※「そらをおよぐ」の続き













久しぶりに地球にやって来た。
専ら宇宙を飛び回って商いをしているのでなかなか訪れる機会も少ないのだ。
坂本さんと陸奥さんは商談のため着くなり相手先の所へと出かけてしまった。
私はというと船内の掃除をしたり、物資を運んだり整理するのを手伝っていた。
ようやく慌ただしさから一息ついた頃に陸奥さんが帰ってきた。


「おかえりなさい陸奥さん。」

「ああ。ただいま。」

「あれ、坂本さんはご一緒じゃあないんですか?」

「途中までおったんじゃが、仕事が終わった瞬間消えやがった。」


ふつふつと青筋を立てて大層怖い顔で言う陸奥さんに私は苦笑いで返した。
陸奥さんは普段とても優しい方だが怒るとめちゃくちゃ怖い。
頭の坂本さんがふわふわしてるかわりに陸奥さんがしっかりとサポートしている。
いやまあ坂本さんだってやるときはやる……と思う。
やれやれと疲れたようにため息をはく陸奥さんにお疲れ様ですと心から労った。
彼女にしか坂本さんの片腕は務まらないのだ。


「そうだ。、お前もそろそろ休憩がてら町に行ってこい。」

「え、よろしいんですか?」

「ああ。ついでに頭の捜索もしてくれると助かる。」

「分かりました。」


それと、そう呟いてから何やらごそごそと懐から取り出した物を私に手渡した。


「いや、あの陸奥さんこれ銃ですよね。」

「それで頭の脳天に一発風穴空けてきてくれ。」

「何物騒な事言ってんですか。坂本さん終わりますから!強制終了しちゃいますから!」

「冗談じゃ。半分。」

「半分本気なんですか。」

「まあ世の中物騒じゃき、護身用に持っておけ。」

「でも、私そんな銃なんて使えないですよ。」

「下手な鉄砲数撃ちゃ当たるって言うだろう。」


真顔で危なげな事を言う陸奥さんに顔が引きつった。
四の五の言わずに持っておけと押しつけられた。
ずっしりと思いそれに出来れば使うような機会に出くわしませんようにと半ば本気で願った。


「じゃあ、頼んだきに。気をつけて行ってこい。」

「は、はい。」


去っていく陸奥さんにお辞儀をして、ひとつ息をはく。
さて、どこに行こうかな。









*****









久しぶりということもあってか、あれこれ散歩しながらお店を見て回っていたらあっという間に日が暮れてしまった。
その間一応注意して坂本さんがいないか探して見たけれど、結局まだ見つかっていなかった。
それでもどこにいるのか幾つか検討はついている。
地球に戻ってきたら必ずといっていいほど立ち寄っている行き付けの飲み屋さんかキャバクラだ。
べろべろになった坂本さんを何度か迎えに行ったことがある。
とりあえず今いる場所から近いキャバクラに寄ってみることにした。


「え、いないんですか?」

「そうなのよ。さっきまでお連れの人といたんだけどね。」

「あらら、入れ違いですかー。」


おりょうさんがごめんなさいね、と困った顔で謝られたのでとんでもないと慌てて手を振った。


「こちらこそ毎度お騒がせしてるみたいで申し訳ないです。」

「大丈夫よ。こっちも仕事だし、それよりちゃんみたいなかわいい子の手を煩わせている方が許せないわ!」

「そんな全然平気です。あとかわいいなんて勿体ないお言葉です。」


あらあら謙遜しちゃって。
ふふ、ときれいに笑うおりょうさんになんだかむず痒くなって頬が熱くなる。
未だに美人を目の前にするとやけに緊張してしまう。


「で、では、私は坂本さんの捜索に戻りますので!」

「そう、引き留めちゃってごめんなさい。もう暗いから気をつけてね。」

「はい。ありがとうございました。」


手を振るおりょうさんに振り返してからまた駆け出した。
一体うちのお頭はどこをほっつき歩いているのやら。








*****








屋台の提灯の灯りに照らされながら、あちらこちらを見回していく。
すると通りすぎた路地裏に人影がうっすら視界にちらついてもしやと進めた足を戻して覗いてみた。

そこには案の定げろげろと吐いてる人が二人。
片方は探していた張本人の坂本さんだが、もう一人は誰だろうか。
坂本さんと似たもじゃもじゃふわふわした髪をしている。
ていうかこの人もめちゃくちゃ吐いてるし。
うわあ、と若干引きつつも今までだてに坂本さんの介抱をやってきてない。
ふうと息を吐き出してからとりあえず水を買ってこようと近くの自動販売機に向かった。





自販機から戻ってくると坂本さんはまだげろっていたがもう一人の方はまだ青い顔をしてるけど壁にもたれて項垂れていた。
その人に近づいて買ってきた2本のうち1本の水を差し出した。


「大丈夫ですか?水、よかったらどうぞ。」

「へ?ああ、こりゃあご丁寧にどーも。」


その人は受け取るや否やすぐペットボトルの蓋を開けてぐいっと水を飲んだ。
こっちは大丈夫そうだと判断して私は坂本さんの傍へとしゃがみこむ。


「坂本さーん。お迎えに来ましたよー。」

「うっ…わしはまだ死ぬ気はないぜよ……。まだそっちば逝くんは早いき……。」

「そっちのお迎えじゃないです。飲み過ぎで死なれたら陸奥さんにもっぺん殺されますよ。」

「そりゃー困るぜよ。うっぷ、また波が来よった」


おぼろろろ

また鬼のように吐き出した坂本さんの背中を擦って上げていると、ふと視線を感じてそちらを見やった。
例のもう一人のもじゃもじゃさんである。


「何か?」

「えー、アンタあれか?もしかしてって奴か?」

「はい。私はですけど…。どうして。」

「そこでゲロ吐いてる辰馬から聞いた。」

「はあ。」


あ、俺は坂田銀時ね。
そこでようやくもじゃもじゃさん、もとい坂田さん(名前まで似てるとは)の名前を知った私はどうもと軽く会釈した。


「辰馬が言ってたぞ。まだ子どもなのにしっかりしてて助かってるって。」

「…私は大した力になれてませんよ。」

「本人はそう思っててもこいつは思ってるんだろ。」


背中を擦っていた手が止まる。
坂本さんは相も変わらずぐったりしててそれ所じゃなさそうだけど、私は内心驚いていた。
坂本さんがそうやって誰かに私の話をしてたからとかその話が私を誉めてくれてたとか。
色々な感情がふつふつと沸いてきて戸惑った。
そんな私の内情を知ってか知らずか坂田さんは私の頭にぽんと手を置いた。


「ま、にも事情が色々あるんだろうが、辰馬のことよろしく頼むわ。」


頭にやっていた手を懐に伸ばして何か紙を取り出すと私に手渡した。


「万事屋?」

「そ。要は何でも屋ってとこだ。何か困った事あったら何時でも連絡してくれ。金はきっちり貰うけどな。」

「はい。ありがとうございます。」


じゃあな。水ごちそーさん。
片手をふらふらと上げて坂田さんは去っていった。何だか不思議な人だ。
渡された名刺を無くさないようにポケットに直して坂本さんの介抱に戻った。







*****







「うぶっ、まだ気持ち悪いき。」

「だから何べんも言ってるじゃないですか。飲み過ぎて後悔するのは自分ですよって!」

「そんな事言っちょったかぁ?分からんちー。」

「自分にばつが悪い事は忘れるとかなんて都合のいい脳みそですか。」


坂本さんに肩を貸してずるずると船までの帰路を辿る。
大の男を支えるというのは最初大変な思いをしたが、
慣れとこちらに来てから鍛えられたのか今はなんとか運べるまでには成長した。


「あんまり心配かけないで下さい。陸奥さん怒ってたんですからね。」

「怒っちょったがか。」

「激ギレです。」

「アハハハ。それは怖いぜよ。」

「笑い事じゃないですよ。」


からからと暢気に笑う坂本さんにこれはきっと何回言っても聞いてくれないだろうなとため息をついた。
幸せが逃げるぞと茶々を入れてきたのでアンタのせいだよと返しておいた。
ふらつく坂本さんを気をつけて支えながら歩いていると、
お!と耳元で大きな声を出してきたので思わず吃驚してバランスを崩しそうになった。


「ちょっと坂本さん!何ですかいきなり大声出して!」

、上見てみい。」

「上?」


指差す方へ顔を上げれば星がちらほらと瞬いていた。
町並みに切り取られた中でも星は変わらず燦然と輝いている。


「わ、ここからでも結構きれいに見えるもんですね。」

「そうじゃな。あの時と同じせよ。」


あの時。それがどの時かは言わずとも分かった。
私が初めて坂本さんに出会ったあの時だ。


「あの時と比べて今は私が坂本さんを支えてますけどね。」

「アハハハ。まさか立場が逆転するとはおもわんかったぜよ。」


あの頃から随分経ったけど、まだ私はここに立っているし帰り方なんて分からない。
これからだってどうなるのか分からない。


「なぁ、。」

「何ですか?」

は知らない世界へやって来て勿論帰りたいし不安だと思うとる。
 でもわしはにあの時あそこで会ったのも巡り合わせだと思っちょるし、なにより―」


そこで坂本さんは私の方へ向くとにかっと笑った。


と出会えて良かったぜよ。」


ひゅう、と風が私の間をすり抜けた。
坂本さんの言葉がじわりじわりと胸の奥底に広がっていって、
今までずっとどこかで感じていた自分はこのままでいいのかだとか、
迷惑でしかないんじゃないのかというぐずぐずと渦巻いていた感情が一気に吹き飛ばされた気がした。


「私も、坂本さんに会えて良かったと思います。」

「そうか。」


目頭がぎゅっと熱くなって泣きそうになるのをごまかすように顔を上げた。
ちかちかと光る星がやけに眩しい。

いきなり知らない世界へ飛ばされたのはとても不幸で理不尽な事だったけど、
坂本さんや陸奥さん達に会えたことは奇跡的で何よりも嬉しい事だった。
帰れるかどうかは分からないけれど私は精一杯生きていく。

星は変わらず光り輝いている。
きっと私のいた世界でも今も変わらずに。
きっとずっと繋がっているから。

私はこれからも生きていけるだろう。





ま た あ し た



13.9.15