あのおでん事件から真島さんはよくこのコンビニに来るようになった。
ふらりとやってきては何か買う時もあればただ世間話に来ることもある。(名前もその時聞いたものだ)

決して仕事の邪魔はせずに適度に会話を挟む―
とはいえ真島さんがいる時はお客さんは気配を殺すかそそくさと退店することが多い。
それはまあ致し方が無いことなのではないだろうか。

だからといってその事を店長は迷惑がるわけでもなくさん最近あの人にずいぶん懐かれてるねえ
なんてのんびり言うものだから危うくポテトを撒き散らす所だった。
懐くってそんなかわいらしい単語似合わない。チョイスがおかしい。


そんなこんなでちょくちょくお話するようになってすっかり真島さんとは親しくなっていた。


ある日たまたま来ていた真島さんに近況を聞かれて就職活動がうまくいってない事を話した。
もとより私は就職するために商業高校へと進学していた。
しかし、この不景気のせいなのかなかなか内定が貰えなかった。
それで困っていると軽く話したところ、真島さんは少しの間考えた後、じゃあうちで働くか?とさらりと言ってのけたのだ。

ちょうど事務っちゅうかお手伝いさんがほしかったんよな、だとか
ちゃんならしっかりしとるから安心やわーとか続けざまに言われて頭が追い付かなくなってきた。
こっちとしては最近の事を聞かれたから、さらっと世間話程度に話しただけなのに思わぬお誘いがきてしまった。
真島さんはいわゆる極道の組のトップらしいけど今は建設業をやってるらしい。
そこの事務をやってみないかとの事だ。

暫しの間悩んだもののこれももしかしたら何かの縁なのかもしれないと思い
気づけばよろしくお願いしますと返事していたのであった。






*****






無事卒業して真島さんの下で働くことになったのだけれど、さすがまあ一般企業とは違うというか。
まず強面の人が多いのである。元々があれなだけに分かってはいた事だけど最初はびっくりした。
でも神室町のコンビニでの様々な経験があってかわりとすぐに馴染むことができた。
あと真島さんの自由っぷりもすごい。
一応社長という立場でもあるのだけれど、いろいろとやる事成す事が予想の斜め上を飛びぬけている。
それでも独特の風格等から滲み出るオーラは流石上に立つ人、という所だろうか。


初めてやることに四苦八苦しながらも、少し慣れてきた頃。
その日も黙々と業務を熟し、ファイル整理をしていた私を真島さんが呼んできた。


ちゃん、ちょいこっち来て。」


こっちこっちと手招きをしてきたので真島さんの方へと近寄った。


「何ですか?」

「手ぇ出してみ」

「はい」

「ほい。これ渡しとくわ」


ぽんと軽く渡されたものを見れば四角い恐らく機械のようなもの。
適度な重みがあってボタンと上の方に金属の出っ張りがついている。


「これなんですか?」

「あら、ちゃん分からんの?スタンガンやスタンガン」

「スタンガン!?」


ぎょっとして手にある機械もといスタンガンを改めて見やる。
物が何か分かると急にずしんと重たくなった気がした。


「待ってください、何でスタンガンなんですか!」

「そら、決まっとるやないか。ちゃんが自分自身を守るためやないかい」

「はあ…」

「まあやっとることがアレなだけにな、
 なに考えとるか分からん物騒な輩がもしかしたらちゃんに危害を加えるかもしれん。
 ワシらがおる時はええけど、一人の時になんぞあったら困るやろ?」


確かに今や建設業を営んでいるとはいえ、真島さんは元々極道なのだ。
今も完全に止めてるわけじゃないし、過去に恨みがある人もいるだろう。
弱いただの一般人の私を狙ってくる可能性も無きにしも非ずといったところだろうか。
まあ、私なんて真島さん達にとって大した脅しにはならないだろうけども。


「どないしたんや、そないに難しい顔して。
 心配せんでも一発ぶちかませばすーぐぶっ倒れる代物やで?
 なんなら試してみよか。―おい、お前ちょっとこれやらせろや」

「いやいやいや!いいですって!大丈夫です!
 そういう心配全くしてませんから!本当に!」


黙りこくって考えに耽っていたら何を勘違いしたのか、威力を確かめさせる為に近くにいた組の人で試そうとしたので慌てて引き止める。
えっ!と驚き戦いていた彼は真島さんがそうか、と引き下がったのを見てあからさまにほっとしていた。こっちもほっとした。


「ただ、そうなった時うまく扱えるかなと思ってただけですよ」

「心配あらへん。ここを押して相手にぐーっと押しつけるだけやから」


かちっとボタンを押して見せてくれたが、バチバチと電流が走る音がして知らず身震いした。
結構すごそうな電力だけどあれ当たったら死ぬんじゃないだろうか。真島さんが仕入れてきた物だけに。


「大丈夫やって、死にはせんから。ただ暫く使いもんにならんだけで」

「それでもじゅうぶん恐ろしいです」


そんな考えを見抜いてか、先回って言われてしまった。
からから笑いながらちゃんは恐がりやなぁ、なんて言っているけど普通だと思う。
とりあえずその護身用スタンガンを受け取っておいた。


「せやせや、まだあんねん。これもあげるわ」

「今度は何ですか……」


怖々とまた差し出された物を手に取る。
それは無機質な灰色のスプレー缶だった。携帯するのにちょうどよい大きさである。
ラベルも商品名も書いていないのが物凄く不安だが。
そろそろと真島さんを見上げればにやにやと実に良い笑顔で背筋がヒヤリとした。


「超強力催涙スプレーや。これくらったら鼻水も涙も穴っちゅう穴から止まらんくなるで」

「何を配合したらそんな恐ろしい劇物が出来上がるんですか!」

「世の中にはな、知らんほうがええこともあるんやでちゃん」


しらっと切り返されて、思わずこちらの笑みも引きつった。
またまたとんでもない代物を貰ってしまったが、自衛のためなら使えるものなのかもしれない。


「やっぱり効果気になるんかぁ?んじゃ、西田実験台なれや」

「ええっ!堪忍してくださいよ!」

「大丈夫、ほんと大丈夫ですから!止めてくださいって!」


じっとスプレー缶を見つめていたらまたもや真島さんが今度は西田さんで試そうとしてきたので慌てて止めに入った。
つまらんなぁ、と少し拗ねたような表情をしてただ単にこの人がやってみたいだけなんじゃないのかと心の中でため息をつく。


「―ありがたく頂戴致します……できれば使うような場面には出会したくないですけど」


へらりと苦笑いをして2つの護身道具を抱え込むと、そらまあそうやな、と真島さんは笑って私の頭をぽんぽんと撫ぜるのであった。











いざというときの話





title by afaik


15.02.08