「ぎゃー!」


はい。いきなり絶叫からのスタートでこんにちは。
私は今ゾンビらしき怪物とデッドオアアライブの真っ最中です。リアル鬼ごっこなうです。

何故そんな状況になったかと言うと、
いつものように学校が終わって明日休みだぜヤッフー!なんて薄い事考えながら歩いてたらいきなり足場が無くなりました。

ふわっとした気持ち悪い浮遊感もつかの間、一気に私の体は重力に引っ張られ落下し始めました。
何でいきなり落っこちたんだ!と半ばパニックになりながら上を見遣るとなんてことはない、ぱっくり口を開けたマンホールから足を踏み外していたのでした。
バカだ。バカ過ぎるぞ私。

数秒前の愚かな自分を恨みつつ、落ちたらやはり怪我するのだろうかとか、下水道なら汚水が付いたら制服お釈迦だなとか呑気に考えていた。
そこではたと気がついた。この穴やけに深くないかと。
私は未だ絶賛落下中だ。先程のような呑気な思考に走れるぐらいの長さである。
これもしかして相当深いのでは?
そんなに深いならもしかして骨折どころで済まないんじゃないか。
一気にざあっと血の気が引く。

どうしようどうしようと再び混乱していると、ずっと続くかに思えた落下の終わりは唐突に訪れた。



「ふぎゃ…!」



覚悟していた割には軽い衝撃で(ちょっと痛かったけど)咄嗟に瞑っていた目をそっと開けてみればそこには鬱蒼とした木々が広がっていた。
自分が落ちた所は柔らかい土に落ち葉が積もっていて、どうやらこれがクッションになったようだ。
とりあえず怪我しなくてよかったとほっとする。
でもすぐに新たな問題点が発生した。


「ここ、どこだよ…。」


ぽつり一人ごちてみても虚しく風がひゅるりと通り抜けるだけだ。
というか私マンホールから落ちた筈なのに何で森の中にいるんだ。
まさか都市伝説なんかでよく聞く地下都市とか!…まあそんなわけないよな。
とりあえず人探して何処かだけでも把握しないと。
そう思ってスカートについた土や葉を払い落とし歩きはじめた。








暫く歩いてからずっと思っていたのだが、人気が全然ない。
しかもたまに見かけた家は全部廃屋だった。
辺りは薄暗いし何だか気味が悪い。

どこのホラー映画だよ、と悪態をつきつつ足は人を求め歩いている。
もしかしてこのまま人に会えないかも、と半ば絶望感にうちひしがれていると前方にぼんやりと人影が見えた。
第一村人発見!と某番組の台詞が頭に過ぎりつつ、そっとその人の背後に近づいた。
どうやら草刈りの最中らしく、作業に集中しているのか近づいても気づかれない。


「すみません、ちょっとお尋ねしたいことが―」


ありまして、と続く筈の言葉を飲み込んだ。
振り向いたその人の目から真っ赤な血が流れ落ちていたからだ。
目は生気が無く濁っていて、肌は異様な青白い色をしていた。
まさか、人間じゃないとか…。
戸惑う私を余所に目の前の人はニタリと笑うと持っていた鎌でいきなり切り付けてきた。


「うわぁ!」


間一髪で避けれたが、まだそいつは襲ってくる気満々である。
その異様な光景に今更ながら恐怖心が沸いてきた。
素早く反転して走り出す。とにかく逃げないとヤバい。
走りながら後ろを振り返ると案の定追い掛けてきた。
それを確認して更に足を必死に動かす。

一体何なんだアレは!

ゾンビとか言わないよね?

そんな架空の存在なんているわけないし!

自分でばっさり切っておきながら、じゃあアレはどう説明するんだと疑問が出てくる。
ええい、知ったことか!とにかく私は今アレに殺されかけてんだから!
馴れない舗装されてない山道を走り抜ける。
助けを求めようにも人いる気配ゼロだし、もしアレみたいな化け物の仲間がいるならもう終わりだ。
まっすぐ逃げてるだけじゃダメだ。
そう考えてどこか隠れる場所を探そうと方向転換しようとしたら。


「うぶ!」


躓いて思いっきり前へズシャッとこけてしまいました。
マズイマズイ!早く逃げないと!
慌てて体を起こしたらすぐ近くまで迫ったゾンビが。
動け、と頭では命令しているのに体が動かない。
こけて死亡フラグ立てるなんて本当どこのB級ホラー映画だよ。
思考を逃避させるようにそんな馬鹿みたいな事を考えた。

私死ぬの?

嫌だ。

こんなのに殺されて死ぬなんて嫌だ。

怖い。


誰か―助けて。


目前まで迫った化け物から目を逸らすようにきつく瞼を閉じる。
瞬間、パン!と乾いた音が響いた。
驚いて目を開けると化け物が肩辺りを押さえてもがき苦しんでいた。
呆気にとられていると後方から足音が聞こえて、私とさほど変わらないくらいの男の子が傍に駆け寄ってきた。


「下がってて。」


私の肩にぽんと手を置いて目の前に庇うように立ち塞がった彼は何か変な物体を手に掲げた。
すると化け物がいきなり青白い炎に包まれたのだ。
凄まじい雄叫びを上げながらすぐに跡形もなく燃え尽きた。

な、何が起こったし。
とにかく助かったのか…?

呆けていたら男の子がすっと手を差し延べてくれた。
有り難く手を取って立ち上がる。


「大丈夫?」

「うん。本当に助かったよ。ありがとう。」


感謝の意を述べると男の子はにこりと笑って、別にいいよ、と照れ臭そうに言った。


「そういえば何で君はここにいるの?俺意外に人がいるからさ、びっくりした。」

「それってどういう意味?待って、私も聞きたい事が山ほどあるの。」





*****





現状把握の為、互いに自己紹介をしてから話を進めていった。
男の子の名前は須田恭也君、彼が言うにはここは私がいた所とは違う不思議空間らしい。
で、あのゾンビみたいなのは屍人という元は人だったけど赤い水とやらが体内に入ってああなるみたい。
その辺は須田君もよく分かってないようだったので、私も深くは考えないようにする。
須田君と一緒に並んで歩きながら今後の事を考えた。


「ねえ、どうやったらここから元の所へ帰れるのかな。」

「うーん、そうだなあ…俺もあんまり分からないから。」

「そっか…。」


須田君が難しい顔をして考え込んでいたが彼自身も帰る方法を探しているのだろう。
気になって尋ねてみたら「帰るより先に俺にはやることがあるんだ」と答えた。
大事な約束があるから、そう続けて言った須田君の顔は決意と何か思い馳せるように感じられた。

本当に私はこんな異様な世界から抜け出すことができるのだろうか。
胃の底がぎゅうっと締め付けられるような感覚がして思わず顔を顰める。
不安気な様子を悟ったのか、須田君が元気づけるように明るく声を掛けてくれた。


「大丈夫だって。来れたんだから絶対帰れるよ!」

「そう、かな?」

「あいつらが襲ってきても俺がちゃんと守るから。安心して。」

「…うん。ありがとう須田君。」


ぎこちなくだけど笑ってそう言えば彼も安堵したようだった。
そうだよね、こんな状況だからこそ気持ちから負けてたらいけないよね。
気合を入れ直した所で前方の草むらがガサリと揺れた。
途端に走った緊張感に体が硬直する。須田君が前に進み出て私を背後に制した。
がさがさと音を立てて姿を現したのは先ほど私を襲ってきた化物と同じだ。
薄汚れた衣服に目から流れる赤いもの。手には刃物が握られていた。
同じく武器を構えた須田君に下がってとアイコンタクトを送られ私は頷き静かに後退する。
後ろに足を一歩踏み出したその時だった。


「え?」


ぽつりとこぼれた声が地上に残る。
踏み出た足は本来あるはずの地面には届かず宙を切った。

足場が無い。

そう思った時にはまた数刻前に体験した様に落下していたのだった。
咄嗟に上を見上げればこちらを覗き込む須田君の顔。私の名前を呼ぶ声が降ってきた。
ぽかりと丸く切り取られたそちらの世界を見上げながら私は引っ張られるように落ちて行った。
須田君の顔がだんだん遠く小さくなって見えなくなる頃、私の意識はぶつりと途切れたのだった。












*****









つめたい。さむい。


瞼を持ち上げれば目に映るのはコンクリートの地面。
ばっと妙に重い体を起こせば何と帰宅途中のいつもの道で私は地べたに倒れていたのだった。
あれ、私どうしてこんな所で眠っていたんだろう。
頭がぼんやりとしていてうまく機能しない。
呆けている私を起こすかのように冷たい風がひゅるりと体を撫でた。
寒い、ぶるりと自分の体を抱くように摩れば何故か制服が汚れていた。
地べたで寝てたとはいえやけに汚れているな、と思ったがすぐに仕様がないかと頭を切り替える。
それにしても何で倒れたんだろう。何かあったように思えるが帰宅途中の前後が全く思い出せない。
疲れていたのだろうか。頭を捻るが分からない。
まあ別段異常は無いようだし、まあいいか。
すぐに頭の中は明日の休みをどう過ごすかでいっぱいになった。

びゅう、と強い風がまたふいた。

ふと目に留まった電柱には行方不明になった男の子を捜しているビラが貼ってあった。
私と同じくらいの男の子。


物騒な世の中になったものだ。









か み か く し









25.4.13