゃんと雷蔵はちゃっかり避難していたらしくのんきに事の顛末をお菓子を食べながら見守っていた。
ゲームでもなんでも勝者は余裕がある。
その後、私もまざってゲームをしたり雑談してる内に時間はすぐに経ってしまう。
夕暮れが濃くなってきた。窓から差す暗いオレンジの夕陽が部屋の中を照らしている。
「なあ、このまま晩飯もみんなで食おうぜ」
「おー、いいね」
ハチが提案したことにみんなが乗っかる。
さっきおやつを食べていたというのに夕飯の話になるとまたお腹が空いてきた。
まったく現金な体質である。
「はいいの?」
「別にいいよ。どうせ今日は一人だし」
「よし、じゃあ決まりだな!何食う?」
「鍋にしようよ、材料ある程度ならあると思うし」
鍋に賛同をもらったので台所に行って冷蔵庫の中を改めて確認する。
おもに調理担当になる三郎も着いてきていっしょに中を覗きこんだ。
「野菜は―きのこ類はあるな、にんじんにネギに小松菜、白菜だけ買えばいいか」
「マロニーもあるよ!あとはお肉だね」
「俺、豚肉がいいなぁ」
「えー鶏肉も捨てがたいよ、鶏団子食べたい!」
「じゃあ両方入れようよ」
「わあ、ぜいたくだねー」
カウンター越しにあれやこれやと鍋の具談義で盛り上がり、だいたい買うものが決まった。
お金はみんなで割勘にするとして、あとは買い出し係を誰にするかはジャンケンで決めることに。
「じゃ、ハチと兵助買い出しお願いね」
「寄り道すんなよ」
「誰がするか。じゃあ行ってくるな」
「いってらっしゃい」
―――---
「なんかあの二人大丈夫かな。メモはちゃんと渡したけど」
「はじめてのおつかいみたいでドキドキするね」
「ハチはまああれとして、兵助がなぁ」
「豆腐売り場から動かなかったりして」
あはは、と笑うが如何せん頭は良くとも豆腐バカな兵助のことだ。本当にそうなりそうで恐い。
ハチの苦労が目に見えるようで同情した。
なるべく早く無事に帰ってくるといいと祈りつつ、彼らが戻るまでに鍋の準備に取りかかったのだった。
*****
結果的に言えば予想は当たっていたらしい。
無事買い物を終えて帰ってきた二人だったのだが、やけに疲れたハチと反対に上機嫌の兵助
加えて「すまん、俺には止められなかった」との言葉。
何があったのかと問い出せば、兵助が豆腐売り場で動かなくなって引きずるように連れ帰ったのと
通常より多く豆腐を買ってきたことによる体力精神共にヘトヘトになってしまったのだと言う。
いつものこととはいえお疲れ様である。
追加された食材も下ごしらえをして鍋がようやく開始された。
「おい、お前ら肉ばっか食べるなよ。野菜も食え!」
「だって育ち盛りなんだもん」
「勘ちゃん肉食系だから」
「そういうはマロニー取りすぎだから」
「そうだぞ」
「兵助は豆腐ばっか食いすぎ!」
三郎が鍋奉行をしてくれているおかげでほどよく味が調ってるし、灰汁もまめに取ってくれ、あれこれ世話を焼いてくれるのでとてもおいしかった。
シメはうどんにするか雑炊にするかでまた一悶着あったのだけれど。
そうして満腹になり、片付けも終わった所でその場の流れでみんな泊まって騒ごうぜということになった。
トランプをしたり人生ゲームをしたり、わいわいと終始賑やかである。
*****
ふと意識がぱちりと戻り目を開けた。
「あ、起こしちゃった」
寝転がり見上げた先には雷蔵がいて、全身を覆う毛布があることに気がつく。
「ごめん、いつの間にか寝てた。毛布ありがとう」
「いいよ。みんなももうとっくに沈んでるし」
起き上がり辺りを見回せば、隣には三郎がネコのように丸まっていて
その向こう側には勘ちゃんがビーズクッションに全身を埋めて幸せそうに眠っている。
兵助もそこらへんのクッションをかき集めて寝ているし、ハチはお腹を出して毛布をはね除けて眠っている。
「みんなに毛布かけてくれたんだね。ありがと」
「僕もさっきまでは寝てたんだけど、目が覚めたから。たまたまだよ」
そう言いつつハチの毛布をかけ直してくれているあたりやっぱり雷蔵は優しい。
その時勘ちゃんが「もう食べられないってー」なんて寝言をむにゃむにゃ言ったもんだから、雷蔵と顔を見合わせてこっそり笑った。
三郎が眠っている反対側の隣に雷蔵も寝転んで毛布を被った。
なんでも勘ちゃんとハチは寝相が酷いから近くは嫌らしい。
三郎も隣に寝ているのは同じような理由なんだろうな。
結局何も予定がなかったはずがいつの間にかこんなに友人が集まって、楽しく賑やかに過ごすとは思わなかった。
思い返して少し笑うと雷蔵がどうしたのかと聞いてきた。
「いやあ、何だかんだでおもしろい休日だったなって」
「ああ、そうだね」
「明日はどうしようかな」
「またその時みんなで考えればいいんじゃない?」
「それもそうか」
つけっぱなしだった電気をリモコンで消して、また寝る体勢に入る。
「おやすみ雷蔵」
「おやすみ」
きっと明日もまた楽しい一日になるだろう。
なんでもない休日
15.11.14