「いよう、峯さんちわっすー。お邪魔しますぜ。」

「邪魔するなら帰ってくれ。」

「はいよー…ってそれ新喜劇ぃ!!」


何峯さん好きなの?意外とコテコテ芸好きなの?

そう騒ぎながら勝手に事務所に入った挙げ句俺の周りをちょろちょろするうざったい女。
これで東城会六代目の付き人をやっているのが未だに信じられない。明らかな人選ミスだ。
もういい年だというのに落ち着きがなく、仕事をミスすることなんて両手じゃ足らないくらいやっている。
その度に指を詰めていたらきっとあいつの両手は紅葉のようになっているだろう。
まあ、体が普通の女より丈夫でいやに肝が据わっている、ということだけは認めなくはない。
勝手にソファに座り、テーブルに置いた花瓶を弄ろうとしていたので注意し、深々とため息をついた。
細々としたトラブルを招く前に帰ってほしい。


「用件は何だ。」

「用がなくちゃ来てはダメだと言うのですか。」

「ダメだ。」

「やだ即答!」


そんないじわる言わないで下さいよ〜。

等と喚きながらデスクをバシバシと叩いてきたので、手近にあったファイルで奴の頭を叩いておいた。


「いだっ!峯さん暴力はいけませんよ暴力は。」

「お前は自分が何処に所属してるか分かっているのか。」

「分かってますよー。やだな峯さんったら。ちゃんと用件があって来てますって。」


ごそごそと鞄からクリアファイルを取り出すとそれを俺に手渡してきた。


「はい。六代目から預かってきた書類です。」

「余計な事をする前にさっさと渡せ。」

「余計じゃないです。峯さんをおちょくる…じゃなかったお話したいんですよ。」

「お前今すぐ殺されたくなかったら出ていけ。」


きゃーこわーい!と棒読み丸出しの捨て台詞をはいて部屋からようやく出ていってくれた。
やれやれやっと静かに仕事ができる。書類を確認しようと手に取った丁度その時ガチャリと扉が開いた。

が扉を少しだけ開け顔を覗かせていた。
目が合ったと思えばにやりと意味深な笑みを浮かべ、何故かウインクを寄越してそのままバタンと扉を閉めた。
……相変わらず意味がわからないがうざいことだけは確かだ。








*****







ぱしりと女が振りかぶってきた手を掴む。
頬を思い切り叩こうと威勢よく手を上げたはいいが止められるとは思っていなかったのだろう。
目を見開く女に対して冷たく視線を返すと掴んだ手首に力を込めた。
痛みに顔を歪めた女を見下ろして嘲笑えば更にその化粧で固めた顔が歪んだ。

あんまり皺を寄せたら大事な仮面が崩れるぞ。
喉元まで出かかった言葉を寸前で飲み込んだ。これ以上面倒なことになるのはごめんだ。
女はばっと俺の手を振り払い「最っ低!」と一言吐くと高いヒールを鳴らして去って行った。

別に好き好んで付き合っていたのではない。
たまたま何処かで知り合いあちらから俺に近づいてきた。
どいつもこいつも寄って来る女は俺の金しか見ていない。
だから適当にやって別れを告げればこうだ。いつもの同じ、飽きたパターンである。
最低なのは果たしてどちらであろうか、と考えた所で自嘲的な笑いがするりともれた。

と、そこで似つかわしくない携帯のシャッター音が背後から聞こえた。
少しだけでない大分嫌な予感が脳内を駆け巡ったが無視する訳にもいかない。
真逆へ振り返ればそこには大方の予想通りが携帯をこちらへ向けて立っていた。


「うへへ、峯さんフライデーですよ、フライデー!」


眉間にいつもより皺が深くなるのが自分でも分かる。
つかつかと無言でに近づきその携帯を引ったくった。


「ああ!何するんですか!貴重なスクープを!」

「…お前こそ何をしている。」

「たまたま通りかかったら峯さんと美女の修羅場が見えたんでつい記者魂が疼いて写メっちゃいました。」


にこにこと何の悪びれもなくほざくこいつの神経の図太さは何なんだ。
いつもの頭が痛くなるような感覚になりながら携帯を両手に持ち直す。
ぎち、と携帯が鈍い音を立てた。


「ぎゃああ!峯さん携帯逆パカしないで!
ごめんなさいごめんなさいもうしませんからー!!」










*****










「酷いですよ。絶対本気でしたよね。携帯ミシミシいってましたもん。」


ぶつぶつ文句を言いながらは俺の隣を歩いていた。
何でついて来るんだとは聞かない。
に何でだとか理由を聞いた所で意味は無いと分かっているからだ。

俺の目の前で例の撮った写真を消去させ、は携帯の具合を気にしていたが(しつこい奴だ)
ようやく落ち着いたのかぱちりと携帯を閉じてそういえば、と唐突に切り出した。


「峯さんでも振られたりとかするんですね。」

「振られたんじゃない。振ったんだ。」

「美人さん怒ってましたね。」

「あれはあの女が悪いんだ。」


何がとは話すつもりもなかった。
もそこは気にしないのかそうですかと返してきただけだった。


「峯さんイケメンなのにもったいないですね。」

「何がだ。」

「別に深い意味は無いです。」

「……俺に言い寄る女は俺の財布しか見ていないんだ。」


そう吐き捨てるように言うと、が隣でこちらへ顔を向けてきたのが分かった。


「世の中結局は金だ。どいつもこいつも。
 どれだけ綺麗事を言おうが全てそこに行き着く。」


昔から、俺が小さい時からそれで見比べられていた。

貧乏か裕福か。

人はそれを秤にかけて人の価値を見出だしている。だから俺は―。
そこでが急に立ち止まり俺のスーツの裾を掴んだ。
自然と足が止まりの方へ向き直る。
どうした、と問い掛けるのを遮るようにの声が被さってきた。


「…私は峯さんといると楽しいですよ。」


俯いていた顔を上げてじっとこちらを見つめている。
いつもの冗談かと思ったがの目は真剣そのものだった。


「いつも私がふざけたりしても相手してくれるし、
 どんなつまんない話でも最後まで文句を言いながらも聞いてくれるし―」


指折り数えるを今度は俺がじっと見つめた。
何を言い出すのかと思えば俺といて楽しい理由を上げ始めた。
虚を突かれ黙ってそのぽんぽんと出てくる言葉を聞いていた。


「いろいろあるけど峯さんが例え一文無しでも一緒にいたいです。
 峯さんの事をお金目的で近づく人がいるなら私が守ります。
 峯さんの財布のストラップになって開かないようにふん縛って取られないようにします。」


得意げに言うに相変わらず無茶苦茶な発想だと思うと同時にふっと胸の奥にあった重いものが無くなった気がした。
ずっと黙っている俺に対しては何故か必死にしどろもどろになりながらも言葉を繋ぐ。
いつもは軽口ばかりでうざったく感じるのに不思議と聞いていられた。

あれこれと話してる内に自分でもこんがらがってきたのかうんうん唸った後、決心したように真剣な面持ちで俺の顔を見上げた。


「つまり私はずっと峯さんと一緒に、隣に在りたいということですよ!」


言い終わるやいなや満足げに頷くに一瞬頭の中が白くなった。
しかし、それもつかの間で徐々に例えようの無い妙な気持ちになった。
暖かいようなこそばゆいような今まで経験のない感覚。
の顔を改めて見ればそのあまりにも晴れやかな表情にこちらまで頬が緩むのが分かった。


「あ!峯さん笑ってる!私には見下したような笑みしかしたことないのに!」

「うるさい。がアホだから笑ってるんだ。」

「うそ!そんな感じじゃなかったですよ。もう一回、ワンモアスマイル!」

「うざい。」


人差し指を立ててもう一回と騒がしくするを無視して、再び歩きだす。
相変わらず馬鹿みたいににこにこと嬉しそうに笑って俺の隣を歩くを見て、
不覚にもずっとこいつが隣にいるということも悪くないと思った。













となり。












25.4.20